非知性派ジャズの(どうでもいい)巨人たちを聴く!
今回のアルバム
チャールズ・ミンガス「ミンガス・アット・カーネギーホール」
Charles Mingus: Mingus At Carnegie Hall(1974)
(Atlantic)
ミンガス男爵とアホの手下たち
頭の悪いジャズが好きだ。
力任せにでかい音を出す。
よだれを垂らしてドラムスを叩く。
サックスでキイキイおかしな音を出す。
いつまでもソロをやめない。
バカ丸出し。
筋肉派、肉体派といってもいい。
ジャズというのはとかく「おしゃれ」「知的」と思われているけど、そんなんだけじゃないんですよ。
ぼくが好きなのは正反対。
クラシックでもロックでも、非知性派は軽く見られるんですよ。
ジャズもしかり。
キース・ジャレットとかビル・エヴァンズとか、知的なジャズミュージシャンは「もてる」音楽なのに、ドン・ピューレンとかローランド・カークとか、ジョージ・アダムズとか、知性のかけらもないと思われているよね。だからもてない音楽。
しかし、ジャズの醍醐味は、肉体派のミュージシャンが繰り広げる、ほとんど無意味な咆哮の中にこそあると思うんだな。
つまり熱狂。忘我の即興演奏によって、人間は普段より高いところに到達できるんですよ。
ま、理屈はいいでしょう。
で、そんな非知性派のジャズミュージシャンが一堂に会しているバンドがありました。
1974年のチャールズ・ミンガスバンド。
この貴重な映像、Twitterでバリトンサックスの吉田隆一さん(@hi_doi)が教えてくださいました。
ミンガスのベース、ダニー・リッチモンドDanny Richmondのドラムスはいいとして、ピアノにドン・ピューレンDon Pullen、テナーサックスにジョージ・アダムズGeorge Adams、バリトンサックスにハミエット・ブルーイットHamiet Bluitt。
全員アホ丸出し。
ほとんど轟音だけが長所というとんでもない連中です。
ドン・ピューレンの「鍵盤たくさん押さえた方が気持ちいいもんね」的なピアノと、ジョージ・アダムズの「音でかけりゃええんやろ」的なテナーサックス、それに「バリトンでこんな高い音が出るねんで」的なバリトンサックス。*1
もう、最高。
自分の好きなジャズの要素が悲しいくらいほとんど入ってる。
こんなすばらしい演奏が映像で残っていたとは、涙が出るほどうれしいです。
さて、これとほぼ同時期のアルバムといえば、これ。
今回ご紹介する「ミンガス・アット・カーネギーホール」です。
上記のメンバーに加えて、ローランド・カークRoland Kirkやジョン・ファディスJon Faddisなどが入ってる。
レコードだと片面1曲ずつ。全2曲。
上記の映像に輪をかけてばからしくも燃え上がる即興演奏の嵐。
まさに狂乱の宴。
とくにローランド・カークの演奏のすごさは特筆もの。
開いた口がふさがらない。
アレンジは、あってなきがごとし。ほとんどジャムセッション。
しかしミンガスはよくわかってる。
この連中に、ややこしいアレンジの曲は演奏できない。
中山康樹は、ミンガスバンドの曲目はメンバーの顔ぶれによって変わると言ってたけど、まさにその通り。
個人的に、ミンガスバンドは64年のメンバーが最強だと思ってます。
クリフォード・ジョーダンClifford Jordanのテナーサックス、エリック・ドルフィーEric Dolphyのアルトサックスとフルート、ジャキ・バイアードJaki Bayardのピアノ。*2
知性派と肉体派が絶妙のバランス。
「メディテーション」みたいなややこしい曲から、「A列車で行こう」みたいなスタンダードまで自由自在。
最強の名にふさわしい。
しかし、吉田隆一さんは74年のバンドこそ「裏最強メンバー」とおっしゃる。
いや、まさにその通り。
ダニー・リッチモンドの激しくもシュアなドラミングと、ミンガスの深く揺るぎないウォーキングベースが、すべてを支える。*3
だからアホどもがその上でどれだけあばれようとバンドの音が崩れないんです。
「C Jam Blues」のエンディングは鬼気迫るものがあります。
アホが全力出すとここまでやるぜ、という好例(?)。
即興演奏のなんたるかを知るには、最高の一枚。
しかし、ぼくがこれ最初に高田馬場の「マイルストーン」で聴いたときは、なんじゃこのやかましいアルバムは?と思ったから要注意。
まちがってもジャズ初心者にはおすすめできない。
でも、ま、これだけ大げさに書いておけばだいじょうぶでしょう。
ぜひ、70年代非知性派ジャズの(どうでもいい)巨人たちのサウンドに触れてみてください。
彼らは軽く見られて当然の、しかし忘れるにはあまりに惜しいミュージシャンなのです!*4
もちろん、こんな音楽を聴いてたら、女の子にはぜったいにもてません。*5
*3:ダニー・リッチモンドは、外見と裏腹にものすごいドラマーです。
*4:誤解のないように書いておきますが、ミンガスは自身は、きわめてインテリジェントな、肉体と知性のバランスをわきまえた、マイルス・デイヴィスの資質に近いサウンドクリエイターです。
*5:今回も確信をもってこのフレーズを書けました。ああすっきりした。