日本最強!寺内タケシの爆裂ギターはホンモノだ!!

putchees2005-03-08


ああ、モテたいなぁ…。


このレビューが「女にもてない」という言葉を冠しているのは、
裏返せば、本心ではそれだけ「もてたい」と思っているということです。


その本心を自覚しつつ、ある種のあきらめの念とともに、
今回ももてない音楽を紹介します。

今回のCD

世界はテリーを待っているThe World is Wating for "Terry"/正調寺内節
寺内タケシとバニーズTakeshi Terauchi and The Bunnys
(日本・キングレコード1967 / Pヴァイン・レコード2001 ASIN: B00005HSTE)

ミュージシャン

寺内タケシ(ギターg)
黒沢博(ギターg)
輿石秀之(ギターg)
荻野達也(オルガンorg/ヴァイブvib)
小野肇(ベースb)
井上正(ドラムds/尺八)

曲目

【世界はテリーを待っている】
ライダース・イン・ザ・スカイRiders in the Sky
朝日の当たる家House of the Rising Sun
朝日のようにさわやかにSoftly, as in a Morning Sunrise
世界は日の出を待っているThe World is Wating for the Sunrise
モーニンMoanin'
シャインShine
ナイト・トレインNight Train
夕日に赤い帆Red Sails in the Sunset
ブルー・ムーンBlue Moon
スター・ダストStar Dust
ムーン・リバーMoon River
カミン・ホーム・ベイビーComin' Home Baby
【正調寺内節】
勧進帳 佐渡おけさ 娘道成寺 真室川音頭 小諸追分 チャッキリ節
元禄花見踊り ノーエ節 花笠音頭 お江戸日本橋 かぞえ唄 筑波山

やっぱり大統領はエラかった!!


音楽が好きな人なら、寺内タケシの名前くらいは知っているでしょう。
1960年代から現役を続ける「エレキの神様」「エレキ部落の大統領」*1です。


ところが、実際に聴いたことのある人は、
いまの若い人にはほとんどいないでしょう。


なぜなら、カッコ悪そうだからです。


なにしろ、名前が「寺内タケシ」。
(コメディアンかよ…)


でもって、バンド名が「寺内タケシとバニーズ*2
内山田洋とクールファイブかよ…)


そして「エレキ」。
(いまどきエレキはないだろ…)


そして外見がああです。
60年代のグループサウンズですが、タイガースThe Tigersの
ジュリー(沢田研二)のようにかっこよくはありません。
昔の映画に出てくる几帳面なサラリーマンのようです。


昔の日本のポップスを聴くにしても、
どう考えたって、「はっぴいえんど」とか聴いたほうが、
はるかに女の子にもてそうです。


細野晴臣の「風をあつめて」でもコピーしたほうが、
手っ取り早くもてそうです。


「日本のポップスもさあ、70年ごろにここまで進んでたんだよね〜」


とか、ライナーノーツの受け売りを、曽我部恵一の名前とか挙げつつ、
したり顔で解説すれば、女の子もイチコロですよ(たぶん)。


というわけで、「レコードコレクターズ」を読んでいるような音楽マニアを除いて、
現代日本の青少年は、寺内タケシを素通りするのです。

これぞホンモノ!


ぼくもそのようなひとりでした。
そして彼のギターを初めて聴いて、心底悔やみました。


愚かなりしわが心よ!


いやしくも音楽ファンなら、
寺内タケシを聴かないのは、一生の損です。


これぞホンモノ!最高最強なのです。


ジェフ・ベックJeff Beckカルロス・サンタナCarlos Santanaが賞賛しようがしまいが、
そんなことお構いなしに、寺内タケシのギターは圧倒的にすばらしい。


ぼくたち日本人が、競って聴かないで、どうするのですか。
欧米人の評価を知って、初めて聴いているようでは、あまりに情けない。


さあ聴きましょう。いますぐ!
ぼくはこれを聴きました。
「世界はテリーを待っている/正調寺内節」
67年のバニーズのアルバム2枚がカップリングです。
どちらもインストだけのアルバムです。


寺内タケシなんて、しょせんベンチャーズThe Venturesのコピー、
もしくは、60年代のカッコ悪いGSバンドのひとつに過ぎないって思ってるでしょ?


大間違いなのです。


いいから聴いてみてください。
マジでビックリしますから。

このアッパーなテンションはただごとじゃない!


3曲目の「朝日のようにさわやかに」と、5曲目の「モーニン」を聴いてください。
どちらもジャズのスタンダードですが、ここでは8ビートにアレンジされています。


「朝日のようにさわやかに」は、イントロからすごいです。


この、のけぞるような猛烈なグルーヴはどうでしょう。
ドラムがスゴイ。ハイハットがバシャバシャいってゴキゲンです。


しかしもちろん、いちばんスゴイのはギターです。


要所要所で繰り返される印象的なリフに注目。
カッコ悪い。そして最高にカッコいい。
なんとやくざなリフでしょう。自然に体が動き出します。
熱く歌うアドリブもイイです。


最後はリフがこれでもかと繰り返されます。もう最高。


これだけでもじゅうぶんなのに、
極めつけの「モーニン」が待っています*3


このぶっとんだアレンジはどうしたことか。
原曲が、換骨奪胎されて、まったく別の曲になっています。
またしてもカッコ悪い。そしてあまりにカッコいい。


そしてこの曲はアドリブが熱い。熱すぎます。
テンポが崩れるのも、なんのその。
ギャギャギャギャと、寺内御大はエレキを弾きまくるのです。


それにしても、このやみくもにアッパーなサウンドはどうでしょう。


まさに60年代。モーレツで無責任。
赤塚不二夫のマンガや、クレイジーキャッツの映画が思い浮かびます。
「さあいっちょ、ブァーッと行くか!」てなもんです。


はっぴいえんど」の、洗練されてはいるけど、
どこか斜に構えた、スノッブな匂いとはまったく無縁なのです。


カッコつけた「フフフ」じゃなくて天真爛漫の「ガハハ」なのです。
竹で割ったようないさぎよさ。
夾雑物ゼロで、たいへんすがすがしいです。
寺内タケシ、男だぜ!


もちろん、古いものですし、
時代がかって聞こえる曲もたくさんあります。
しかし、これらのサウンドはまぎれもなくホンモノ。
時代を超えた魅力を放っています。


知ってよかった。聴いてよかった、寺内タケシ
みんなそう思うに違いありません。

日本的だからスバラシイ!


さて、これらの曲を聴いて感じるのは、寺内タケシのギタープレイが
あまりに日本的であるということです。


寺内タケシの弾くペンタトニックスケール*4は、
明らかに、サンタナエリック・クラプトンEric Clapton
あるいはジミ・ヘンドリクスJimi Hendrixの弾くペンタトニックとは別物です。


当時の日本人が、西洋的なギタープレイをできるほど、
洗練されていなかったからではありません。


寺内タケシのプレイに含まれる日本的な要素は、多分に意識的なものです。


いうまでもなく日本には、アフロアメリカンのそれとは違った、
独自のペンタトニックスケールの体系があります*5


寺内タケシは、そうした日本の伝統的な音感やスケールを、
ブルーノートスケールの枠組みの中で活かそうとしています。


エレキギターの演奏を、自身の感性に従って、肉声化しようとしているのです。

エレキで民謡だぜ!


CDに併収された「正調寺内節」は、民謡のエレキ&8ビートアレンジです。
これを聴くと、いっそうその確信が深まります。


エレキギターで民謡ですよ?
しかもアルバム一枚丸ごと。


女の子にもてたいと思ったら、そんなこと敢えてやろうという人は、
いまの日本にはぜったいにいないはずです。


でも、日本の民謡って、かっこいいんですよ。
ぼくら若いモンが無視しているだけです。
一流の歌い手が、息の長い旋律を、コブシを回しながら歌うのを聴いてごらんなさい。
鳥肌が立ちますから。


このように、取り上げる素材という点でも、寺内タケシの業績は、
燦然と音楽史に輝くのではないでしょうか。


寺内タケシのギタープレイは、このアルバムで、
あからさまに三味線の音を模倣してみせます。
狭い音域を、ちょこまかと上下するプレイは、伝統邦楽の音の動きそのものです。


勧進帳」や「娘道成寺」での、せわしく、小刻みなギターを聴くと、
感動すら覚えます。8ビートと、ロックバンドの編成で、
これだけしっかりとした日本の音楽をやっているのですから!


そう考えてくると、「朝日のようにさわやかに」や「モーニン」における、
なんだか重心の低い、尻が地面に着きそうなグルーヴの正体が分かってきます。


このグルーヴは、岡林信康いうところの、
「エンヤトット」なのではないでしょうか。


洋楽のリズムではあるものの、微妙にノリが違っているのです。
要するに、日本風に訛っているわけです。
摺り足で、腰を落として踊る、農耕民族のロックなのです。


音階もリズムも、日本化されているというわけです。


これをカッコ悪いなどと思ってはいけません。
だからこそカッコいいのです。


かっこわるいことは、なんてかっこいいんだろう!


いってみればアクが強い。
しかしこのアクの強さこそが魅力であり、
ほかに例のない、オリジナルなサウンドたりうるのです。


サンタナのギターだって、たいがいアクが強くて、くさくてたまらないじゃないですか。
でも、それが彼の音楽の魅力ですよね。


寺内タケシのギタープレイが欧米人にウケるのは、
そのテクニックによってのみではありません。


日本人にしかできない、オリジナルなギタープレイだからです。
コピーより、オリジナルのほうがすばらしいに決まっています。


日本的だからこそ、寺内タケシとバニーズの音楽はこれほど魅力的なのです。

山岡士郎の言葉


唐突ですが、漫画「美味しんぼ*6の中に、こんなセリフがありました。


「当たり前すぎるようですが、
山梨でいちばん美味しいのは山梨の食べ物です。
他県から来た人間が一番食べたいのも、山梨の食べ物のはずです。」
(単行本10巻45ページより)


主人公・山岡士郎は、山梨県内のはやらないペンションの主人に、
上のようなアドバイスを与えます。


たしかにごく当たり前のことですが、
日本人の多くは、こういうことに気が付いていません。


このセリフの「山梨」を「日本」に。
「他県」を「外国」にしてみてください。
そして、食べ物を音楽に置き換えてみてください。


日本でいちばんうまいのは、日本の食べ物なんですよ。
同じように、日本でいちばんすばらしいのは、日本の音楽なんですよ。


たとえば、せっかく日本のロックを聴くのなら、外国人は、
日本の感性で作られたロックを好むに違いありません。


日本らしくないロックなんて、「ふーん、うまいね」でおしまいです。


外人に媚びろといっているのではありません。
外国のスタイルをまねるより、
自分の(日本の)感性で作ったほうが、いいものができるに違いないってことです。


寺内タケシが欧米でウケる理由がわかりますよね?


彼の音楽がかっこ悪いという人は、
肝心なことが見えていない人です*7

尺八で「カミン・ホーム・ベイビー」!


さて、「世界はテリーを待っている」の最後の曲、
「カミン・ホーム・ベイビー」に注目してみましょう。
ベーシストのベン・タッカーBen Tuckerが作曲し、
ジャズフルート奏者、ハービー・マンHerbie Mannの名演ライブ*8
有名になったジャズの曲です。


ここでは、バニーズのメンバーが楽器を持ち替えて演奏しています。
寺内御大はドラムを叩きます。それはいいのですが、
テーマを取るのが、なんと尺八なのです。
吹いているのは、ドラムの井上正。
ブルージーなテーマが、一気にエンヤトットな日本風メロディに変貌します。


いってみれば、ビートルズThe Beatlesの「イエローサブマリンYellow Submarine」が、
金沢明子の「イエローサブマリン音頭」になってしまう瞬間です。


しかし、カッコいいんですよ。これが。


ここに、寺内タケシとバニーズというバンドの娯楽性と凄みを感じます。
日本的に「訛ってしまう」ことを恐れない姿勢*9は、現代の多くのバンド*10にとっても、
たいへん示唆に富んでいるのではないでしょうか。


ぜひみなさんも、エレキの神様・寺内タケシ
すばらしいギターに触れてください*11


しかしもちろん、こんな音楽を聴いていても、女の子にはぜったいにもてません。

*1:これは寺内タケシの著書のタイトル

*2:もしくは寺内タケシとブルージーンズ

*3:この「モーニン」は、前回のレビューで紹介した、アート・ブレイキーのレパートリーです。

*4:5音音階のこと

*5:たとえば、レミソラドレ(上行)〜レシラソミレ(下行)ミファラシレミ(上行)〜ミドシラファミ(下行)などです。

*6:1983〜原作/雁屋哲 作画/花咲アキラ

*7:もちろん好き嫌いはあるでしょうが、音楽としての価値は、好き嫌いとは別のところにあるはずです。

*8:アルバム「Herbie Mann at the Village Gate」(Atlantic/1962)

*9:恐れないどころか、すすんで日本風にアレンジしようとしています。

*10:ジャンルを問わず

*11:ちなみに、バニーズのメンバーである黒沢博は、黒沢年男実弟で、のちの「ヒロシ&キーボー」のヒロシ。