新宿ピットインで、恒例の四月馬鹿渋さ知らズを聴く!
今回はライブ報告です。
渋さ知らズShibusashirazu Orchestra
4月馬鹿大オーケストラ
日時:2005年4月1日 20:00〜23:30
場所:新宿ピットイン
(写真は新宿ピットインWebサイトより)
ミュージシャン
不破大輔(ダンドリスト)
片山広明、広沢哲、佐藤帆、吉田祥一郎(Tenor sax)
川口義之、小森慶子、立花秀樹(Alto sax)
吉田隆一、鬼頭哲(Baritone sax)
北陽一郎、辰巳光英(Trumpet)
高岡大祐(Tuba)
花島直樹(Bass clarinet)
室館彩(Flute,Vocal)
ウォルティー(Pan flute)
斉藤“社長”良一、大塚寛之(Guitar)
ヒゴヒロシ、オノアキ(Bass)
松(Percussion)
芳垣安洋、倉持整、磯辺潤(Drums)
中島さちこ(Keyboards)
勝井祐二(Violinn)
東洋、ふる、ちえ、しも(舞踏)
ペロ、Rott(Dance)
渡部真一、南波ともこ(役者)ほか多数
毎年恒例!エイプリルフール渋さ!
日本を代表する爆音フリージャズバンド、
渋さ知らズのライブに行ってきました*1。
毎年恒例の大オーケストラによるエイプリルフール公演です。
本日の編成はドラムとギターが3人で、
この6人がサウンドの主導権を握っていたように思います。
あとはいつものパワフルな顔ぶれでした。
印象的なソロイストは片山広明、高岡大祐、
斉藤良一(通称・社長)、大塚寛之などでした。
若いギタリスト*2ががんばっていましたが、
古顔のふたりの前では顔色なしという感じでした。
ギター2人の4小節交換は、さながらジミヘンVSピート・コージー*3という感じで、
たいへんエキサイティングでした。
勝井祐二の麻酔的なソロが少なかったのが、
ROVOのファンにとっては残念だったかもしれません。
ボーカルの反町鬼郎がひさびさに復活したようです。
十八番の「天城越え」を期待したのですが、
今回は沢田研二の曲を歌ってくれました*4。
今回の曲目は、例によってサン・ラの「Space is the Place」、
林栄一の「ナーダム」、不破大輔の「本多工務店のテーマ」などでした*5。
こんなにまとまった渋さ知らズの演奏は初めてだ
今回のステージで特筆すべきは、
アンサンブルがたいへんまとまっていたということです。
4月下旬からのヨーロッパツアーを前に、
バンドがリハーサルを重ねてきたことがわかる演奏でした。
1月に渋谷O-EASTで聴いたライブは、
あまりにまとまりを欠いた演奏だったのですが、
わずか2カ月あまりで、ここまでサウンドが仕上がったのは驚くべきことです*6。
最近の渋さのステージを丹念に見てきた人の証言によると、
最近の演奏は、どれも高水準のものだったそうです。
今回のステージの白眉は、
「P-CHAN」で、片山広明のアドリブソロに合わせて、
芳垣安洋をはじめとするメンバーが、
融通無碍にバッキングしていた箇所です。
片山広明がテナーサックスで「昭和枯れすすき」や
「聖者が街にやってくるWhen the Saints Go Marching In」を
引用するのに合わせて、ドラムやキーボード、ベースやホーン陣が、
即座に伴奏を始めるのです。
渋さのステージではおなじみの光景ですが、
今回はそれが果てるともなく繰り返されていました。
バンドのメンバー全員の息が合っていなければ*7、
ああいった演奏はできないはずです。
ステージの後半へ進むほど全員のテンションが上がっていった印象です。
ミュージシャンたちの気合をビンビン感じたステージでした。
渋さ知らズの魅力は「くどさ」である!
今回のステージではっきりと感じたことがあります。
渋さのサウンドの特色はいくつかありますが、
そのひとつが、「くどさ」であることは異論がないでしょう。
不破大輔自身も証言していますが、
普通ならテーマなんて最初と最後に一度やればいいものを、
渋さ知らズは、5回や10回はあたりまえ、
多いときには20回くらい平気で繰り返します。
「もうさすがに終わりだろ」という観客の予想を裏切って、
さらにしつこく同じフレーズを繰り返すのが、渋さ知らズの真骨頂です。
小説家の谷崎潤一郎は、たしか「陰翳礼賛」の中で、
日本人には、「西洋人のようなあくどさが足りない」と
述べていたように記憶します。
「あくどい」という言葉は、現代では「悪どい」と誤用されていますが、
本来の意味は「程度をすぎていやみである。やり方がしつこく、たちが悪い」
ということです*8。
まあ、要するに「くどい」というのに近い意味合いです。
谷崎は、セックスのことを例に挙げて、
「日本人の男には、一度果てたあとにすぐまた求めるようなあくどさがない」
といったことを述べています。
ぼくたち日本人は、一般に淡泊で、
同じことをしつこく繰り返すことが美しくないと感じるのだと、
谷崎は言っているわけです。
でもそれは、きわめて一面的な見方ではないでしょうか。
谷崎のあこがれた京都の洗練された文化は、
たしかにそういった美観なのかもしれませんが、
農村漁村の一般民衆の美観は、それこそ「あくどい」ものなのではないでしょうか。
同じ旋律とリズムをしつこく繰り返し、
ある種のトランス状態に似た美的感動に至るのは、
日本の庶民の祭礼音楽の重要な要素です。
以前も書いたように*9、「わびさび」だけが、日本の美ではありません。
しつこくて、くどくて、バイタリティがあって、スケールの大きなものも、
日本の美のひとつのありようなのです。
不破大輔は、まちがいなくそのような音楽を作ろうとしています。
西洋的なフリージャズを消化、吸収したあとに、
「じゃあ自分たちで作ることのできる独自のフリージャズってなんなのだ?」
という問いに対して出した答えが、渋さ知らズなのではないでしょうか。
不破大輔は、自分の音楽を言語化することに消極的ですが*10、
「日本人のジャズってなんだ」ということに関して、
極めて自覚的なミュージシャンだと、ぼくは考えています。
スカSkaやサンバSambaなどのリズムを使うために、
無国籍音楽だと思っている人がいるかもしれませんが、
渋さ知らズの音楽は、きわめて日本的なジャズなのです。
お友だちの西洋人に渋さ知らズを聴かせてごらんなさい、
東洋的、日本的な情熱を感じると、即座に答えが返ってくるはずです。
ともあれ、4月1日のピットインのステージでは、「くどさ」が、
これまでより一層強調されていたように思います。
ぼくがこれまでに体験した渋さ最高の名演は、
1999年末の江古田「バディ」での演奏ですが*11、
今回は、それに負けない名演だったと感じました。
とくに掉尾を飾る「本多工務店のテーマ」では、
久しぶりに胸が熱くなりました。
PAには不満あり
残念なのは、リズム隊にくらべて、ホーンの音量が弱かったことです。
「本多工務店のテーマ」ほかで、ジャーン!とホーンが大音量でテーマを
奏でるところが、迫力不足だったのです。
また、各ソロイストが演奏するところでも、
音量が小さくなっていたところがありました*12。
これはミュージシャンのせいではなく、PAに原因があります。
ピットインのPAミキサーは、渋さのサウンドを深く理解しているはずですし、
音響面では一日の長があると思うのですが、今回はちょっと不満が残りました。
とはいえ、渋さ知らズを聴くなら、残響の長い大ホールより、
ピットインのように反響がデッドなライブハウスのほうが、ずっといいと思います。
フリージャズ全般に言えることですが、大ホールで聴くと、
どうしても音が混濁してしまいますので。
もう限界。人多すぎ
いつものことですが、今回もピットインはたいへんな混雑で、
店の中は立錐の余地がないほどでした*13。
しかも、みんなが踊るものですから、ステージのあいだじゅう、
観客はこっちに押され、あっちに押されで、波間に漂う木片のようでした。
そのせいで、音楽に集中できなかった人も、大勢いると思います。
もちろんああいう音楽ですから、踊り狂ってもいいのですが、
フジロックフェスティバルのように、広いスペースはないのですから、
体の動きはほどほどにしておいたほうがいいでしょう*14。
踊るスペースがないときは、音楽に集中するのもいいと思いますよ。
前に書いたとおり*15、ジャズの面白さは、各メンバーの強烈なソロの中にあるのですから。
今年の欧州ツアーは期待大!!
渋さ知らズは、4月17日に渋谷クラブクアトロでステージに立ったあと、
欧州ツアーに出発します。
4月1日のステージの出来を見る限りでは、リハーサルは万全です。
欧州ツアーは、たいへんな反響を各地で起こすのではないでしょうか。
世界の渋さ知らズファンのみなさん、
今年の欧州ツアーは、期待していいと思いますよ。
ただもちろん、こんな音楽を聴いていても、女の子にはぜったいにもてません。
*1:渋さ知らズについては、以下の記事も読んでみてください。id:putchees:20041220、id:putchees:20041221、id:putchees:20050114
*2:19歳だとか
*3:Jimi Hendrix、Pete Cosey
*4:曲名不明。誰か教えて下さい。
*5:ちなみにサン・ラSun Raは、自身の「アーケストラArkestra」を従えて、移転前の新宿ピットインで伝説のライブを行っています。
*6:ただもちろん、まとまった演奏といっても、渋さ知らズの音楽を特徴づけるある種のハチャメチャさは維持されています。
*7:言い換えれば、リハーサルが十分でなければ
*9:id:putchees:20050313
*10:マイルス・デイヴィスMiles Davisは、「音楽は音楽自身に語らせろ」という意味のことを言っていたように思います。饒舌なミュージシャンは、しばしば不誠実で、自己弁護的に見えるものです。
*11:「ケイハクウタガッセン」としてCD化されています。
*13:そもそも、ピットインはジャズのライブハウスですから、これほどの観客が訪れることを想定していません。
*14:ただリズムに乗って騒ぎたい人はクラブにでも行ってもらいたいものです。
*15:id:putchees:20050114