アコーディオンで弾くバッハに驚く
今回のCD
「J.S. バッハ:イギリス組曲第2番, 第3番, 第5番(ディメトリーク)」
BACH, J.S.: English Suites Nos. 2, 3 and 5 (Dimetrik)
(オーストリア・Gramola Records 98819)
ミュージシャン:
ヴォルフガング・ディメトリーク Wolfgang Dimetrik (アコーディオン)
(ナクソスミュージックライブラリー)
http://ml.naxos.jp/album/Gramola98819
息づかいが聞こえる楽器
アコーディオンは不自由な楽器という印象です。
なにしろでかい。
大型のピアノアコーディオンだと10キログラム以上あるんですよね?
それに蛇腹を自分で動かさなくちゃならない。
しかも、鍵盤にさわれるのは片手だけ。
片手はボタンでベースかコードを演奏するわけですよね。
据え置きのオルガンにくらべて、なんと不自由なことか。
(オルガンなら、両手に加えて足まで使えるし)
ぼくはちょっと触ってみて、これはダメだ自分には演奏できないと思いましたね。
しかし世の中にはすごい人がいるもので、今回ご紹介するCDでは、バッハのイギリス組曲をアコーディオンで弾いちゃってる。
ただ、クラシックのアコーディオンのアルバムって、感心した覚えがない。
言葉は悪いけど、不自由な楽器でご苦労さんよくやったね、という以上の感想にならない。
これもつまらんかなあと思って聴いたわけです。
このアルバムのアコーディオン奏者はWolfgang Dimetrik。
1974年オーストリー生まれだって。
もちろん原曲そのままでは演奏できないから、この人自身が編曲してるんだけど、これがいいんだわ。
まず編曲によって響きがシンプルになって、構造がすっきりするってこと。
しかし、なによりいいのは、「息づかい」が聞こえてくるところ。
もちろん、アコーディオンは管楽器じゃなくて蛇腹楽器だから、奏者の息づかいなんて聞こえないわけです。
では何か。それはアコーディオンそのものの「息づかい」。
つまりアコーディオンって蛇腹を動かすでしょう、それって、楽器の呼吸、つまり息づかいだと思うんですよ。
このアルバムを聴くと、アコーディオンが息継ぎをしながらフレーズを奏でているのがわかる。
(実際にはプレイヤーが蛇腹を動かしてる)
それが、まるで生きているように感じられるわけです。
あたかも管楽器でバッハを吹いているように聞こえてくるんです。ほんとです。
聴き慣れたバッハが、まるで別の生命を得たように響くんですよ。
これは新鮮ですよ。いや驚いた。
アコーディオンという楽器の音を聴いて、そんなふうに思ったのは初めてです。
(これまでは、不自由さばかり感じていたので)
オルガンよりはるかに面白い。
アコーディオンならではの面白さってものをぼくは初めて知りました。
この感じは、実際に聞いてもらえたらわかっていただけると思います。
編曲も見事なんだと思うし、演奏も見事。
じっさい、どうやってアコーディオンで弾いてるのか想像もつかない。
キワモノかなと思ったら、いい方に裏切られた。
こういう出会いが楽しいんですよね、音楽は。
アコーディオンによるバッハ、ぜひ一度おためしください。
ただもちろん、こんなのを聴いてても女の子にはもてないけどね!