シメオン・テン・ホルトのピアノ曲はイイ!!

putchees2007-01-25


知られざる名曲


オランダの作曲家、
シメオン・テン・ホルト(1923-)の
作品集を聴いております。


11枚組のCDボックスです。
廉価盤専門・ブリリアントクラシックからのリリースで、
4000円くらいでした。
一枚あたり400円弱。


現代音楽のCDは高価でなかなか手が出ないのですが、
この価格なら安心して買えます。


ぜんぜん知らない作曲家だったので
こわごわ聴いたのですが、
これが実にいい


一般にはまったくマイナーなようなので、
ちょっとご紹介してみます。

今回はCD紹介です


【今回のCD】
シメオン・テン・ホルト:ピアノ作品集
Simeon Ten Holt : Complete Multiple Piano Works」
(2006 蘭 Brilliant Classics BRL7795)


【曲目】
●CD1〜2:カント・オスティナートCanto Ostinato
●CD3〜4:レムニシャートLemniscaat
●CD5〜6:ホリゾンHorizon
●CD7〜8:インカンタティーIV Incantatie IV
●CD9〜10:メアンドレスMeandres
●CD11:シャドウ・ノル・プレイShadow nor Prey


【ミュージシャン】
●ピアノ・アンサンブルPiano Ensemble(CD1〜10):
イレーネ・ルッソIrene Russo
フレド・オルデンブルフFred Oldenburg
サンドラ・ファン・フェーンSandra & Jeroen van Veen
イェローン・ファン・フェーン


●ピアノデュオ:Pianoduo:(CD11):
フレド・オルデンブルフFred Oldenburg
イェローン・ファン・フェーンJeroen van Veen


録音:2003年9月20日、2005年5月23〜27日
バルバラ教会、クレンボルグBarbara Church, Culemborg

1曲2時間!!


このCDボックスは、
シメオン・テン・ホルトによる、
複数のピアノを使った作品の全集です。


2台から4台のピアノを使った曲です。


1曲がだいたい2時間くらいなので、
11枚組で、6曲しか入っておりません。


どれもこれも、
短小なフレーズが延々繰り返されるという曲です。


要するにミニマルミュージックっていうやつです。


2時間も似たフレーズを繰り返されたら
退屈してしまいそうですが、意外に面白い。


たいへんロディアスで美しいのです。


静謐なメロディとハーモニーが、ゆらゆらと
ゆらめきながら漂います。
まるでロウソクの炎を見つめているようです。


内省的な雰囲気が、夜のBGMにぴったりです。


ぜひ、ご自身の耳で確認してください。

ヨーロッパ的なミニマルミュージック


最初聴いたときは、
ちょっぴり坂本龍一とかに近いかも、
と思いました。


しかし、それは最初だけの印象でした。


全部通して聴いてみると、むしろロマン派や
バロック音楽に近いように聞こえました。


ロマンチックなところは
ラフマニノフRachmaninoffやショパンにChopinに似ているし、
一定のリズムが保たれているところは、
バッハJ.S.BachやスカルラッティD.Scarlattiに
似ているような気がしました。


いずれにしても、
いかにもヨーロッパ的な音響という印象です。


同じミニマルでも、合衆国の作曲家とは
明らかに違う肌合いです。


テン・ホルトの曲は、
情緒的で、繊細で、センチメンタル


アメリカのスティーブ・ライヒSteve Reich
ジョン・アダムズJohn Adamsあたりなら、
同じミニマルのピアノ曲でもゴリゴリと固い、ドライな感じがします。


安易な連想ですが、
これがヨーロッパと北米の風土の違いなのかもしれません。


ライヒやアダムズ、フィリップ・グラスPhilip Glassの曲は、
摩天楼や茫漠とした大地を渡る、乾いた風を想起させます。


テン・ホルトの曲は、冷たくて、
ちょっぴり湿った北ヨーロッパの空気を感じさせます。


ミニマルというと、
どうしても機械的な音楽というイメージですが、
テン・ホルトの曲はそうではありません*1


現代音楽というよりは、
正統的なクラシック音楽に近い気がします。


ユニークなミニマルミュージックです。

即興性の強い音楽


ちなみに、下は4台ピアノのための作品の演奏風景です。



テン・ホルトの作品は、
もともと1台ピアノでも演奏可能なようですが、
最近は複数で演奏されることが多いそうです。


解説によれば、彼の作品は、
どう演奏するか、かなりの部分が
演奏者の自由に任されているようです。


即興性が強く、演奏のたびに
まったく違った音楽が生まれるということです。


ときには1曲が30時間に及ぶことさえあるそうです。


このCDに収められた音楽の美しさは、
演奏者たちの技倆によるところが大きいのでしょう。


ただ、もともとの作品がよいからこそ
これだけいい演奏が生まれたに違いありません。

作曲家のプロフィール


シメオン・テン・ホルト公式サイトはこちらです。
http://www.simeontenholt.com/


プロフィールによれば、
テン・ホルトは1923年(大正12年)ベルヘンBergen生まれ。


シメオン・テン・ホルト


母国で音楽を学んだ後、フランスへ。
パリのエコール・ノルマルEcole Normaleで
ミヨーMilhaudやオネゲルHoneggerに師事。


その後はオランダで音楽教師などをしつつ、
自作を次々に発表していきます。


無調やセリー技法、電子音楽、集団即興演奏などの
現代的な作曲法をあれこれ試したようですが、
1970年代から、彼はミニマルミュージックに近い
ピアノ曲を数多く手がけるようになります。


このCDボックスに収められたカント・オスティナートが
発表されたのは1979年のことです。


1980年代から、彼の作品はオランダ国内で
人気を集めるようになったそうです。

ゼッタイお買い得!


このCDボックスは、
ピアノ奏者のイェローン・ファン・フェーンが、
テン・ホルトの作品に惚れ込んで作り上げたものです。


ブリリアントクラシックからこうした現代作品が
リリースされるのは珍しいのですが、
オランダのレーベルなので、自国の作曲家の作品を
バックアップしようということなのでしょう。


現代の知られざる名曲が、
こうしてまとまった形で、安価に手に入るというのは
うれしいことです。


ともかく、まちがいなくコレは掘り出し物
だまされたと思って、ぜひお聴きください。
4000円払っても、じゅうぶん元が取れると思いますよ。


ただ、こんな音楽を聴いていても、
女の子にはもてないと思いますけど。


(この稿完結)

*1:ライヒの曲は、テクノのミュージシャンがリミックス(?)しても違和感がありませんが、テン・ホルトの曲は、そういう機械的な再構成には向いていない感じがします。