アストル・ピアソラの10枚組1,460円(税込)也!

putchees2005-01-31


今回のCD

ASTOR PIAZZOLLA 10CD SET
(ドイツ・Membran)

ミュージシャン:
アストル・ピアソラAstor Piazzolla(バンドネオンbandoneon)ほか

CDよ、もっともっと安くなれ!


新宿タワーレコードアストル・ピアソラの10枚組CDボックスセットを買いました。


お値段、なんと1,460円。一枚あたりなんと146円です。


わたしがこれまでに買った最安のCDは、
J.S.バッハJ.S.Bachのオルガン曲全集20枚組2,000円でしたから、
一枚あたり100円。今回はそれには及びませんが、
メチャ安なのは間違いありません。


最近はクラシックをはじめ、いろんなジャンルで
激安CDが大流行りですね*1


価格競争というのは、CD会社にとっては
血を吐きながら続ける悲しいマラソンかも知れませんが、
消費者にとってはたいへん幸せなことです。

音源なんてどうでもいい!ピアソラバンドネオンを聴け!


さて、今回のCDの内容は、イタリアのレーベルからのライセンス音源。
まあ、寄せ集めと言っていいでしょう。


なぜかバンドネオン協奏曲Concierto para bandoneon y orquestaが
各楽章バラバラで収録されていたりして、とても素人にはおすすめできないボックスです。


ボーカル入りのものあり、オケ入りのものあり、キンテートのものありと、
ちゃらんぽらんではありますが、ピアソラの存在感は抜群です。


編成がどうあろうと、録音状態が悪かろうと、どんな曲が入っていようと、
ピアソラの強靱なバンドネオンの音は、それだけで最高のエンタテイメント。


ローマで演ろうと、ミラノで演ろうと、
ピアソラの音は、瞬時に周囲をブエノス・アイレス的な色に染めてしまいます。


ピアソラはタンゴTangoの革命児などと呼ばれましたが、
その音は、圧倒的にタンゴそのもの。


スペイン語と英語とイタリア語を自在に操るコスモポリタンでありながら、
彼はまさにアルゼンチン人そのもの。
彼の音楽はアルゼンチンの(ブエノス・アイレスの)土地に根ざした、
血の通った音楽です。


バンドネオン協奏曲の第一楽章を聴いてみてください。
このほとばしるパトスは、南米人だけが表現しうるものです。
決して、欧州人には作ることができない音楽です。


極めてアルゼンチン的であるからこそ、これだけ世界で愛されているのです。
(それはガトー・バルビエリGato Barbieriの音楽やJ.L.ボルヘスJ.L.Borgesの小説が愛されるのと同じ理由です)


もっともアルゼンチン的なものを作ることによって、
アルゼンチン的なものを超えていったのが、ピアソラの音楽の本質です。

ピアソラコピーバンドがつまんないわけ


自分が何者であるかを知ること、
そして自身の内なるものに誠実であることが、
よいものを作る最大の要件です。


ピアソラの音楽の本質を理解せず、
単に「かっこいいから」という理由で、
スタイルを真似しても、滑稽なだけです。


だってあなたはピアソラ自身ではないし、
ましてやアルゼンチン人ですらのだから。


昨年(2004)の「横濱ジャズプロムナード」というイベントで、
サックスとピアノとヴァイオリンというトリオで、
日本人がピアソラの曲をやるのを聴きましたが、
気の抜けたビールのような、退屈なシロモノでした。


この手のピアソラコピーバンドは、おそらく日本にいま
無数に存在しているのだと思いますが、
そのほとんどは、おそらく彼らと同じようなシロモノでしょう。


仏作って魂入れず。意味を理解せず、ただ楽譜だけなぞっても、
棒読みみたいなもので、人を感動させることはできません。


指がどんなに動いても、テクニックが人を真に感動させることはないのです。
どうも肝心なことがわかっていない人が多いようです。

上滑りな「クラシック風ピアソラ」はごめんだ


クラシック界では一時ピアソラブームで、楽器や編成を問わず
やたらと彼の曲を演奏するのが流行りました。


しかし、ピアソラの曲のほとんどは、一般のクラシックの曲とは違って、
なによりもまず、彼自身が演奏することを前提としています。


いくら彼がクラシックの勉強をしていたからといって、
彼の曲をクラシックの曲のように演奏できるというのは浅はかな謬見です。


ジミヘンJ.Hendrixの曲を他の人がコピーしても別物になるだけで、
同じように、ピアソラの曲を他の人がコピーしても、同じ感動は得られないのです。


ピアソラの曲をクラシックの演奏家が取り上げること自体は否定しませんが、
楽譜通りで同じような感動が得られるかというと、それは100% NO!です。


ピアソラの演奏と同等の感動を与えたいなら、
よほどの卓越した演奏家による創意あふれる演奏でないと難しいでしょう。


あのギドン・クレーメルGidon Kremer(ヴァイオリン)でも、それが達成できているか、
わたしははなはだ疑問です。


なぜなら、ピアソラの音楽はタンゴという民族音楽だからです。
ピアソラの音楽を演奏するというのは、とりもなおさず、タンゴを演奏することなのです。


タンゴを理解できない人には、
永遠にピアソラの音楽は演奏できないでしょう*2


ピアソラの音楽はタンゴなのです。
いや、ピアソラ自身がタンゴなのです。


だからこそ、どんなに革新的なアプローチをしても*3
彼の音楽はタンゴを感じさせるものであり続けたのです。
そんな自明のことがわかっていない人が多いのは、悲しむべきことです。


他人が演奏した劣化コピーではなくて、
なによりも彼自身の唯一無二の音楽を聴いてください。
わたしが書いたことが、瞬時に理解できるでしょう。


最近は女性のファンも多いようですが、ピアソラの音楽は本来竹を割ったような男性的なもの。


男子たるもの、ぜひ、この10枚組を手に入れてみてください。
今すぐタワレコへGO!


ただ、これまで彼の音楽を一度も聴いたことのない人は、
「タンゴ・ゼロ・アワーTANGO ZERO HOUR」とか、
「ニューヨークのアストル・ピアソラCONCIERTO EN EL PHILHARMONIC HALL DE NUEVA YORK」
あたりを最初に聴くことをおすすめします。


もちろん、この10枚組を女の子にプレゼントしてももてませんからご注意を。

*1:日本のポップスのCDは低価格化と逆の方向に向かっているようですが

*2:ただ、まったく違ったアプローチでの演奏なら、可能性はあるでしょう。日本風とか、スペイン風とかね

*3:彼はときにサックスやオルガンを編成に加えました