天才・寺内タケシの「エリーゼのために」で腰を抜かせ!

putchees2006-08-02

夏だ!男だ!音楽だ!


前のレビューから
1か月以上も空いてしまいました。
お詫び申し上げます。


ようやく梅雨も明けて夏全開ですね。
そんな季節にふさわしい音楽をご紹介しましょう。


暑苦しくて男臭い、
もう、最っ高にもてない音楽です。


ぜひ一度お試しください。

これぞニッポンの夏の音!


さて、日本の夏の風物詩といえば、
なんといってもベンチャーズThe Venturesです*1


日本人なら、彼らの音を知らない人はいないでしょう*2


メンバーは、見かけはアメリカ人のようですが、彼らは
人生の半分くらいを日本で過ごしているはずですから、
中身はほとんど日本人のようなものです。


しかも、親から家業を受け継いだメンバーまでいるそうですから、
これぞニッポンの伝統芸能という感じがします。


今年も、みなさんの近所の公民館や市民会館から、
「テケテケテケテケ」と、
景気のいいエレキギターの音が聞こえてくるでしょう。


ニッポンの夏、ベンチャーズの夏。


そんなベンチャーズが初来日したのは、1962年のことでした*3
そのときは、ニッポンじゅうがエレキギターブームに沸きました。


日本でそのブームを後押ししたのは、
おなじみ若大将こと加山雄三*4
エレキの神様・寺内タケシでした。


きょうのレビューでご紹介するのは、
その寺内タケシのアルバムです。

寺内タケシの決定盤!!


寺内タケシのすごさについては、
以前このレビューでご紹介しました*5


67年のアルバム「世界はテリーを待っている」に収められた
「朝日のようにさわやかに」「モーニン」の2曲を聴けば、
彼のすごさはたちどころにわかるでしょう。


ところが、その記事を書いたあとで、
会う人みんなに寺内タケシのすごさを説いたところ、
ほとんどの人が鼻で笑うばかりです。


「ああ、“エレキ部落の大統領”ね」


と、ハナからバカにして取り合いません。


みんな、どうしてこのすごさがわからないのだ!!


ええい、ではこの最終兵器を紹介するか!


その名もアルバム「レッツゴー運命」


あ、いま鼻で笑ったでしょう!?


なんてかっこ悪いタイトルだろうって。


くくく。


あとで吠え面かかないでくださいよ!?


これこそ決定盤。
寺内タケシの、それこそ腰が抜けるような
超絶ギターが聴けるアルバムなのです。


ま、だまされたと思って聴いてごらんなさい。

今回はCD紹介です


【今回のCD】
レッツ・ゴー「運命」Let's go classics
寺内タケシとバニーズ


キングレコード1967)ASIN:B00005F7YW


【曲目】
1.運命
2.白鳥の湖
3.ペルシャの市場にて
4.熊峰の飛行
5.ショパンノクターン
6.剣の舞
7.未完成
8.ハンガリー舞曲第5番
9.カルメン
10.ドナウ川のさざ波
11.ある晴れた日に
12.エリーゼのために

エレキギターでクラシック


このアルバムは、クラシックの名曲
寺内タケシ自身が編曲したインスト集です。


「運命」(ご存じベートーヴェン交響曲5番)や
「未完成」シューベルトの未完成交響曲)が、
8ビートに編曲されています*6


全曲、寺内タケシワンマンショー
とにかく、ソロを取るのはこの人だけ。
寺内タケシ俺様劇場です。


寺内御大は、どんな曲だろうとおかまいなしで
ペンタトニックスケールの能天気なアドリブかまします。


寺内タケシのアドリブフレーズは、
反復が多くて、創意に満ちているとは言い難いのですが、
彼のギターサウンドは、彼だけのオリジナリティに溢れています。


なによりすばらしいのは、アルバム全体にみなぎる、
異様なほどのテンションの高さです。


これほどアッパーな音楽は、
なかなか見つからないのではないでしょうか。


メンバー全員が、
「救心」「ユンケル」でも飲んでいそうです*7

ディープ・パープルも惚れた!?


冒頭の「運命」から、
アドレナリン吹き出します。


「ジャジャジャジャーン!」


と、おなじみのフレーズが始まったところで
思わず笑ってしまいますが、
そのうち笑いがひきつってしまうでしょう。


ドカドカと実に荒っぽいドラムスと、
ザックザックとキレのいい寺内タケシのギターが、
あなたを魅了してしまうはずです。


「これ、マジですごくない!?」


最後にはそうつぶやくはずです。


寺内タケシ自身が語るところによると、
ディープ・パープルDeep Purpleの古典的名曲
「ハイウェイスターHighway Star」で、
リッチー・ブラックモアRitchie Blackmoreが弾いているソロは、
この「運命」のコピーだそうです*8


ホントかよ!

最高!「エリーゼのために


このアルバムには、ほかにも、
リムスキー・コルサコフの超難曲「熊蜂の飛行」
あるいは運動会でおなじみ、
アラム・ハチャトゥリアン「剣の舞」などが収められており、
血管が切れそうな激しいギタープレイを耳にすることができます。


しかし、なんといってもこのアルバムの白眉は
ラストに収められたエリーゼのためにです。


断言しますが、これこそ必殺の1曲です。


ベートーヴェンの美しいピアノ曲
やくざなサイケロックに変貌しています。


「チュイーン」というギターのイントロから、
ドカドカとやかましいスネアが入り、
おなじみのテーマに突入します。


このテーマからして最高です。
気持ちよさに身をよじってしまいます。


さらに、テーマに続くアドリブソロを聴いて、
あなたは腰を抜かすでしょう。
いや、マジで。


ギターの音色も、アドリブも、バンド全体のサウンドも、
ほかの曲とはまるで別次元です。


すごい、すごすぎる。


これが、1960年代の日本のGSバンドの音楽なのか!?


この曲を聴いている間、あなたの頭から
寺内タケシというローカルな名前は消え去ってしまうでしょう。


そしてあたかも、
エリック・クラプトンEric Clapton
ジミ・ヘンドリクスJimi Hendrixなどといった
ギターの巨人たちのプレイを聴くときと同じ気分になるはずです。


聴いていると、頭にカーッと血が上ってきます。


クーッ、こらたまらん!


さらにラスト。
ブレイクのあとで始まる
寺内タケシのアドリブソロのすごさときたら。


ああ!


もうどうにでもして!!


もはや失禁寸前です。


なんてすごい演奏なのでしょうか。


寺内タケシのギターもすごいのですが、
荒々しいドラムスをはじめとする、バンド全体の醸し出す
サウンドのすばらしさに感じ入ってもらいたいと思います。

ギターの巨人たちも惚れた!


このアルバムは、全曲インストということもあって、
当時の西ドイツでリリースされたようです。


おそらく、ジェフ・ベックJeff Beck
カルロス・サンタナCarlos Santana*9は、
この「エリーゼのために」を聴いて、
寺内タケシのギタープレイに惚れ込んだのではないでしょうか。


1967年と言えば、
ビートルズBeatlesが「サージェント・ペパーズSGT Pepper's」を
クリームCreamが「カラフル・クリームDisraeli Gears」を、
さらにジミヘンが「ボールド・アズ・ラブBold as Love」を発表した年。


寺内タケシのこの演奏は、
極東で孤立した時代錯誤のサウンドではなく、
そうした欧米でのポップミュージックの革新と
まったく同時代的なものと聞こえます。


そして、真にすばらしい音楽だけが持つ、
時代を超越した輝きに満ちています。


いまなお、最高にカッコイイ音楽として、
世界中で信奉者を増やしつつあるのです。

この1曲のために買え!


ともかく、この「エリーゼのために」は、
まさに夏の炎天下を思わせる、暑苦しくも男臭い音楽です。


この1曲のためにCDを買っても絶対後悔しません。


これを聴いて、まだ寺内タケシをバカにする人がいたら、
見てみたいものです。


100円賭けてもいいです*10


寺内タケシとバニーズの「レッツゴー運命」は、
音楽好きなら、聴かずに済ませるわけにはいかない
決定的な一枚です。


いいから聴け!そして悶絶せよ!


と、きょうはいつもより強く主張して締めくくりたいと思います。


ただ、こんなん聴いていても、
女の子にはぜったいにもてませんからそのつもりで!


(この稿完結)

*1:異論はありそうですが、いいからほっといてください。

*2:万が一知らない人は、お父さんに訊いてみてください。

*3:ちなみに、今年で52回目の来日公演になるそうです

*4:東宝映画「エレキの若大将」の公開は1965年。

*5:過去の記事はこちら→id:putchees:20050308

*6:それぞれ、たいへんよくできた編曲で、寺内タケシの音楽的教養の深さが感じられます。

*7:決してマリファナ覚醒剤をやっている感じのアッパーさではありません。そのへんが、いかにも健全で日本的です。

*8:そのことを寺内タケシに伝えたのは、ジェフ・ベックだったといいます。

*9:そしてひょっとするとジミヘンも。

*10:100円とはセコい。