三味線界の新星・野澤徹也を聴く!

putchees2007-01-23


コンテンポラリーな三味線


昨年12月の話ですが、三味線を聴いてきました。


といっても、古くさい音楽ではありません。
21世紀の、三味線のための現代曲です。


以前ご紹介したイケメン三味線奏者のソロライブです*1


なかなか面白かったのでご紹介します。

今回はコンサート報告です


【今回のコンサート】
三味線 野澤徹也 2006 FINAL LIVE


【日時・場所】
●2006年12月12日(火)19:30〜21:00
公園通りクラシックス(渋谷)


【ミュージシャン】
野澤徹也(三味線)
橋本芳子(唄)
伴英将(尺八)


【曲目】
●三絃の月(岡隆一郎作曲)※初演
●Native Wind(三村磨紀予作曲)※初演
●SHADOWS(佐藤容子)
(休憩)
●をとこ・をんな(新実徳英作曲)
●パッセージ(水野修孝作曲)
●D・T・TRAIN(木山光作曲)

情熱の三味線奏者


三味線というと、長唄やら民謡やら、
江戸時代の伝統音楽のための楽器という気がします。


その三味線を現代音楽の分野で注目させたのが、
西潟昭子(にしかた・あきこ1945-)です。


彼女は、一柳慧ルー・ハリソンLou Harrisonといった
現代の作曲家に新作を委嘱して、三味線(三絃)という楽器に
新しい命を吹き込みました。


野澤徹也は、その西潟昭子の門弟です。
師にならって、若い作曲家たちにつぎつぎに新作を委嘱しています。


三味線という楽器を未来に向けて残すめには、
レパートリーを拡張しなければならないという強い思いが感じられます。


ぼくは前回野澤徹也のリサイタルに出かけて、
確かなテクニックと燃えるような情熱に圧倒されました。


今回も楽しみです。

力強い演奏


今回は、三味線に尺八がからむ構成でした。


尺八奏者の伴英将は、
大きな体で、尺八を力強く鳴らしていました。


長音階や半音階をやすやすと吹きこなしていましたが、
よほどの手練れでなければできないことでしょう。


さて、前半は若手作曲家の(初演を含む)新作が演奏されました。


いつも思うのですが、野澤徹也は
おそろしいほど激しく三味線をかき鳴らすので、
弦が切れるのではないかとはらはらさせられます。


ことに前半は、激しい曲が多かったので、
いまにも弦が切れそうでした。


しかし、うまい奏者というのは、
弦が切れないギリギリのところで
弾き続けることができるのでしょう。


前半の3曲の中で面白かったのは「SHADOWS」という曲でした。

後半が名曲ぞろい


しかし、後半のほうがずっと面白く聴くことができたのです。


後半の1曲目は、新実徳英(にいみ・とくひで)作曲の
「をとこ・をんな」でした。


歌に三味線がからむ構成です。


なんと、この歌の内容がびっくり。
1936年の阿部定事件のことを歌っているのです。


思わず、大島渚の映画愛のコリーダを思い出してしまいました。


クラシックのベルカントではなく、
日本の伝統唱法に近いねっとりした女声に、
三味線の旋律がからみます。


阿部定の吉蔵への思いが歌い上げられます。
ちょっとコワいです。


しかし、これはまさに現代的な長唄ではないでしょうか。


もともとの長唄でも、
遊女の嘆きを題材にしたものが多いのです。


この曲、なかなかの佳作だと思いました。


つづくは、水野修孝(みずの・しゅうこう)作曲の独奏曲「パッセージ」
派手なケレンはなしで、いかにも地味。
訥々とした旋律が流れていきます。


ほとんどわらべ歌のようです。


しかし、これがすばらしい。
歌心にあふれています。


きょういちばんの名曲だったのではないでしょうか。


簡単な曲のように聞こえましたが、三味線で弾くには
ずいぶん難しい和音が含まれていたようです。


さすがの野澤徹也にとっても手強い曲だったようですが、
演奏を繰り返すことで、自家薬籠中のものにしてしまうでしょう。


さて、最後は木山光作曲の「D・T・TRAIN」
という曲でした。尺八とのデュオです。


若い作曲家らしく、勢いのある作品でした。
尺八と三味線という、いわば古くさい楽器編成なのですが、
そういうことを感じさせない現代的な息吹の音楽でした。


尺八のフレーズは、
「すべてむら息で」という指示がなされているそうです。
「トレイン」という曲名らしく、
驀進する機関車をイメージしました。

驚きに出会う演奏


このリサイタルの会場は、
かつての「ジァンジァン」の場所で、
ジャズからクラシックまで、幅広いジャンルの音楽が
演奏されているようです。


今回のような三味線の現代曲でも、
違和感なく聴ける会場でした。


2時間弱のリサイタルでしたが、
たいへん楽しい時間でした。


野澤徹也は、つねに新しい領域に挑戦し続けています。


伝統邦楽がお好きでない方でも、
楽しめる音楽だと思います。


みなさんもぜひ一度、
彼の演奏会に足を運んでみてください*2


必ず発見と驚き、そして音楽の愉しみに出会うでしょう。


ただ、こういう音楽を聴いていても、
女の子にはもてないかもしれませんけど。


(この稿完)

*1:野澤徹也についてはこちらをお読みください→id:putchees:20050624

*2:彼のウェブサイトはこちらです→http://www016.upp.so-net.ne.jp/nozawa-kun/