ラカトシュの超絶ジプシーヴァイオリンを聴く!

putchees2007-03-31


ヴァイオリン奏者の来日公演


今回はコンサート報告です。


初台のオペラシティで
ジプシーヴァイオリンを聴いてきました。


ハンガリーのヴァイオリニスト、
ロビー・ラカトシュ率いる、
ラカトシュ・アンサンブルの日本公演です。


http://www.robylakatos.com/biolakatos.htm


CDは聴いたことがありませんが、
チラシを見て、これは面白いに違いないと思いました。


思った通り、すばらしかったです。
そのレポートを書きます。

今回はコンサート報告です


【今回のコンサート】
ラカトシュ・アンサンブルLakatos Ensemble


【日時】
2007年3月22日(木)19:00〜21:30
東京オペラシティコンサートホール(初台)


【ミュージシャン】
ロビー・ラカトシュROBY LAKATOS(ヴァイオリン)
ラースロー・ボーニLASZLO BONI (第2ヴァイオリン)
フランティシェク・ヤーノシュカFRANTISEK JANOSKA(ピアノ)
イェヌー・リステシュJENO LISZTES(ツィンバロン)
ローベルト・フェヘールROBERT FEHER(コントラバス
アッティラ・ロントーATTILA RONTO(ギター)

現代のスーパーヴァイオリニスト


ロビー・ラカトシュは、ハンガリー生まれで、
ジプシーとしてのアイデンティティを持つ
ヴァイオリニストです*1


伝統的なジプシーヴァイオリンと、
正統的なクラシックの技法を極めています。


現代の名手として、
世界中で喝采を浴びているそうです。
今回は、自身のバンドを率いての来日です。


バンドのメンバーは6人で、
ヴァイオリンふたり、ピアノ、コントラバス
ギター、それにツィンバロンです。


地元ハンガリーと、お隣のスロヴァキア生まれの
ミュージシャンで構成されています。
メンバーのうち3人は、まだ20歳そこそこという若さです。


クラシック用のホールでの演奏ですが、
生音ではなくて、マイクとPAが使われています。
客席は7〜8割程度の入りという感じです。

ジプシー音楽+ジャズ


ステージが始まりました。
音楽の内容は、
ジプシー音楽とジャズのハイブリッドという感じでした。


メンバー全員でテーマを奏でたあと、
各メンバーにソロを回していきます。
ソロの部分は即興で、曲調によっては完全にジャズになります。


もちろん主役はロビー・ラカトシュのヴァイオリン。
予想通りでしたが、予想以上にすばらしい。
まさに超絶技巧


どんな速い曲でも、
ずっと32分音符で弾きまくっているような人でした。


ほかのメンバーもスゴ腕。
おそらく全員、クラシックの技法を完全に身につけた上で、
こういう即興性の高い音楽をやっているのでしょう。
実に正確無比
ジャズ出身のミュージシャンと違って、
ルーズなところが全くありません。


ピアノもコントラバスも、
ヨーロッパの香りがするサウンドを聴かせてくれました。

超絶のツィンバロン


なかでもスゴかったのは、ツィンバロン
ハンガリーの民族楽器です。


(ツィンバロン)


ぼくは先日、クラシックのコンサートで
この楽器を聴きましたが*2、きょうの演奏は、
そのときと同じ楽器とはとても思えませんでした。


イェヌー・リステシュは、ふたつのマレットで、
ヴァイオリンに負けないような猛スピードで、
あのムツカシそうな楽器を弾きまくってくれました*3


ヴァイオリンとツィンバロンが
デュオで猛スピードの即興を繰り広げるところでは、
鳥肌が立ちました。


はたして人間にこんなことができるのか? と、
疑わしくなるほどでした。


まさに最高の見せ物。名人芸の固め打ちです。

ステージは見せ物である


彼らの演奏を見ていると、ステージというのは、
なによりまず「芸」であるという基本を思い出します。


「技術じゃなくてハートが大切だ」というのは
間違いではありませんが、それをいいわけにして、
ろくな「芸」もないミュージシャンが、しばしば
いっちょまえの顔をしています。


ラカトシュ・アンサンブルの演奏を見ていると、
ステージに立つ者に求められるのは、まず完璧な技術であり、
見せ物としての「芸」なのだということを痛感します。


もちろん、ラカトシュ・アンサンブルは、
その上で音楽性が豊かなのがすばらしい。


曲ごとに聴衆の心をつかんで、
昂揚させていくことができるのです。
客席からは大喝采でした。


パーカッションがいないのに、
リズムの快感に酔いしれることができました。
これはすごいことです。
メロディ楽器だけで、
ダンスのリズムを作り出すことができるのですから。


ぼくの好きなタイプの音楽です。
びんびんきました。

伝統に根ざした音楽のすばらしさ


ラカトシュは、ジプシー音楽の伝統を根っこに、
自分の音楽性を広げているようです。


民族音楽はローカルなものですが、
こうして異国の地でも大喝采を受けるのです。


「民族性に根ざしたものだけが、世界的な普遍性に達することができる」


という、伊福部昭の言葉を改めてかみしめるステージでした。


もしも日本人が彼らの音楽をマネしたとしても、
人を心から感動させることは決してできないでしょう。


なぜなら、日本人にはジプシー音楽の根っこがありません。
根無し草の音楽にしかならないからです。
そんなものは、風が吹けば飛んでしまいます。


もしも彼らの演奏に感動したのなら、
ぼくたち日本人は、自分たちの伝統に根ざした
音楽のありようを模索していくべきでしょう。


今回の客席には、ヴァイオリンを持った人が大勢いましたから、
そのことを肝に銘じてもらいたいものです。

ヴァイオリンを持った超人


アンコールは3曲で、
日本の伝承曲「さくら」と、
ブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」、
それにハチャトゥリアンの「剣の舞」でした。


折しも、桜の咲くころです。
ヴァイオリンが奏でる「さくら」のメロディに、
涙が出そうになりました。


デリケートさと炎のような激しさを弾き分けることができる
ラカトシュは、まさにヴァイオリンを持った超人です。


みなさんもぜひ一度、彼のステージを見てみてください。
きっと、CDではこのすごさは伝わらないと思いますから。


とにかく、たまげます


もっとも、こんな音楽を聴いていても、
女の子にはまず、もてないでしょうねぇ。


(この稿おわり)

*1:水谷驍によれば、ジプシーという単語を「ロマ」と機械的に置き換えるのが“政治的に正しい”という考えはまちがいだそうです。ここでは「ジプシー」で通します。

*2:新響が演奏した、コダーイの「ハーリ・ヤーノシュ」。詳しくはこちら→id:putchees:20070206

*3:彼はツィンバロンと持ち替えで、ヴィブラフォンを弾いていました。そちらもうまかったです。