第二次大戦中の東京で響いた第九に感動する!

putchees2012-04-25


今回のアルバム

ベートーヴェン交響曲第9番「合唱付き」(日本語歌唱)(三宅春恵/四家文子/木下保/矢田部勁吉/日本交響楽団NHK交響楽団)/山田和男)(1942)
BEETHOVEN, L. van: Symphony No. 9, "Choral" (Sung in Japanese) (Japan Symphony, Kazuo Yamada) (1942)
Naxos Japan NYNN-0001)


ナクソスミュージックライブラリー)
http://ml.naxos.jp/album/NYNN-0001

またもナクソスの偉業


ありがとうございます。
ナクソスレーベルに感謝です。


NHKが保管する、第二次大戦以前からのN響(前身は日本交響楽団)のアーカイブの一部をNMLで(オンラインで)公開してくれるというのです。


第一弾がきょう公開されたのですが、なにはなくともこれ。
1942年12月末、東京・日比谷公会堂での演奏会のライブ録音。
大東亜戦争開戦1周年を記念するコンサートだったそうです。


指揮は山田一雄管弦楽は日本交響楽団NHK響)。
曲目はベートーヴェン第九交響曲
当時の友邦ドイツの誇る「楽聖」ってわけだね。


あたかも戦争中のフルトヴェングラーベートーヴェンを彷彿とさせるシチュエーション。*1


さっそく聴いてみました。


なかなか立派な演奏。とくに弦はがんばってる。
第二楽章でホルンがずっこける
第三楽章のアダージョも、木管と弦がからむところのアンサンブルがあやしい
うーん、技術的にはまだまだですね。
でも、ライブ録音だし。


終楽章は堂々たる響き。
なんと日本語歌唱
ちょっと古くさいけど、けっこうはまってる。


歓喜の歌」は、ほんとうに歓喜に満ちている感じ。
すごいじゃん!


時代背景を考えると、それだけで泣けるけど、演奏自体も立派なものだと思います。


サイトに上がってる資料を見ると、入場券はA席4円80銭。「プレイガイド」なんて敵性語も使ってる。


第二次大戦中の東京にも市民生活があったんだ!
オーケストラが演奏会をやってたんですよ。
サラリーマンは電車に乗って会社に行ってたんですよ。*2


「戦時中」は隔絶した世界の話じゃなくて、ぼくらのいまの暮らしと地続きのところにあったんだと思います。
当時の日本人の考え方も、いまの日本人とほぼ大差ないと思うんですよ。
(それに日本人は第二次大戦の前から、クラシックが大好きだったんです)


ちょうどきょう、恵比寿の写真美術館で堀野正雄展を見てきたんですが、1930年代の日本のモダンな風景をたくさん見て、目を見張る思いでした。


そりゃもちろん暗い面もあっただろうけど、当時の日本は、成熟した市民が幅広く闊達な文化活動をしていたんだと改めて認識しました。


それらの結実のひとつが、ここで聴かれるベートーヴェンのような堂々とした音楽でしょう。


やっぱり戦前と戦後はつながっている
現代日本につながる文化は、すべて戦後ゼロからスタートしたなんて、うそっぱちだと思うわけです。


もちろん第二次大戦がそれまで蓄積をいったん(ほとんど)ふいにしてしまったのはまちがいないでしょう。
ただ、戦前の蓄積なくして、戦後文化の復興はありえなかったこともまた確実なのです。


日本帝国が敗北の坂を転がり落ちていくそのさなかに、銃後の東京で、このような美しい音楽が生まれていたことは、新鮮な驚きです。
音楽の力はすごい。遠い世界だと思っていた時代が、音を聞くことで、まるでそこに自分がいるような気にさせてくれるのです。


それにしてもこの演奏、クライマックスの熱狂ぶりは、まちがいなくあのヤマカズのそれです。
泣けてくるほどうれしい。


ありがとうございます。
ナクソスミュージックライブラリー。


これを聴かないで、日本のクラシック音楽史は語れないでしょう。


ただもちろん、こんなものを聴いていても、女の子にはぜったいにもてません。

*1:別にカラヤンでもいいんだけど、なんとなく。

*2:前に書いたと思うけど、サラリーマンという言葉が生まれたのは1920年代のことらしい。