チャーリー・パーカーの危険なサックスの音を聴いてみよう(前編)

putchees2006-10-22


激安ボックスセット


きょうはチャーリー・パーカーのCDをご紹介します。
ドイツのメンブラン社から出ている
10枚組1200円のボックスセットです。


や、安っ!


安いからと言ってバカにできない内容です。


彼の代表的な録音(たぶん)の中から
セレクトされているのです。


チャーリー・パーカーといえば、
ジャズに興味のある人なら、誰でも知っているビッグネーム。
気になるボックスセットではありませんか。

今回はCD紹介です


【本日のCD】
「Now's the Time」(CD10枚組)
(独membran/documents 2005)


【ミュージシャン】
チャーリー・パーカーCharlie Parker(アルトサックス)他

モダンジャズの開祖


さてさて、チャーリー・パーカー(1920-1955)は、
モダンジャズの開祖とでもいうべき人です。


モーレツなスピードで複雑な即興演奏を行う
スタイルを完成させたアルトサックス奏者です。


ジャズにおける即興演奏は、
彼が登場する前から行われていましたが、
それほど複雑なものではなく、
音楽の中心的な要素ではありませんでした。


ところが、1940年代中葉(第二次世界大戦末期)に
現れたチャーリー・パーカーは、
即興演奏をジャズの代名詞にしてしまいました。


テンションや代理コードなどを用いた高度な和声進行の上で、
まるで流れるようにアドリブフレーズを演奏する
彼の姿に、合衆国の人々は目を見張りました。


ジャズという音楽がそれまでと別のものに
生まれ変わった瞬間でした。


彼の登場によって、ジャズは大衆音楽から、
芸術音楽への道を歩み始めるのです。

実は誰も聴かない!?


そんな偉大な人物、チャーリー・パーカー


しかし、彼の音楽を好んで聴く人は
そう多くありません。


ジャズ評論家の中山康樹によれば、ジャズのCDには
「すぐ聴く派」「いつか聴くかもしれない派」
2種類があるそうです。


前者の代表はマイルス・デイヴィスMiles Davis
ビル・エヴァンスBill Evans
後者の代表はデューク・エリントンDuke Ellington
コールマン・ホーキンズColeman Hawkinsなどだそうです。


うまいことをいうものです*1


チャーリー・パーカーは間違いなく
後者の代表選手のひとりです。


なんだかエラそうだし、名前は知ってるけど、
実際CDを買って聴くことはないというタイプのミュージシャンです。

お勉強のためのジャズ


思うに、パーカーの音楽を一生懸命聴いているのは、
ジャズを学ぶ学生くらいのものではないでしょうか。


しかも、彼らの大半は、
娯楽としてではなく、教科書(あるいはお手本)
として聴いているはずです。


いまも昔も、パーカーの残したアドリブフレーズを
コピーすることは、すべてのジャズ学生の基本中の基本です。


しかし彼らは、先輩や先生が
「まずはパーカーのコピーから」というので、
「ナウズ・ザ・タイムNow's The Time」や
「コンファメーションConfirmation」のコピーを
なんとなくやっているだけなのです。

ホントに好きなの!?


だいたい、チャカチャカしたパーカーのプレイは、
聴いていてさほど面白いものではありません。


経験的にいうと、30分も聴いていると飽きます。


パーカーよりも、
キャノンボール・アダレイCannonball Adderley
フィル・ウッズPhil Woodsリー・コニッツLee Konitz
などのほうが面白いに決まっています。


だからぼくは、昔から
「心からパーカーが好きだ」という人に会うと、
なんとなく信じられなくて
「ほんまかいな」と、疑いの目を向けてきました。

改めて聴いてみると…


さて、そんなパーカーの音楽を、
今回ぼくは生まれて初めて、
まとまった分量、つづけざまに聴きました。


この10枚組のCDは、
雑多な録音セッションからまとめられていますが、
パーカーのキャリアの絶頂期の記録です。


これだけ聴けば、彼の音楽がどのようなものであったか、
おおよそ理解できます*2


そして意外に面白く感じたことを告白します。


なるほど、チャーリー・パーカーの音楽というのは
こういうものだったのか。


改めて発見したことが多かったのです。

パーカーの音色


彼の音楽を聴いて、
いくつかのことに気がついたのですが、
まず、以下のふたつのことに感心しました。


第一に、音色
第二に、スピード感です。


もちろんアドリブフレーズもいいのですが、
パーカーのアドリブのすばらしさは、
いまさら言うまでもないことです。


楽譜に起こされたものを見れば、これが
即興で作られたものだとは到底考えられないでしょう。


しかし、フレーズよりもすばらしいのは、
なんといってもパーカーの音そのものです。


古い録音ですから、決して明瞭ではありませんが、
マイクの向こうで鳴っている音がどのようなものかは、
じゅうぶんに想像できます。


びっくりするほど明るく、鋭く、速い音です。


マイルスが自叙伝の中で
「バードほど大きな音で、軽く、速く吹けるヤツはいなかった」*3
といった意味のことを述べているとおりです。


毎度ぼくが書いていることですが、
ジャズミュージシャンにとってもっとも大切なのは
個性的な音色を確立することです。


その点で、パーカーの音色はぬきんでています。


(以下、後編につづく→id:putchees:20061025)

*1:実際ぼくのCD棚にも、マイルスやエヴァンスはたくさんありますが、エリントンは2枚くらいしかありませんし、コールマン・ホーキンズに至っては聴いたことすらありません。

*2:できるような気がします。

*3:バードBirdというのはパーカーのあだ名。マイルスの自叙伝は、いま、ぼくの本棚のいちばん奥に隠れているので、とりあえず正確な引用をすることができません。