最強のジャズトロンボーンアルバムを聴け!

putchees2004-12-26


本日のCD

Americans Swinging In Paris/Slide Hampton
(旧題)Slide Hampton Quartetスライド・ハンプトンカルテット

ミュージシャン

スライド・ハンプトン"Silde" Hampton(トロンボーンtb)
ヨアヒム・キューンJoachim Kuhn(ピアノpf)
ニールス・ペデルセンNiels-Henning Orsted Pedersen(ベースb)
フィリー・ジョー・ジョーンズ"Philly" Joe Jones(ドラムスds)

曲目

  1. In Case Of Emergency
  2. Last Minute Blues
  3. Chop Suey
  4. Lament
  5. Impossible Waltz

トロンボーンでジャズ?


ジャズトロンボーンと聴いて、どんな人が思い浮かびますか?


え、向井滋春
よく知ってますね。
確かに彼は、日本一のトロンボニストでしょう。


谷啓
そうですね、確かに彼のトロンボーンはうまい。


…みなさん意外によくご存じですね。


世界的にいえば、なんといってもグレン・ミラーでしょうね。


ただ、ビバップ以降のモダンジャズとなると、
やはりJ.J.ジョンソンを挙げなくてはなりません。
彼が、鈍重で運動性に欠けると言われた
トロンボーンのイメージを変えたのです。


まあ、クラシック界でいえば、
クリスティアン・リンドベルイ*1みたいな人です。


その後のジャズ界では、カーティス・フラーCurtis Fullerほか、
たくさんのトロンボニストが活躍しました。


トロンボーンでフリージャズをやっちゃう
ラズウェル・ラッドなんて人もいます。


カーティス・フラー
「ファイブスポット・アフターダークFive Spot After Dark」は、
その昔テレビCMでも使われていたから、
聴いたことがある人がいるかもしれません。


といっても、ジャズトロンボーン自体は、
演奏の困難さからしても、
たいへんマイナーなジャンルです。


バンドのアンサンブルの要ではあっても、ソロを取って、
リーダーを張れるような人が少ないからです。

ジャズトロンボーンの隠れた名盤!


今回紹介するのは、
そんなマイナーなジャズトロンボーンの中にあって、
なんとも男らしい1枚です。


スライド・ハンプトンという、
誰も名前すら聞いたことがないトロンボニストのリーダーアルバムです。


筆者がこれを最初に聴いたのは
高田馬場のジャズ喫茶「マイルストーン」でしたが、
アナログ盤がかかった瞬間に


「うおぉ!」


と耳を奪われたほどです。


「コレ、欲しい!」


というわけで探したものの、アナログはプレミア状態、CDはなく、
長年待ち続けていました。


それが2003年にようやくCD化されて
(ついでに改題&ジャケ変更されて)登場です。
待ちに待ったとはこのことです。


このアルバムがすごいのは、トロンボーン&リズム隊という
「ワンホーンアルバム」だということです。


サックスやトランペットなら当たり前でも、
トロンボーンだけで旋律を吹こうというだけの
男気あふれるトロンボニストはなかなかおりません。


スライド・ハンプトン、なかなかニクイじゃん!


これは聴かないわけには行きません。


さあ聴いてみましょう。CDをプレイヤーに。

音がデカイ!デカすぎる


まずは音圧がすごいです。


要するにCDの音がデカいです。


これ、アナログのときと同じだと思うけど、
はっきりいってコンプレッサーかけすぎ
(ツブしすぎ)なんじゃないでしょうか。


もう少しダイナミクス(音の強弱)を
残しておいたほうがよかったと思うのですが。


ただ、この音圧が迫力をもたらしているのも事実で、
何度も聴くうちに、このアルバムに関しては、
こういうバランスでいいような気がしてきます。


…それにしても音がデカい。


iPodでランダム再生していて
いきなりこのアルバムがかかったら、
多分びっくりして飛び上がります。


ご注意を。

最強メンバーによる最強の演奏!


まあ、それはともかくこのアルバム、
なんといってもメンバーがすごいです。


ピアノは、ドイツの鬼才、ヨアヒム(ジョアキム)・キューン。


ベースは、デンマークの天才、ニールス・ペデルセン


そしてドラムは50年代のマイルス・デイヴィスMiles Davis
クインテットを支えたフィリー・ジョー・ジョーンズです。


こんなメンツでどんな音楽ができあがるか、
たいへん興味深いではありませんか。


このアルバムで聴くべきは、なんといっても一曲目
「In Case Of Emergency」です。


うおお!これ、これ!


劈頭から耳奪われる音の洪水!


アップテンポのマイナーキーの曲です。


ジャズ喫茶にふさわしい名曲です。


スライド・ハンプトンのトロンボーンが雄々しく猛り狂います。


猛烈なスピードとテンションです。


ペデルセンのベースもすごいです。このときなんと23歳!
この男らしい低音は彼ならでは。

実はピアノが一番スゴい!


しかししかし、なんといってもこの曲でスゴイのはピアノです。


まずうなり声がすごい。
弾きながらウンウンうなってます。


キース・ジャレットKeith Jarrettもメじゃない*2


ピアノにボーカルマイクを立てているんじゃないでしょうか。


…と思ったら、途中からうなり声が小さくなります。


たぶん、エンジニアがマイクのボリュームを絞ったのでしょう。


最初から下げておけよ。


しかし、そんなの気にならないくらいモーレツなピアノです。


彼のソロを聴いてください。
どどどーっと、奔流が押し寄せてくるようなサウンドです。


フレーズを弾いているというより、
音の流れを作っているといったほうがいいかもしれません。


ほとんどフリージャズといってもいいくらいです。


ピアノのテンション、ただごとではありません。
そして、このキラキラ輝くサウンドがたいへん美しいのです。


エンディングのテーマでは、
ほとんどバッキングを放棄してグワーっと弾いちゃってます。


…この人、イッちゃってるんじゃないでしょうか。


ヤバイ。そしてスゴイ。


ヨアヒム・キューン、天才です。


このアルバムで聴くべきは、なんといってもピアノ。
(スライド・ハンプトンも相当がんばっていますけど)


ほかの曲もいいのですが、
1曲目があまりにスゴいので、かすんでしまいます。


ジャズトロンボーンといえばこの1枚をお忘れなく。



ただ、こんな男らしいCDを聴いていても、女の子にはもてませんから悪しからず。

*1:スウェーデンのスゴ腕トロンボニスト

*2:キースはピアノを弾きながらうなるので有名。「あのうなり声さえなければ…」とよく言われる。