大阪・春一番2005で山下洋輔と河内音頭を聴く!

putchees2005-05-10


今回はライブ報告です

春一番2005
5月5日(最終日)
大阪豊中市服部緑地野外音楽堂
11:00〜20:00

ミュージシャン

南正人
三上寛
山下洋輔トリオ(山下洋輔/森山威男/坂田明
麿赤児
天野SHO
笑福亭福笑
桜川唯丸一座
青木ともこ+伊藤銀次
黒田征太郎
押尾コータロー
キス ミワコ
佐久間順平
中川イサト(田中章弘・林敏明)
三宅伸治
高木克
富岡GRICO義広
トレス・アミーゴス(石田長生/清水興/中村岳)
山中一平&河内オンドリャーズ
(渡辺サトル/ベーカー土居/森巧美/赤江真理子/足立安隆)(河内音頭
キャプテン稲葉と唐津の海賊
For Ghost あぶらなぶり+桑原延享
アーリータイムズストリングスバンド(松田アリ幸一/竹田裕美子/渡辺勝/村上律)
宮里ひろし+杉本Q
坂本ふみや…他
(順不同)

手作りの音楽イベント


大阪で1971年から続くフォークのイベント、
春一番」に出かけてきました*1


会場は、服部緑地*2内にある野外音楽堂でした。


東京で言えば日比谷野音や、上野の水上音楽堂のような感じでしょうか。


座席数は、約2000。ほどほどの大きさで、ゆったりと音楽を楽しむには最適の場所という気がしました。
音響のバランスもたいへんすぐれていました。


コンサート自体は5月1日から全4日間開かれていたのですが、
ぼくが出かけたのは最終日でした。


こどもの日の大阪は、好天に恵まれて、気温もうなぎ登り。
観客席には屋根も何もなく、ぎらぎらした直射日光にさらされていました。
ほとんど真夏のような過酷な環境での、コンサート鑑賞ということになりました。

ステージと客席が親密な雰囲気


この「春一番」、非営利のボランティアによる運営とあって、
商売っ気もなにもなく、質素で、
ほのぼのとした雰囲気がたいへん好印象でした。


客席では、お客さんがビールを飲みながら、弁当を広げて、
だらだらと音楽を聴いています。


ステージでは、ミュージシャンもときどきお酒を飲んだりしています。
中には、ステージにお客さんを乗せて、
一緒に踊ったり歌わせたりしているミュージシャンもいます。


ステージと客席の間のスペースでは、
熱心なお客さんが、かぶりつきでミュージシャンを眺めたり、
踊ったりしています。


「これがオーサカですよ」
と、現地で親しくなったおじさんが教えてくれました。


非営利のボランティアによるコンサートは東京でもありそうですが、
これだけの親密な雰囲気のものとなると、たしかに大阪ならではかもしれません。


ともあれ、たいへん好感の持てる野外コンサートでした。


普段東京に住んでいるぼくが大阪まで出かけたのは、
ひとえに、山下洋輔トリオを聴くためでした*3


坂田明、森山威男という最強の3人による、伝説のフリージャズバンドを
聴きに行ったわけです。


しかし、今回はコンサート自体が楽しいものだったので、
印象的なミュージシャンをピックアップしてレポートしていこうと思います。

フリージャズでモテようとするんじゃないよ!


最初に登場したのは、三宅伸治のバンドでした。
どこかで聴いたことがあるなと思ったら、
3月に、新宿ピットインで、梅津和時*4木村充揮というトリオで聴いた人でした*5


きょうも、たいへん明朗な日本語ロックを聴かせてくれました。


いくつかのミュージシャンがステージに登ったあと*6
たいへん退屈なフリージャズバンドが演奏しました。


ジャズバンドの楽器にサンプラーを加えて、
はやりのクラブ音楽ふうにアルバート・アイラーAlbert Aylerの「ゴーストGhost」を
やっていたのですが、ひとりひとりの楽器の音があまりに未熟な上に、
かっこつけて現代詩とか読み上げたりするので、
とても聴いちゃいられません。
恥ずかしいことこの上ないのです。


どっかのバンドのマネッコだったのでしょうか? ともあれ、
ミソ汁で面を洗って出直してこい、と言いたくなるバンドでした。


頭でっかちでかっこつけてるフリージャズほど恥ずかしいものはありません。
そういう音楽をやるなら、バカにならなきゃダメなのに。

三上寛の歌声を聴け!


次にステージにのぼったのは三上寛で、
くさくさした気分が一気に吹き飛びました*7


彼の歌は、相変わらず、聴き手の心をわしづかみにして放しません。
声も歌詞も絶品です。さすがです。
こういうのを音楽というのです。


ステージ最後の歌は「爆破すべき美術館!爆破すべきではない美術館!」
というムチャクチャな歌詞の繰り返しで、くらくら来ました。
すばらしすぎて鳥肌が立ちます。


三上寛のギターは決してうまくはありません。
しかし、不滅の男・エンケンこと遠藤賢司のギターと同じように、
ソウルで聴かせるギターなのです。


テクニックなんていらないのです。
心があればあれば音楽はできるのです*8
三上寛は、まさしく全身音楽家です。


この日、はっきりと理解したのですが、
三上寛の弾くギターは、津軽三味線のフレージングそのものです。
彼のふるさと、津軽の血がギターを通してほとばしっているのです。


地に根を張った生命力あふれる音楽を作ること。そして自己への誠実さ。
それこそが大切だと、三上寛の音楽はぼくたちに教えてくれます。


ステージが終了して、客席は大喝采です。

山下洋輔トリオ登場!


そして、グランドピアノがステージ中央に運ばれてきました。
その横に組まれたドラムセットには、「Takeo Moriyama」の文字が。
ステージ前に、自然と人が集まり始めます。


午後一時過ぎ、山下洋輔トリオの演奏が始まりました。
72年から75年末までの4年足らずの期間、
鉄壁のコンビネーションを誇り、
日本と欧州を席巻した伝説の3人が、目の前に現れたのです。


曲目は、「キアズマ」と「ミナのセカンドテーマ」の2曲*9
わずか20分ほどのステージだったのが、食い足りない印象でした。


しかし、サウンドは、まぎれもなく黄金の山下トリオの音でした。


坂田明が「キアズマ」のテーマを目まぐるしく奏でるのを*10
森山威男と山下洋輔が、アイコンタクトでぴたりとリズムを合わせるのを、
そして森山威男のスティックが折れて飛んでいくのを、
ぼくはこの目で見ました。


おまけに、麿赤児の舞踏*11に、
アクションペインティングのパフォーマンス付きです。
もうなにも、言うことはありません。


ステージ前の関係者に聞いたところでは、
この3人で演奏するのは、おそらくこれが最後だということです。


だとすれば、たいへん貴重な演奏を目にしたことになります。

上方落語から河内音頭まで!


さて、山下トリオを見て満足したのですが、
つづいては笑福亭福笑による上方落語で、
これまた面白く、「春一番」というコンサートの懐の深さにうならされます。


さらに、すばらしいステージが続きます。
もっとも印象的だったのが、
「山中一平&河内オンドリャーズ」によるステージでした。


正直にいって、山下トリオ以上の衝撃でした。


彼らの音楽は、河内音頭です。
河内音頭について、ぼくはまったく無知でしたが、
どうやら明治以降に河内*12で成立した、盆踊りのための音楽のようです。


このバンドは、ギター、ベース、ドラムス、それにサックス、
三味線、和太鼓という、現代的な編成。


これらの楽器を従えて、ボーカルが、物語風の長々しい歌詞を
えんえん詠唱するというスタイルでした。


3曲披露してくれたのですが、最後の曲は、それこそ30分ほどにわたって、
忠臣蔵」のエピソードを歌い続けました。


ふつうの「音頭」*13や「歌」とはまるで違います。
欧州のバラッド*14や、合衆国のヒップホップやラップに近いものであると感じられました。


大阪の人に聞いたところ、河内音頭は、長いときには、
1時間半から2時間ほども続けられることがあるそうです。


2時間! 衝撃的なことです。


さらに聞くところでは、河内では、24時間ぶっ通しの、
河内音頭のイベントがあるそうです。
すごすぎる!


調べてみると、東京(錦糸町)でも河内音頭のイベントがあるそうではないですか。


俄然、行ってみたくなりました。


とにかく、日本のソウルを、ビンビン感じるのです。
ソウルフルでグルーヴィー、そしてクール!
信じられないかもしれませんが、ほんとうにカッコいいのです。
たまりません。

日本人なら日本のリズムで踊れ!


このバンドが演奏を始めると、ステージ前にお客さんが集まってきて、
最後はみんな輪になって盆踊り大会です。
これがたいへんすばらしい。


みんな、ロックのリズムで踊っているときより、ずっとサマになっています。
「エンヤコラサー、ドッコイセー」と、息もぴったりではありませんか。
見ていると胸が熱くなってきます。


河内音頭のステージを見ていて、改めて痛感しました。
やっぱり、日本人は日本の音楽をやるべきです。
だって、みんないちばん自然なんだもの。


この日の各ミュージシャンのステージを見ていてずっと感じていたのですが、
英語の歌詞を日本人が歌うのは、
やっぱりどうにもカッコ悪いなということです。


ロックバンドのライブに行くとしばしば感じることですが、
「シェゲナベイベ〜」とかなんとか、いい気分になって
歌っている人を見ると、恥ずかしくて、いたたまれなくなってしまいます。


だいたい、英語の歌なんて意味がわかりません。
意味がわからないものを歌っていて、気持ち悪くないのでしょうか?


自分にとって内面化されていないもの(英語の歌)で、
はたしてすぐれた表現ができるでしょうか?
ぼくは甚だギモンです。


そんなものやめて、河内音頭でもやったほうが、
ずっと深みのある表現ができるのではないでしょうか。
だってぼくたちは、日本人なのですから。


この山中一平のバンドは、それこそ、
世界中どこへ出しても恥ずかしくない、すばらしい音楽だと思いました。


ためしに、フジロックフェスティバルあたりに、
このバンドを出してみるといいと思います。
聴衆はみんな、日本のリズムの豊かさに、びっくりしてしまうでしょう。
そして聴いたら最後、踊らずにはいられないでしょう。


「ラテン系は陽気でいいよね〜」とか言ってる半可通の若者*15に、
日本にもこんな能天気なリズムがあるということを
思い知らせてやりたくなります。


海外のジャズフェスとかに出しても、大受け間違いなしです。
「禅」と「わびさび」の、あっさり風味の文化だと思われている日本に、
こんなにしつこくて、くどくて、アクの強い大衆音楽があるのです。
それだけで、欧米人はビックリでしょう*16


山中一平&河内オンドリャーズ、最高です。
ぜひもう一度、お目にかかってみたいバンドでした*17

来年もぜひ開催を!


数多くのバンドが出演して、コンサートは夜の8時にようやく終了しました。
出演したのは、当然ながら大阪の地元ミュージシャンが多かったのですが、
ぼくのような関東の人間は、関西の音楽文化の豊かさを感じることができました*18


春一番」は今年で最後、という噂もあるようですが、
このようなすばらしいコンサートは、ぜひ来年もまた開催してほしいものです。


ボランティアによる運営は、
部外者には想像できない苦労があると思います*19
その苦労を乗り越えて、イベントを成功させた主催者のみなさんには、
感謝の気持ちで一杯です。


大阪まで足を運んだ甲斐があったと思わせるコンサートでした。
ぜひ、みなさんも、来年は足を運んでみてください。
音楽がほんとうに好きな人なら、損をすることはないはずです。


ただ、コンサートを見ながら一日考えていたのですが、
こんなイベントに行ってても、女の子にはぜったいにもてません*20

*1:http://www.hcn.zaq.ne.jp/haruichiban/ 70年代の出演者を見ると、はっぴいえんどからはちみつぱいまで、そうそうたるラインナップです。

*2:現地の人によれば、大阪城公園と並んで、大阪では数少ない大規模の公園。

*3:山下洋輔と彼のトリオについては、以下のレビューも読んでみてください→ id:putchees:20050329 id:putchees:20050411 id:putchees:20050424

*4:梅津和時については、以下のレビューも読んでみてください→ id:putchees:20050320

*5:ちなみに、憂歌団のヴォーカリストとして知られる木村充揮は、この「春一番」の5月2日のステージに登り、その後は、客席で飲んだくれていたそうです。

*6:その中では、押尾コータローという、若いギタリストの演奏が印象的でした。

*7:三上寛については、以下のレビューも読んでみてください→ id:putchees:20050312

*8:「心」という言葉はいささか曖昧ですが、より具体的にいうならば、独自の「サウンド」を作ることができるかどうかが重要なのです。世の中には「サウンド」のないミュージシャンが、あまりに多いからです。

*9:どちらも70年代の3人の代表的レパートリーです。

*10:坂田明は、前日の「春一番」でも、ベースのバカボン鈴木らと、すばらしいステージを繰り広げたそうです。

*11:山下・麿のふたりは、60年代からの共演歴。

*12:現在の大阪府東部の旧国名。河州とも。

*13:東京音頭」とか「ドラえもん音頭」とか。

*14:バラードballadの本来の意味は、物語のある詩のこと。

*15:もちろん、年寄りにも、わかっていない人が多いのですが。

*16:音頭に合わせて輪になって踊る日本人を見たら、外国人は、「日本人のリズム感にはかなわない」って思うに違いありません。ちょうどぼくたちが、サンバを踊るブラジル人に嫉妬するように。日本人は、どうして自分たちがいちばん得意なものを避けて通るのでしょう?不思議でなりません。

*17:このステージについては、以下のブログに詳細なレポートが書かれています→ http://blog.livedoor.jp/ondotec_555/archives/21140016.html

*18:当日一緒にいた地元の音楽好きの方は「東京のほうはライブやコンサートがたくさんあっていいですねー」としきりにおっしゃっていましたが、大阪にも、たいへんすばらしいミュージシャンがたくさんいると感じました。

*19:出演するミュージシャンは、ほとんど手弁当だそうです。

*20:その証拠に、ぼくがこの日仲良くなったのは、おじさまふたりでしたから。