広上淳一指揮の「涅槃交響曲」を聴く

putchees2012-03-10


コンサート報告です


【今回のコンサート】
東京フィル第812回サントリー定期シリーズ
2012年3月9日:サントリーホール(赤坂)


【ミュージシャン】
指揮:広上淳一
合唱:東京混声合唱
管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団


【曲目】
黛敏郎(1929-1997)
・トーンプレロマス55
・饗宴
・BUGAKU(舞楽
・涅槃交響曲

日本の天才作曲家


東京フィルの定期演奏会に行ってきました。


指揮は広上淳一
曲はすべて黛敏郎の作品。
20世紀日本が生んだ天才作曲家。


いかないわけにはいきません。


金曜日のサントリーホールは6割くらいの入り。
うーん、お客が少ないな。


でも、演奏はすばらしかったですよ。


まず「トーンプレロマス55」。
黛敏郎26歳のときの作品。


以前も聴いたことがあったけど、まるで別の曲みたいだった。


打楽器と管楽器だけ。
編成も曲調もまさしくエドガー・ヴァレーズふう。


ぐわーん、ばーん、とやかましい音響が炸裂。
それだけなら単にヴァレーズのエピゴーネン
しかしこの曲は、なぜか突然、陽気なマンボふうになる。


広上淳一が踊るように指揮する。
おお、オケものってるのってる。


とってもポップじゃないの。
ふたたび無調の音響へ回帰しておしまい。
黛はヴァレーズなんかよりよっぽど才能があるね


金管がとにかく元気がいい。
熱のこもった演奏です。


2曲目は「饗宴」(1954)。
黛25歳の作品。


この曲も、以前東京シティフィルの演奏で聴いたことがあったけど、まるで別の曲のように聞こえた。
無調と調性の境界を行ったり来たりするあやうい響きがなんとも心地よい。


そしてオーケストラが轟音を鳴らすというごくシンプルなおもしろさを純粋に楽しめる。


レナード・バーンスタインが何度も演奏したらしいけど、それに値する佳作だと思ったね。


そして「BUGAKU」(1962)。
バレエ音楽なんだけど、雅楽がモチーフ。
これがすごかった。


実演で聴くのは初めてだった。
どの録音よりすばらしい演奏でした。


雅楽の響きをみごとに西洋オーケストラに置き換えて、力強く気高い音楽に仕上げている。


冒頭、弦が雅楽の音取り(チューニング)を再現するところから、もう陶然となる。
ヴァイオリンがときに笙のように、ときに篳篥のように響く。
そしてチェロのピチカートが、まるで雅楽の箏のように響く。
そしてピッコロが龍笛のように響く。


これはまさしく雅楽。そしてまぎれもなく黛敏郎の音楽。
魔法のようなオーケストレーション
なんとユニークでヴァイタリティあふれるサウンドだろう。


そして曲のポテンシャルを100パーセント引き出す東フィル&広上淳一の演奏。


思わずブラヴォーと叫んでしまった。


黛敏郎の天才に興奮しきり。
まったく、なんて作曲家だ。

「涅槃」は座席が問題


後半は「涅槃交響曲」(1958)
黛敏郎の代表作。
20世紀音楽の金字塔。
こんなものを29歳で作るなよ。


前回、下野竜也&読響の演奏で聴いたときはほんとうに信じられない名演でした。今回もすばらしかったと思います。


広上淳一は、前半の演奏で見せたパワフルな音響をそのまま「涅槃交響曲」でもやってくれました。


ソリッドでパワフル。神秘的な感じではない。
ぼくはなんとなくショスタコーヴィチの13番とか14番あたりの雰囲気を思い浮かべました。


すごくよかったと思う。
しかし、ぼくは座った場所が悪かった。


この曲はオーケストラの一部が客席後方に配置されるんですが、ぼくの目の前がそれだったんですよ。


だから、音のバランスがめちゃめちゃになりました。
ずっとチューバとバストロンボーンの音ばかり聞こえてました。


だから、ちっとも集中できなかったんですよ。
とほほ。


教訓:「涅槃交響曲」では座る場所をよく考えろ。


しかし、きょうは改めて黛敏郎という作曲家のすごさと、広上淳一という指揮者のよさを認識しました。


広上淳一は、音楽に対してとても誠実な指揮者なんだと思う。
あの鼻息は、その誠実さの表れだと思うんだ。
だから許してあげようね。


ともあれ満足の演奏会でした。
東京フィルの演奏もあっぱれだった。


プログラムも充実していて、英語の解説もきちんとしていて、いいと思ったね。
だって外国の人にも聴いてほしいもの。


もっともっと、日本の作曲家の作品をとりあげる演奏会が増えてほしいものです。


ただもちろん、こういう曲はデートにはぜんぜん向かないので、どうぞお気をつけて。