勝鬨で山下洋輔のソロピアノを聴く

putchees2005-04-11


本日はコンサート報告です


山下洋輔ロピアノコンサート
KIZASHI '05」
場所:東京・勝鬨トリトンスクエア第一生命ホール
日時:2005年4月10日(日) 14:00〜16:00

ミュージシャン

山下洋輔(ピアノpiano)

初めての生ヤマシタ


多芸多才のジャズピアニスト、山下洋輔のソロコンサートに行って来ました。


実は、山下洋輔のピアノを生で聴くのは初めてです。
レコードで聴く昔の演奏とどう違うのか、
ちょっと怖いような気持ちでした。


場所は勝どき、トリトンスクエア内にある第一生命ホールです。
なかなかいいホールですが、アクセスがちょっと不便です。


客席は8〜9割の入りという感じで、
日曜午後のコンサートとしては、上々だったのではないでしょうか。


日本人ジャズピアニストで、これだけの観客を呼べるのは、
山下洋輔以外にはいないかもしれません。


客層は年齢が高め。カルチャー指向の団塊世代(?)がいちばん多かったようですが、
お上品なマダムの姿も多く見かけました。


若ぶって真っ赤なしましまシャツを着たぼくは、
あきらかに居心地悪い感じでした。


聴衆の年齢層が上がっていくのは、現役を続けるミュージシャンにとって、
あまりいいことではないように思います*1

富樫雅彦の曲によるコンサート


本日の曲目は、前半がジャズドラム奏者・富樫雅彦の作品、
後半が、スタンダードと山下洋輔のオリジナル曲でした。


昨年12月にリリースされた山下洋輔のアルバム、
富樫雅彦曲集「KIZASHI '04」にちなんだコンサートだからです。


富樫雅彦山下洋輔の交流は古く、
1965年に山下の加わった富樫カルテットが、
日本で最初にフリージャズを演奏したバンドなのだそうです。


つまり、40年にわたって共演してきた盟友ということになります。


富樫雅彦の引退宣言によって共演が不可能になったため、
きょうは、画家でもある彼の絵画作品をプロジェクターで上映しながら、
その前で山下洋輔が富樫の曲を弾くというスタイルでした。

やはりオリジナル曲のほうがいい


さて、会場がクラシック用のホールということもあって、
たいへん品のいいコンサートでした。


一曲終わるたびに、山下洋輔がマイクで解説を行っていました。
しゃべりもそつがありません。


肝心の演奏ですが、予想したとおり、
基本的にフツウのジャズでした。


とくに前半の富樫雅彦作品を弾いているときは、
なめらかで品のいい、まったくフツウのジャズピアノで、
聴いてて眠くなってしまいました。


他人の曲だから、
あまりフェイクできない(崩せない)という事情があったのでしょう。
後半は、いきなり自作の曲で激しいフリージャズを披露してくれました。


ほっとしました。
こうでなくちゃいけません。
これこそ山下洋輔のピアノです。


チュニジアの夜A Night in Tunisia」「ボレロBolero」などを演奏して、
アンコールは「スイングしなけりゃ意味がないIt Don't Mean a Thing」でした。


激しい演奏のときは、ああ、あの山下洋輔のピアノを聴いているのだ、
ということを実感しました。


ただ、フツウのジャズをやっているときは、
彼自身の個性が、あまりよく見えませんでした。


たしかに山下洋輔のピアノはたいへんうまいのですが、
フツウのジャズピアノをうまく弾けても、
そういうピアニストはゴマンといるので、
その中でユニークであること*2は至難の業です。


だから、フツウのジャズなんて別にやらなくてもいいのになあと、
ぼくは思いました。

ロピアノのむずかしさ


こういうと意外かもしれませんが、彼のピアノのサウンド自体は、
それほど強靱でも豊饒でもありません。


ピアノ一台で完全に満ち足りたサウンドを作り出してしまう
セシル・テイラーCecil Taylorと比べてみればその違いは明白です。


ピアノ一台だけでは、どうもなにかが足りない気がするのです。


ぼくが持っている山下洋輔のソロピアノアルバムは
バンスリカーナBanslikana」(独・エンヤEnja1976)だけですが、
これを聴いたときも、やはりなにか足りない気がしたものです。


きょうも同じ印象でした。


伝説の山下トリオの演奏のすごみは、
3人のグループダイナミクスのたまものだということがありありとわかります*3


彼の音楽に多くを求め過ぎているのかもしれませんが、
彼の70年代前半の音楽があまりに光輝に満ちたものであったからこそです。

また聴きに行こう


結論を記すと、きょうのコンサートは、
満足できるものではありませんでした。


上品なジャズピアノを聴きたい人にはよいでしょう。
しかし、ぼくは唯一無二の音楽をこそ聴きたいのです。


別に、フリージャズじゃなくてかまいません。
ただ、山下洋輔にしか作れない音楽を聴きたいのです。


きょうのコンサートは、それが希薄だったように思います。


しかし、たった一度のコンサートで、いまの山下洋輔の音楽に対して
評価を下すことはできません。


彼は、片山広明らと組んでジャズによる「忠臣蔵」に挑戦するなど、
いまも先鋭的なジャズミュージシャンであり続けています。


ふたたびみたび、生の山下洋輔を聴きに行ってみたいと思います。
そのあとで初めて、ぼくなりの判断を下したいと思います。


5月5日には、大阪の音楽イベント「春一番」で、森山威男、坂田明と組んで、
伝説の山下トリオが再現されるそうです*4


ファンならば、ぜったいに聴きに行くべきでしょう。
詳しいスケジュールを早く知りたいものです。


ただもちろん、こんなジャズを聴いていても、女の子にはぜったいにもてませんねえ。


(ぼくは近年の山下洋輔の音楽についてまったく無知です。
詳しい方のご意見をお待ちしております)

*1:ほとんどの場合、避けがたいことですが。

*2:唯一無二であること、オリジナルであることという意味。

*3:ただ、彼はたくさんのソロピアノアルバムを作っていますから、中には満ち足りたサウンドのものも、もちろんあることでしょう。

*4:この3人による最強のライブアルバム「クレイ」については、以下の記事をご覧下さい→id:putchees:20050329