セシル・テイラー最高の集団即興演奏を聴く
今回のCD
セシル・テイラー「ダーク・トゥ・ゼムセルヴズ」
Cecil Taylor : Dark To Themselves
(ドイツ、Enja 2126)
(ナクソスミュージックライブラリー)
http://ml.naxos.jp/album/ENJ-2126
来日公演中止
来週16日と17日、青山のブルーノート東京でピアニスト、セシル・テイラーの来日公演(リサイタル)が予定されていたのですが、キャンセルになってしまいました。
がっかりです。
まあ、83歳のご高齢なので、やむを得ないことではあります。
わざわざブルーノート東京からキャンセルお詫びの電話がありました。
すごいですね。誠実さに頭が下がります。
セシル・テイラーこそは、ジャズの生ける伝説。
ジャズミュージシャンの中で、ただひとり芸術家と呼ぶに足る人だと信じています。
しかたないので、セシル・テイラーの過去の録音でも聴くことにしよう。
グループによる最高傑作
「Dark to Themselves」は、1976年の録音。
リュブリャナのジャズフェスでのライブ演奏です。
いまはスロヴェニアの首都、当時はユーゴスラビアの都市ですね。
このジャズフェスには、1974年に山下洋輔も出てたよね。
このアルバムがすごいって教えてくれたのは中山康樹さんの本です。
聴いてみたらやっぱりすごいよね。
セシル・テイラーは、どの時代もすごい演奏をしているけど、クリエイティビティのピークは、70年代の中葉だと思う。
ずっと前に紹介した「サイレント・タンSilent Tongues」も、74年の録音だもんね。
「サイレント・タン」が、ソロによる最高傑作だとすると、こちらはグループによる最高傑作。
説明するのもばからしいけど、中山康樹が「即興演奏としてのジャズの頂点に位置するアルバム」というようなことを書いていて、まさにその通りだと思う。
特筆すべきは、録音のすばらしさ。
各楽器のレベルが絶妙のバランス。
フリージャズって、録音がすごく大事だと思うんですよ。
Enjaの録音は、その点がいい。
山下洋輔の「クレイClay」も、アーチー・シェップArchie Sheppの「Steam」も、録音が抜群だもんね。
悪い例ではセシル・テイラーの「アキサキラAkisakila」。演奏はすごいのに、ドラムスの音が大きすぎて集中できない。
その点、「Dark To Themselves」はほんとうにすばらしい。
テナーサックスもトランペットもがんばってるけど、なんといってもすばらしい瞬間は、ジミー・ライオンズJimmy Lyonsのアルトサックスと、マーク・エドワーズMarc Edwardsのドラムス、それにテイラーのピアノの、トリオ演奏になるところ。
amazonのレビューで「ミューズが舞い降りる至上の瞬間」って書いている人がいらっしゃいますが、まったく同感です。
即興演奏によって人間が到達できる美の最高地点のひとつだろうと思います。
念のため書いておきますが、これは「フリージャズ」です。
甘いメロディとかハーモニーは出てきません。
簡単にいうとハチャメチャです。
しかも、1時間休憩なしのぶっつづけです。*1
しかし、そういう細かいことは、この音楽を目の前にすると、どうでもいいとしか言えない。
これは音楽である、そうとしか説明できない。
セシル・テイラーが奏でるあらゆるフレーズにしびれる、鳥肌が立つ。
最後はテイラーの格調高いソロが繰り広げられ、余韻を残しつつ静かに終わる。
いやいや、これ以上言葉を尽くすことは無駄です。
これを聴かずにジャズを語ることはほとんど無意味だとぼくは信じます。
ナクソスミュージックライブラリーで聴けるようになったので、ぜひおためしください。
ただもちろん、こんな音楽を聴いていたら、女の子にはぜったいにもてません!*2