新宿ピットイン40周年コンサートで涙にむせぶ!(その3)

putchees2006-02-04


その2よりつづき


1月21日と22日に
新宿・厚生年金会館大ホールで行われた
新宿ピットイン40周年コンサート
レポートを書いています。


今回はその3回目です。
2日目のコンサートの模様をご報告します。


興味のある方は、その1その2をお読みください
id:putchees:20060128 id:putchees:20060130


ここで、2日目のラインナップを確認しておきましょう。

今回もコンサート報告です


【今回のコンサート】
Shinjuku New Year Jazz Festival 2006
新宿ピットイン 40周年記念


【場所・日時】
新宿・東京厚生年金会館大ホール(ウェルシティ東京
2006年 1月22日(日)13:00〜19:40


【プログラム】
1月22日
●What is HIP?+ ケイコ・リー
渋谷毅 ORCHESTRA
佐藤允彦 plays Masahiko Togashi
●日野皓正 クインテット
辛島文雄 ユニット
●森山・板橋 グループ(森山威男、板橋文夫
渡辺貞夫 グループ

2日目はオーソドクスなジャズ


21日(土曜日)に出演したバンドは、
おおむねヘンテコなサウンドでしたが、
22日(日曜日)のバンドは、
おおむね一般のジャズのイメージに沿ったサウンドでした。


そのせいか、昨日より年配のお客さんが多いようです。


フツウのジャズといっても、退屈なわけではありません。
実際には、2日目のほうがはるかに楽しいステージでした。


以下に、順に見ていきましょう。

フツウのフュージョンとフツウのジャズ


What is HIP? + ケイコ・リー
松木恒秀(G)野力奏一(Key)岡沢章(B)渡嘉敷祐一(Ds)
ケイコ・リー(Vo)


最初のバンドはフュージョンぽいサウンドでした。
初めて聴くバンドです。


ボーカルのケイコ・リーは、有名なシンガーのようです。
ぼくは初めて聴きました。


フツウの音楽です。
ぼくが、こういうバンドにあえてコメントする必要はないでしょう。


普段から音楽を意識的に聴かない人が
ジャズを初めて聴くという場合は、
こういうバンドがいいかもしれません。

渋谷毅のオルガンにメロメロ


渋谷毅 ORCHESTRA
渋谷毅(P)峰厚介(Ts)松風鉱一(Sax)林栄一(As)津上研太(Sax)
松本治(Tb)石渡明廣(G)上村勝正(B)古沢良治郎(Ds)
坂田明(Sax)酒井俊(Vo)


続いては、ピットインを代表するバンドのひとつである、
渋谷毅オーケストラです。


渋谷毅(しぶや・たけし)は力のあるピアニストとして知られています。
かつて小沢健二のレコーディングに参加したジャズピアニストというと、
ああなるほどと思う人が多いでしょう。


それから一時期、渋さ知らズにレギュラー参加していたのを
ご存じの方も多いでしょう。


オーソドックスな4ビートジャズから先鋭的なジャズまでこなす、
たいへん懐の深いピアニストです。


ぼくはいちどだけ、渋谷毅トリオのライブに行ったことがありますが、
そのときはフツウすぎて眠くなってしまいました


オーケストラの音を聴くのは初めてです。
さあ、どんなサウンドなのでしょうか。


おお! かっこいい!!


まぎれもなくジャズですが、
カビの生えたような古くさいジャズではありません。
鋭く、キレのある、それでいて
たいへん温かく、人間味に満ちた音楽です。


だいたい、オーケストラのメンバーからしクセ者ぞろいですから、
通りいっぺんのサウンドになるわけがありません。
それぞれのサックスの音色がてんでばらばらですから、
クラシック流のアンサンブルとしてはまったくダメですが、
ジャズとしては一流の音です。


渋谷毅のピアノもすばらしい。
たいへんストイックで、ムダをそぎ落とした音です。


さらにすばらしかったのは、彼の奏でるオルガンです。
動きを極端に減らして、ひとつひとつの和音を強調するスタイルでしたが、
その厳しい和音の響きにすっかり参ってしまいました。
最高です。


ベテラン・古澤良治郎(ふるさわ・りょうじろう)のドラムも
記憶すべきプレイでした。


一緒に出かけたぼくの友人は、林栄一に注目していました。
彼のアルトは卓越した音色なのです。

日本人なんだから日本語で歌おうよ!


さて、今回はゲストも豪華です。
ボーカルの酒井俊(さかい・しゅん)、
そしてアルトサックスの坂田明(さかた・あきら)です。


酒井俊は、ぼくが例外的にいいと思えるジャズボーカリストです。
彼女は、日本語で日本の歌をジャズで歌うことを知っている、
数少ないボーカリストのひとりです。


日本人のジャズボーカリスト中途半端な英語で歌ったって、
英語のネイティブからはバカにされるだけなのですから、
ぼくは、日本人は日本語で歌うべきだと思うのですが、
どうも、それをわかっている人が少ないようです。


英語の歌を白人ぽく歌うのがかっこいいのだと思っているみたいです。
なんてかっこ悪いことでしょう!


三宅伸治が「Roll Over Beethoven」を
♪ぶっとばせベートーベン!」と歌うように、
ジャズボーカリストも開き直って日本語で歌えばいいと思うのです。


それはともかく、今回の酒井俊は、
残念ながら英語で歌ってました


あはは。


次はまた日本語で歌うのを聴きたいものです。

坂田明の出番は少なめ


さて、もうひとりのゲストです。
坂田明は、テレビタレントとして有名ですが、
実はすばらしいアルトサックス奏者です。


よろしければ過去の記事をお読みください
id:putchees:20050424


ジム・オルークJim O'rourkeとの新譜
「およばれ tetrodotoxin」の発売を記念して、
ついさきごろ、ふたたびピットインで彼との
セッションを行なったようです。
行けなかったのがほんとうに残念です。


さて、坂田明がゲストで登場ということは、
彼のすばらしいソロが聴けるということです。


しかし、わずか2、3分のソロでは、短かすぎました


坂田明の真価は、単独のステージでこそ発揮されると思います。
ぜひみなさんも一度聴いてみてください。


しかし、坂田明の音さえも取り込んでしまう渋谷毅オーケストラの
包容力はたいへんなものです。


聴き応えのある、揺るぎないサウンドでした。

このピアノはうますぎる!


佐藤允彦 plays Masahiko Togashi
佐藤允彦(P)


続いてはピアノソロです。


佐藤允彦(さとう・まさひこ)は、
日本ジャズ界きっての知性派です。


きょうは、盟友・富樫雅彦(とがし・まさひこ)の作品を奏でていました。
佐藤允彦はこのところ、富樫雅彦の作品を
演奏することに情熱を傾けています*1


山下洋輔とキャリアはほぼ同じですが、
ふたりのスタイルはずいぶん違います。


きょうはソロ・パフォーマンスでした。
わずか15分ほどの演奏でしたが、
たいへん力強いタッチで、
理知的でありながらパッションを失わない、
すばらしい即興を聴かせてくれました。

ヒノテルのワンマンショー


日野皓正クインテット
日野皓正(Tp)多田誠司(As)石井彰(P)金澤英明(B)井上功一(Ds)


さて、次はヒノテルこと日野皓正(ひの・てるまさ)の登場です。


ヒノテルは、日本でもっとも有名なジャズトランペッターです。
彼は60年代後半に日本で絶大な人気を誇り、70年代からは
欧州やアメリカでも活躍してきました。


すでに大ベテランといえます。
テレビコマーシャルにもたびたび出演していますから、
名前と顔を知っている人は多いでしょう。


知名度でいえば、ナベサダこと渡辺貞夫と並ぶ存在といえます。
こういう大衆的なビッグネームを敬遠する人は多いかもしれません。


ヒノテルなんて…と、はじめからバカにして聴かない人たちです。
しかし、それはもったいないことです。


かつてのヒノテルの演奏を聴けば、
え、日本にこんなすごいトランペッターがいたの?
と、驚くに違いありません。


まろやかな音から鋭い音まで、
音色をみごとにコントロールする演奏技術は、
アメリカの凡庸なバッパーをはるかに凌駕しています。


惜しむらくは、いちラッパ吹きというレベルを超えられないところですが、
そこまで望むのは酷というものでしょう。


さて、今回のステージでは、
60年代の新主流派を彷彿とさせるサウンドを聴かせてくれました。


ヒノテルのトランペットは、21世紀を迎えたいまも、
ほとんど衰えていません


聴衆を酔わせる、すばらしいサウンドとフレージングです。


惜しいのは、バンドのメンバーのレベルが、
ヒノテルのそれと、あまりに格差が大きかったことです。


ヒノテルの才能だけが突出していて、
バンド全体としては、いかにもアンバランスだったのです。


ワンマンショーとしてはいいのですが、
ジャズバンドのリーダーは、
バンド全体のサウンドを考えなければなりません。


彼に言ってあげたいのは、
もっといいメンバーを集めたほうがいいですよ
ということです。


少なくとも、ヒノテルと同レベルのサックスなり
ピアノがいないと、聴衆をほんとうに納得させることは
できないのではないでしょうか。


それはともかくとしても、
ヒノテルのステージは、一度は聴く価値があると思います。

いちばんジャズらしいバンド


辛島文雄 ユニット
辛島文雄(P)池田篤(As)TOKU(Flh,Vo)井上陽介(B)ジョージ大塚(Ds)


辛島文雄からしま・ふみお)は、
かつてエルヴィン・ジョーンズジャズマシーン
Elvin Jones Jazz Machineの一員として活動したことのあるピアニストです。


この二日間のコンサートの中で、もっとも
ジャズらしい演奏を聴かせてくれたのが、
彼らだったかもしれません。


フロントのふたり*2がいささか弱かったのですが、
高いレベルの演奏だったと思います。


しかし、ぼくがここで、彼らの音楽について
冗語を尽くす必要はないでしょう。


急いで次に行きたいと思います。


次は……待ちに待った板橋文夫・森山威男の登場です!!


(以下、2日目後半レポートにつづくid:putchees:20060205)

*1:富樫雅彦は逆境を乗り越えてプレイを続けた、不屈のドラマーです。2002年に引退しています。

*2:サックスとトランペット。