新宿ピットイン40周年コンサートで涙にむせぶ!(その4)

putchees2006-02-05


その3よりつづき


1月21日と22日に行なわれた
新宿ピットイン40周年コンサート
模様をレポートしています。
今回は、その完結編です。


ピットインは、日本最高のジャズクラブです。
興味のある方は、その1〜その3をお読みください
(その1)id:putchees:20060128
(その2)id:putchees:20060130
(その3)id:putchees:20060204


2日目の後半は、板橋文夫&森山威男グループ、
そして渡辺貞夫のグループです。


まずは板橋・森山グループのステージからレポートします。

最強のジャズグループ登場!


森山・板橋 グループ
森山威男(Ds)板橋文夫(P)林栄一(As)井上淑彦(Ts)
音川英二(Ts) 望月英明(B)


板橋文夫(いたばし・ふみお)は、70年代から活躍する
爆裂ジャズピアニスト、
森山威男(もりやま・たけお)は、60年代の山下洋輔トリオ
時代から活躍する爆裂ジャズドラマーです。


板橋文夫については、こちらの記事をお読みください
id:putchees:20041214 id:putchees:20050127 
id:putchees:20050204 id:putchees:20051013


森山威男についても過去に関連する記事がありますので、
こちらを見てください→ id:putchees:20050329 id:putchees:20050510

場内は興奮のるつぼ!


ミュージシャンたちがステージに上がる瞬間から、
場内は大歓声に包まれました。


今回のステージは、
アノトリオ(リズムセクション)に、サックス3人という
セクステット(六重奏)でした。


「モリヤマ!」


「イタバシ!!」


という声が、場内のあちこちから上がります。
すでに大盛り上がりです。



きょうは、4曲すべてが板橋文夫の作品でした。
最初はアリゲーター・ダンス」
バンドは、しょっぱなから全力疾走です。
まるで怒濤のような演奏が終わると、
場内から爆発的な喝采が上がります。


ウオーッ!!!


興奮のるつぼです。


そして同じく板橋文夫サンライズ


ドッカーン!!
森山威男のドラムが炸裂する!


ブヒー!!
林栄一のアルトが雄叫びを上げる!


グシャーン!!
板橋文夫のピアノが地響きを立てて押し寄せる!!


こんな音楽を聴いてたまげない人はいないでしょう
人間わざとは思えません*1


「ドラムス、モリヤマタケオ!」


ウォー!!


「ピアノ、イタバシフミオ!!」


ウォーッ!!!!


メンバー紹介のたびに、大歓声が上がります。
興奮の絶頂です。

「グッドバイ」で涙にむせぶ!


もちろん、彼らの音楽は荒々しい演奏だけではありません。
残り2曲のうちひとつは、名曲「渡良瀬」
そして最後はきわめつけ。「グッドバイ」です。


「グッドバイ」冒頭のピアノが流れてきた瞬間から、
ぼくは涙がこぼれて止まりませんでした


いったいなんと美しいメロディなのでしょう
これほどやさしく、人の心を打つ音楽がほかにあるのでしょうか?


最後には、涙でぐずぐずになってしまいました。


ワーッ!!!!!


モリヤマーッ!


イタバシーッ!!!


演奏が終わって、場内は割れるような大歓声でした。
この2日間でもっとも大きな喝采を受けたのが、
このバンドでした。


これぞジャズです
これこそホンモノの音楽なのです。


リクツなんて要りません。


これを聴いた後では、頭でっかちのジャズなんて
鼻くそみたいなものです。


体を張って演奏しないジャズなんて、
インチキもいいところです。


きょうのメンバーの曇りのない笑顔はどうでしょう。
ミュージシャンも聴衆も、心から楽しんでいます。
ほんとうにハッピーな音楽なのです。


音楽とはこういうものではないでしょうか。
ジャズどころではありません。
音楽そのものの根っこに触れることができる演奏なのです。

芸術とは生命力なのだ!


音楽にとってもっとも大切なのは、生命力なのです
あらゆる芸能や芸術の価値は、すべて生命力の有無にかかっています。
生命力のない音楽(芸術)は造花みたいなものです。
見かけは生花と同じでも、実を結ぶことがないのです。
ぼくが見せかけだけの音楽や芸術を嫌うのは、このためです。


両者をどうやって見分けるのか?


そんなん、聴いてみりゃわかる!


乱暴ですが、そう言うほかありません。


板橋文夫と森山威男の演奏は、
春の大地から草木が芽吹くような生命力
満ちあふれています。


ジャズを、音楽を知りたければ、
このバンドの演奏を聴けばいいのです。


すべての解答がここにあるはずです。
迷えるリスナーはここへ集うべきなのです。


リクツばかりごたいそうな、舌先三寸の音楽に喝を!


森山威男・板橋文夫は、ジャズ界最強の
スーパーユニットなのです。


このままCDにしてリリースしてほしいようなステージでした*2

4月に名古屋でライブが!


それにしても、このふたりの相性はほんとうにぴったりです。


板橋文夫のピアノを受け止めるには、
それこそエルヴィン・ジョーンズなみの豪腕ドラマーが必要ですし、
森山威男のドラムに対抗するには、
鉄の指と鋼の意志を持ったピアニストが必要なのです。


このふたりは、組むべくして組んだと言うべきでしょう。


ところが残念なことに、
森山威男の演奏を聴くのはたいへん難しいのです。
まして、板橋文夫とのコンビを聴くことができる機会は、
極めて限られています。


幸運なことに今年の4月に、
名古屋のジャズクラブ「ラブリー」で、ふたりが相まみえるようです。


このふたりを聴くためなら、どんな長旅もつらくはありません。


ぼくはなんとかして、聴きに行きたいと思っています。
みなさんもぜひ一度足を運んでください。

一生懸命な音楽


今回のコンサートのパンフレットに掲載されていた、
森山威男のコメントが、たいへんすばらしいものでした。


その最後の一節を引用します。

その頃*3から私は一生懸命が好きになった。
今でも一生懸命なドラマーでいたい。
でも一生懸命が嫌いな人もいる。
だから誰とでも分かり合えるとは思っていない。
ピットインで聞いてくれる人の一人と仲良くなれればそれで良い。
そして、あなたとも分かり合える仲間になれたらうれしい。


よいジャズとは何か、音楽を奏でるとは何か、
ほんとうのことを教えてくれる、達意の文章でした。


森山威男も板橋文夫も、力ある限り、
一心に音楽を奏でています。


その必死さが、これほど感動的な音の奔流になるのです。


音楽はできあがった音がすべてですから、
どんな態度で演奏しようと、本来関係はありません。


いいかげんな気持ちで演奏しようと、
全身全霊を込めて演奏しようと、音さえよければ、
それでいいのです。


しかし、それは机上のリクツです。


実際には、いいかげんな気持ちで演奏された音楽は、
ほとんどすべて、いいかげんなものにしかなりません。


演奏する行為を軽視するような音楽は、
聴衆から乖離するばかりではないでしょうか。

ホンモノとは…


世の中にはニセモノだらけで、
しばしばニセモノのほうが幅をきかせています。


しかし、ホンモノが現れると、
ニセモノはたちまち馬脚をあらわすのです。


ニセモノを見分けるためには、
なによりホンモノに触れることです。


ホンモノはかっこつけない。


ホンモノはリクツをこねない。


ホンモノは一生懸命。


ホンモノには命が宿る。


ホンモノは聴けばわかる。


みなさんもぜひ一度、
板橋文夫と森山威男の音楽を聴いてください。

ナベサダをなめるなよ!!


渡辺貞夫グループ
渡辺貞夫(Sax)小野塚晃(P)吉野弘志(B)石川雅春(Ds)
ンジャセ・ニャンN'diasse Niang(Per)



さあ、いよいよコンサートの大トリです。
最後は、ナベサダこと渡辺貞夫(わたなべ・さだお)の登場です!


ナベサダは60年代初頭から現在まで、
日本でもっとも有名なジャズプレイヤーでありつづけています。


彼もヒノテルと同様、
大衆的な人気を博しているビッグネームですが、
彼の音楽がつまらないということは決してありません。


彼の60年代の演奏を聴けば、
まるで鬼神のようなアドリブの奔流
目がくらむ思いがするでしょう。


きょうのステージでは、
スタンダードからオリジナルまで、
多彩な曲目をたっぷり聴かせてくれました。


この抜けるように明るい音色はどうでしょう。
つややかで、しなやかで、優しい音です。
少しも押しつけがましくありません
ところが、それでも他の音に決してマスクされない
強靱さを持っています


アドリブのフレーズも自然で、
まさに体で歌うという感じです。


この人は、考えるより前に、
体が音楽を奏でてしまうのでしょう。


まちがいなく、ホンモノの中のホンモノのジャズミュージシャンです。


彼の音楽はひたすらハッピーです。
ナベサダ自身もバンドのメンバーも、
心から楽しそうに演奏しています。
このステージを聴いて、不愉快な気持ちになる人は
ただのひとりもいないはずです。


ナベサダこそは、偉大なエンタテイナーです。


このバンドは、各メンバーの技量も十分で、
ナベサダが休んでいる間も退屈しません。


最初から最後まで大喝采でした。


まるで紅白歌合戦」のフィナーレを見ているような気分でした。
それほど完璧な娯楽だったのです。


ぼくもほかのお客さんも、大満足でした。

サウンドチェックが不十分?


すべてのステージをご紹介しました。
最後に、コンサート全体で気がついた点に
ふたつ、触れておきましょう。


ひとつは、ステージのミュージシャンがしばしばモニター音について
PAにクレームをつけていたことです。


どうやら、事前のサウンドチェックが不十分だったようです。
そのため、ステージ上のミュージシャンにとっては、
音量のバランスが、満足できるものではなかったようです。


なにぶん出演者が多いので、裏方はたいへんでしょうが、
演奏の質に影響する部分なので、
事前の準備を完璧にしてもらいたいところです。

禁煙でほんとうによかった


もうひとつは、タバコの煙を気にせずジャズを聴くことができる
貴重な機会だったということです。


ぼくはジャズが好きですが、タバコは嫌いです。しかし、
ピットインを含め、すべてのジャズクラブは禁煙ではありません。


したがって、ジャズを聴きに行くことは楽しみでもあり、
同時に苦痛を感じることでもあります。


今回は禁煙のコンサートホールだったので、
楽しみだけを感じることができました。


一日も早く、ジャズクラブやライブハウスが
禁煙になってくれることを祈ります。

ジャズの神髄に触れる場所


こうして2日間にわたったコンサートは終了しました。
実に多彩で、ジャズの楽しみを堪能できるステージでした。


新宿ピットインというジャズクラブの人脈の広さと
懐の深さに、改めて感じ入りました。


そして、改めて日本のジャズの多彩さに感動しました。
この国のジャズは、とても豊かなのです。


もちろん、中にはしょうもないジャズもありますが、
いろんなスタイルがあったほうが、
そのジャンルの奥行きは深くなるに違いありません。


ジャズという音楽はしごくマイナーなジャンルですが、
その楽しみは、ほかのジャンルに決して負けてはいません。


みなさんもぜひ一度、新宿ピットインを訪れてみてください。
ふらりと入ったときに聴いた音楽が、あなたにとっての
啓示になるかもしれません。


それだけのポテンシャルを持ったジャズクラブだと思います。


10年後には、50周年記念コンサートに、またすばらしい
ミュージシャンが集うことを願っています。


(この稿完結


(次回はふたたびクラシックです。東京都交響楽団湯浅卓雄による、
 芥川也寸志のチェロ協奏曲のコンサートをレポートいたします)

*1:誇張だと思う人がいるかもしれませんが、これは少しも誇張ではありません。ウソだと思ったら実物を見てください。

*2:もっとも、CDにしてしまうと、興奮が半減してしまうでしょう。

*3:60年代末のこと:プッチーケイイチ注。