福居良の「Early Summer」を深く聴く
今回のアルバム
Fukui Ryo「Scenery」(1976)
曲目
1. It Could Happen To You 4:16
2. I Want To Talk About You 6:32
3. Early Summer 10:44
4. Willow Weep For Me 7:43
5. Autumn Leaves 6:31
6. Scenery 5:31
ミュージシャン
福居良(p)
伝法諭(b)
福居良則(ds)
前回の続きです
おととい紹介したこちらの曲、調べてみたら、どうやらずいぶん前から有名だったんですね。
恥ずかしながらぜんぜん知りませんでした。
でも、いいものはいいです。
あれからまた10回くらい聴き直しちゃった。
うーん、すごい。何度聴いてもしびれる。
ジャズを聴いてちょうど20年になりますけど、こういう衝撃的な演奏との出会いは、そうそうあるもんじゃないんです。
オーネット・コールマンの「ゴールデンサークル」とか、スティーブ・レイシーの「パリ・ブルース」とか、板橋文夫の「渡良瀬」とか、それこそ片手で数えられるくらい。
今回のこの演奏との出会いは、それくらいの衝撃でした。
あれからこの曲が入ってるアルバム「Scenery」を全部通して聴いてみたんですが、やっぱりこの「Early Summer」が傑出しています。
残念ながら、ほかのスタンダード曲は、これといったおもしろみのない演奏。
福居良自身の曲「Scenery」はいいです。
しかし、なんといってもすごいのは「Early Summer」。
ほとんど奇跡のような出来。
まず、この録音がいい。ちょっとくすんで、コンプレッサーでつぶれた音。
そして、生っぽいドラムスの音(特にスネア)。太いベースの音もいい。
ドラムスは、福居良の弟さんだそうです。
このちょっと古くさい8ビートがいい。そしてせき立てるようなスピード感。
ベースもすごい。かっこいいフレーズを連発。前のめりのノリもすばらしい。
しかしなんといっても福居良のピアノがすばらしい。
こんなにロマンチックで、ハードボイルドで、優しくて、繊細で、力強くて、日本的なジャズピアノはちょっとないですよ。
Youtubeの動画の1:50-2:00のあたりとか、身もだえするくらいすばらしい。
まさに必殺の一瞬!*1
倍テンポのところは、ちょっと指が追いつかなくなってて、そのもどかしさも、また切なさをかき立てる。
どこかに置き忘れてきた大切なものが、すぐそこに、手に届くような気がする。
そんなエモーションをかき立てる演奏なんです。
胸が熱くなる。
そして、清涼な風が吹き抜けるようなさわやかさ。
もうなにもいうことはありません。
音楽を聴くというのはこういうことですね。ひさしぶりに思い出しました。
この人、ピアノを22歳で始めたんだそうです。で、このアルバムを録音したときが28歳。
いまは札幌のジャズクラブのオーナーなんだそうです。最近の演奏も見てみましたが、いいですね。
ぜひ生で聴きたいです。
「Early Summer」は、市川秀男というジャズピアニストの曲のようです。
知らない人だったのでYoutubeで見てみましたが、いいですね。
そして市川秀男が弾く「Early Summer」も見つけました。
ぜんぜん違う曲みたいだけど、このピアノもすごいですね。
こんなユニークなスタイルのピアニストがいたんだ。
改めて日本のジャズの底力みたいなものを見たような気分です。
そして、福居良のこの「Early Summer」のアレンジのすばらしさにも驚くのです。
音楽のミューズが、1976年の札幌に降り立ったのでしょう。
この瞬間を聞き逃すのは、あまりにももったいないと思うのです。
この奇跡の音楽を、ぜひ聞いてみてください。
女の子にもてるとか、もてないとか、今回は問題じゃないよ。
だってこの音楽はこんなに美しい!
*1:ジャズにはときどきこういう瞬間があるんですよ
札幌のジャズピアニスト、福居良にしびれる
日本のジャズのすごさを再認識
うーん、すごい。
こんなジャズピアニストがいたのか。
知らなかったのが恥ずかしい。
このピアニスト、福居良です。
これはすごい。
すごい。思わず10回くらい聴き直してしまいました。
1976年のアルバム「Scenery」の演奏だそうです。
このアルバムのほかの曲もいいですが、この曲が突出してます。
英語のコメントがたくさんついてるけど、みんなビックリしてるね。
すごいすごいって。
日本的な繊細さと情熱。ジャズという形でしか表現できないスリリングな音楽です。
こちらの演奏もすばらしいです。
77年の録音(アルバム「Mellow Dream」)だそうです。
70年代のジャズピアノとして、世界的なレベルだと思います。
日本のジャズのレベルは、当時からものすごく高かったんだなと、改めて認識。
日本人にしかできないユニークなスタイルを持ったミュージシャンがたくさんいたんです。
要するに、知られていないだけなんですよ。
こうして、Youtubeで世界に知られることは、すばらしいこと。
Youtubeという土俵の上では、キース・ジャレットもアマチュアもまったく同じ。
ただ演奏の中身だけで評価される。すばらしいことです。
さいごにこれ。2006年のアルバムだそうですが、哀切で身もだえしたくなるような音楽でしょう。
福居良は、札幌在住で、いまも活動中だそうです。
これは、聴きに行かないと。
Youtubeは著作権侵害だのなんだの言われるけど、この動画がなかったら、ぼくは一生知らなかったかもしれないわけで、存在自体は善だと思いますよ。
もし知らなかった方は、ぜひぜひ、いますぐ聞いてください。
きっと打ちのめされるに違いありません。
ただ、こんな地味なジャズ聴いていても、女の子にはもてないかもね。
ボストンのハードなジャズバンドを聴く
今回のアルバム
デッド・キャット・バウンス「ホーム・スピークス・トゥ・ザ・ワンダリング」
DEAD CAT BOUNCE: Home Speaks to the Wandering
(2004年、合衆国、INNOVA 593)
Matt Steckler(SAX)
Arie Werbrouck(bass)
Bill Carbone(drums)
Charlie Kohlhase(SAX)
Drew Sayers(SAX)
Jared Sims(SAX)
ナクソスミュージックライブラリー http://ml.naxos.jp/album/INNOVA593
ピアノレスでサックス4本
合衆国のレーベルINNOVAは現代音楽のほかに、なかなかいいジャズのアルバムをリリースしてる。
これもよかった。ボストンを拠点にするDead Cad Bounceってバンド。
6人なんだけど、サックスが4本。それにドラムスとベース。
ピアノレスでこの編成は珍しい。
つまりサックスカルテットにリズム隊がくっついてるってわけだ。
サウンドは、エリック・ドルフィーの「アイアン・マン」を思わせる感じ。
ほどほどのアレンジで、自由奔放なアドリブを聴かせてくれる。
ベースもビンビン響く。
アグレッシブで、現代的でカッコイイ。
ピアノレスでフロント(管楽器)が多いと、雑なサウンドになってしまいがち。
でも、このバンドはちゃんとアレンジしてあるから音楽として成立してる。
逆に言えば、ピアノがいるバンドなら、アレンジなんてしてなくたってなんとなく成立してしまうんですが。
ほどよいアレンジがいい感じ。アレンジしすぎるとジャズはつまらんので。
このアルバムは、いろんなバランスがとてもいい感じ。
こういうバンドはなかなかいないですよ。
もっとも、ぼくの好みで、わりとフリージャズ寄りだと思うので、その点はご注意を。
ぼくは好きだな。
もちろん、ということは、こんな音楽を聴いてたら、女の子にはもてないね。うん。
ギルバート&NYフィルのニールセンを聴く
今回のアルバム
ニールセン:交響曲第2番「四気質」, 第3番「おおらかな交響曲」(ニューヨーク・フィル/ギルバート)
NIELSEN, C.: Symphonies Nos. 2, "The 4 Temperaments" and 3, "Sinfonia espansiva" (New York Philharmonic, Gilbert)
(デンマーク、Dacapo 6.220623)
ナクソスミュージックライブラリー: http://ml.naxos.jp/album/6.220623
アラン・ギルバートの力
アラン・ギルバートは、大好きな指揮者。
しかし、彼のすべての演奏がいいわけじゃない。
このアルバムはいいよ。ぴったりハマってる。
ニールセンのシンフォニー2番と3番。
ニューヨーク・フィルとの演奏。
3番もいいけど、2番がすごい。
この曲のこれほどカッコイイ演奏はこれまで聴いたことがない。
硬質で壮大。
たまらない。
かなりおすすめしたい一枚。
しかし、こんな音楽は女の子にはもてないよねぇ。残念だ。
オランダのユニークなミニマル音楽を聴く
今回のアルバム
シメオン・テン・ホルト「カント・オスティナート(2台ピアノ編)」(ハース/ヴィーリンガ)
Simeon Ten Holt: Canto ostinato (Haas, Wieringa)
キース・ヴィーリンガ - Kees Wieringa (ピアノ)
ポロ・デ・ハース - Polo de Haas (ピアノ)
(蘭、Etcetera:ktc1367
(ナクソスミュージックライブラリー http://ml.naxos.jp/album/ktc1367)
NMLにもっとテン・ホルトの曲を!
オランダの作曲家、シメオン・テン・ホルト(1923-)は、ユニークなスタイルの作曲家です。
彼のピアノ曲はミニマル音楽なんだけど、アダムズとかグラスとかとはぜんぜん違う。
機械的な繰り返しじゃなくて、ジャズに近い即興的な変化が、繰り返しのなかでゆらいでいく感じ。
耳にすぐなじむし、ここちいい。
かといって退屈ではなく、コンサートホールで聴いても集中して聴けそうかも、と思ってしまう。
彼の複数ピアノのための作品集は、以前ご紹介しました。
すばらしい名曲揃いです。
ついでに動画でもご紹介しましょう。
うーん、やっぱりいいな。
ところが、ナクソスミュージックライブラリーの膨大なカタログの中に、彼の作品は、たった2枚しか入っていない!
「カント・オスティナート」のハープ版と、今回ご紹介する、2台ピアノ版だけです。
うーん、なんと悲しいこと。
このユニークな作曲家は、もっと知られるべきだと思うのです。
ぜひ、いい録音をたくさん収録していただきたい。
そして、ナクソスミュージックライブラリーで聴けるようになってほしいものです。
世界の独立レーベルのみなさん、そしてナクソスの方に大いに期待しています。
このアルバムに収められているのは、もともと4台ピアノのための「カント・オスティナート」を、2台のピアノ用に編曲したもののようです。
たとえ編曲されても、曲の味わいはほぼ損なわれていません。
悲しげで、美しいメロディに酔うことができます。
未体験の方には、ぜひ聴いてもらいたいものです。
こんなに繰り返しが多いのに、なぜかとても美しいピアノ曲なのです。
ただもちろん、こんなん聴いてても、女の子にはもてませんね。とほほ。
エズラ・ダルフィダンの歌声にしびれる!
今回のアルバム
フィダン 「カウンター・ポイント」
FIDAN: Counter Point
(蘭/Challenge Classics:chr70159)
ナクソスミュージックライブラリー: http://ml.naxos.jp/album/chr70159
トルコからの歌声
トルコ出身の女性ジャズシンガー、エズラ・ダルフィダンEsra Dalfidanをご紹介します。
彼女はドイツで教育を受け、いまはアムステルダムを拠点に活動しています。
まずは動画をどうぞ。
いいでしょ?
このアルバムは、2010年の作品。彼女のバンド「FIDAN」名義になってます。
トルコの伝統的歌唱と現代のジャズが違和感なく融合。
この歌声は衝撃的。
民族の血をすなおに自分の音楽に生かしている。
すばらしい。
精妙なメリスマ(コブシ)にしびれる。
これもまた、りっぱなエスノジャズ(民族ジャズ)だと思うんですよ。
とくにトラック9はすごいです。
「うおお…」と、思わず唸ってしまう。
切れば血が出そうな、生き生きとした音楽。
こういう音楽を聴くとぼくはものすごく元気になります。
頭でっかちの、中身空っぽの音楽なんていらない。
民族の誇りを、自分の素直な感性を音にしてください。
そう願わずにいられない。
音楽に国境はある!だからすばらしいのです。
ぜひ、彼女の歌声の圧倒的パワーに触れてください。
ただもちろん、これは「もてる音楽」ではないです。
でも、それがどうした!!
大澤壽人と大栗裕の名曲を聴く。
今回のコンサート
オーケストラ・ニッポニカ第22回演奏会
「大阪に生まれた作曲家たちによる交響作品展」
2012年9月2日(日)14:30-16:30
(四谷・紀尾井ホール)
清水脩:交響曲第3番(1960)
宅孝二:ロンド・カプリチオーソ〜小オーケストラのための
大澤壽人:トランペット協奏曲(1950)
大栗裕:大阪俗謡による幻想曲(1956年版)(1956/1970)
指揮:寺岡清高
トランペット:神代修
管弦楽:オーケストラ・ニッポニカ
大澤&大栗
オーケストラ・ニッポニカの演奏会に行ってきました。
アマチュアですが、日本の近現代作品を発掘して演奏してくれる貴重な団体。
ぼくはいつも応援しています。
さて今回のプログラムは、関西に関係のある作曲家の特集。
一曲目は清水脩(1911-1986)のシンフォニー三番。
初めて聴く作曲家でしたが、なかなか複雑な作品。
とくべつ印象的というわけではなかったけど、これくらいの曲なら、ナクソスあたりを探せば、いくらでも録音されていそう(英国とか合衆国の作曲家なら)。
ところが、日本だと、初演以来誰も見向きもしないということになる。
情けないったらない。
2曲目は宅孝二(1904〜1983)。名前しか知らなかったです。
これはあっという間に終わった。
さて、3曲目は大澤壽人(1906〜1953)。
このブログでも何度も取り上げました。神戸が生んだ偉大な「忘れられた」作曲家。
トランペット協奏曲は、昭和25年の作品。
このジャンルは、現代ではひどくマイナーな存在。
トランペット協奏曲って、実は(バロックを例外に)ほとんどないんですよ。まして、日本人の作品となると、ぼくは知らない。
彼は合衆国時代に、コントラバス協奏曲(これも珍しい)を書いてるらしい。
大澤の客気というか、新しいジャンルへの強い意欲が感じられます。
面白くないわけがないと思って聴いたら、やっぱり面白かった。
きょうのソリストは、すでに録音もしてるらしい。
アカデミックに洗練された技法と、軽妙さ。
そして高度な技巧を要求する独奏トランペット。
ジャズを基本にした第二楽章があっという間に終わってしまうセンスの良さ。
これはすごい。
さすが大澤壽人。
まいりました。
この曲を眠らせてきたことを、日本人は恥じなければならない。
そしてオーケストラ・ニッポニカに感謝しなければ。
さいごは大栗裕(1918〜1982)の「大阪俗謡による幻想曲」。
この曲、ベルリンフィルと演奏するために、朝比奈隆が委嘱したんだね。
英語のタイトルは「Fantasia Osaka」らしい。
大阪という街の誇りがこもった題名。思わず胸が熱くなる。
この曲はナクソスの「日本作曲家選輯」に入ってる。
下野竜也&大阪フィルの演奏。まずはこれ聴いてほしいな。
日本の、大阪の、メロディとバイタリティと美意識が詰まった、名曲だと思います。
ぼくは生で聴くの、今回が初めてだった。
感動しました。
伝統音楽を堂々とモチーフに使って、明るく元気な管弦楽曲を作る。
ほかの国では当たり前のことが、日本ではなぜか「恥ずかしい」と思われてしまう。
ぼくはそんな傾向に憤りを覚えます。
大栗は、この曲の初演にあたってこう書いたそうです。
「保守反動と呼ばれることも敢えて辞さない古臭い陳腐な祭囃子を使ったことに、私は私のささやかなレジスタンスと、日本の伝統音楽に対する深い尊敬と愛情を含め…」
ぼうぜんとします。民族の伝統美を作品に込めることに、これだけの勇気が必要だったのだのですよ?
自分たちの伝統文化に誇りを持たない民族が、はたして偉大でありうるでしょうか?
ぼくは圧倒的に大栗裕と、彼の「Fantasia Osaka」を支持します。
こんなに美しい曲はない!
この作品は、日本で、世界で、年に何十回も演奏される価値のある音楽だ。
きょうは、貴重な原典版での演奏だったそうです。
オーケストラ・ニッポニカ、ほんとうにありがとう。
次回演奏会も楽しみです。
ただもちろん、こんな音楽を聴いていても、女の子にはぜったいにもてません。