伊福部昭、卆寿記念コンサートを聴く!

putchees2004-12-24


今回のCD

伊福部昭の芸術(8)特別篇 卒寿を祝うバースデイ・コンサート 完全ライヴ

曲目

  1. フィリピンに贈る祝典序曲
  2. 日本狂詩曲
  3. SF交響ファンタジー第1番
  4. 交響頌偈《釋迦》
  5. シンフォニア・タプカーラより第3楽章

本名徹次(指揮)/日本フィルハーモニー交響楽団管弦楽)、
東京混声合唱団、コールジューン、卆寿祝賀合唱団(合唱)
キングレコードKICC469-470)

卆寿は90歳、白寿は99歳!


去る2004年5月31日、赤坂サントリーホール
伊福部昭卆寿記念コンサートを聴いてきました。


プログラムは以下の通りです。


フィリピンに贈る祝典序曲(1944)
日本狂詩曲(1935)
SF交響ファンタジー第1番(1983)
(休憩)
交響頌偈「釈迦」(1989)
(アンコール)シンフォニア・タプカーラより第三楽章(1954/1979)


指揮は本名徹次管弦楽は日本フィルハーモニー交響楽団でした。


当日はわが敬愛する伊福部昭先生の、まさにお誕生日。
大正3年第一次大戦の始まった年)に生まれて、
満90歳を迎えられたのです。


コンサートは親密な雰囲気で、すばらしい一夜でした。

委嘱は大日本帝国政府!


「フィリピンに贈る祝典序曲」は、
伊福部昭が第二次大戦中に、
当時の日本政府にムリヤリ作らされた国策の曲。


ピアノ2台とオケという、二重協奏曲(ダブルコンチェルト)のような編成。


エネルギッシュで、野蛮で、南国風味のある佳曲でした。


本名徹次のタクトがいい感じにうなってました。


終曲部、強引にアップテンポでガンガン盛り上げていくところは、
まさに伊福部昭の本領。

「ジャパニーズラプソディ」の緩徐楽章に酔う!


「日本狂詩曲」は、伊福部昭が21歳で書いた初のオーケストラ曲。


彼の作品リストの中でも最高峰に位置する傑作ですが、
当日の演奏は、第二楽章「祭り」がもったりしてて、やや不満でした。
もう少し早いテンポのほうが、ぼくは好きです。


その点では、2002年の9月に東京芸術劇場(池袋)で聴いた
都響/沼尻竜典指揮のほうが、ずっとよかったです。


ただ、第一楽章「夜曲」は、すばらしい出来でした。
冒頭のヴィオラソロから、鳥肌の立つ思いがしました。
そして白眉は、エンディングのヴァイオリンソロです。
すばらしいビブラートで、情緒纏綿たるメロディを歌ってくれました。
日本フィルのコンサートマスターに拍手!

ゴジラとイフクベは真の同盟者なのだ


「SF交響ファンタジー」は、
毎度聴いているので特筆すべきことはないです。


休憩の前に、本名徹次がマイクを持って、
バースデーのメッセージをアナウンスしました。


そこへ着ぐるみのゴジラ登場。
ゴジラから花束贈呈です。
伊福部昭は立ち上がって、ゴジラと握手。


そのとき、ぼくはなぜか涙が止まりませんでした。


孤独に50年間戦い続けてきたゴジラと、
世の音楽の潮流に反して孤独に作曲を続けてきた伊福部先生の姿が、
そのままぴったり重なったからです。


大きくて、怖そうだけどユーモラスで、孤独で、雄壮で、凛として。


ゴジラ伊福部昭は、ほんとうにおたがい分身のようです。

仏陀の生涯を描く野心作!


休憩後の「交響頌偈 釈迦」は、実演を聴くのは初めてでした。


大編成のオーケストラに、混声合唱つきで、
演奏時間40分以上に渡る、
おそらく伊福部昭にとって最大の曲です。


釈迦の生涯を描くという野心的な曲ですが、
これがもう感動の嵐。


途中、ゆるやかな部分が続いて、
ちょっと飽きたかなと思うところに、
伊福部らしいダイナミックなリズムが現れて、
一気に眠気が醒めます。


あとは怒濤の伊福部節。


分厚い合唱とオケの大音響。
もう、最後には体を震わせて嗚咽するばかりでした。
ほんとに素晴らしいんだよ!…くうっ(涙)!!

15分間、鳴りやまない拍手


そしてアンコールで、
シンフォニア・タプカーラの第三楽章。
演奏は荒れていたけど、アンコールとしては申し分ありませんでした。


(2002年、米寿記念コンサートで石井眞木の振った
シンフォニア・タプカーラは、これまでコンサートで
経験した中で最高の音楽でした)


鳴りやまない拍手の中、
伊福部先生は車椅子で退場されました。


ファンからこれほど温かい拍手で賞賛される作曲家が、
ほかにいるでしょうか?


いまの世界でただひとり、
伊福部昭だけだとぼくは確信します。


いつまでもお元気で!

パンフレットも充実の内容


当夜は、音楽関係者が多数来場していたらしいです。


伊福部門下が全員集合していたのはもちろんですが、
ぼくが見かけたのは、井上道義池辺晋一郎*1
それに東宝の富山省吾プロデューサーでした。


井上ミッチーはともかく、
池辺晋一郎がどういう思いで聴いていたのか、
ちょっと訊ねてみたい気がします。


当夜のパンフレットには、片山杜秀和田薫、甲田潤が
それぞれ力のこもった文章を寄せていました。
年表も充実していて、資料的な価値も高いものです。


そして、指揮の本名徹次がこのコンサートに寄せた文章が、
以下のURLに掲載されています。


http://www.japanphil.or.jp/concerts/040531.html


日本人が、同じ日本人作曲家の作品に対していかに無関心か、
考えさせられます。

キングレコードは偉い!


さて、当夜の演奏が、キングレコードの手によってCD化されています。
2枚組の完全収録です。
当日行けなかったという人は、ぜひ手に入れてください。


少なくとも、「釈迦」に関しては、フォンテックがリリースしている
石井眞木指揮のものより、はるかにすぐれているのではないでしょうか。
(録音されたものを聴くとどう感じるか、ちょっとわかりませんが)


それにしても、日本人作曲家で、コンサートの模様が
次々にCD化されるというのは、極めて異例なことです。


レコード会社の担当者の執念と熱意を感じます。


この「伊福部昭の芸術」シリーズ*2が続くためにも、
ぜひ、ひとりでも多くの方が購入されることをおすすめします。


伊福部音楽の入門としても、最適の内容ではないでしょうか。



ただ、こんなCDを聴いていても、女の子にはぜったいにもてません。

*1:いろんなコンサートでよく見かける。偶然?

*2:キングレコードではほかにも芥川也寸志早坂文雄ニーノ・ロータの曲を新録でCD化しています。すばらしいことです。