セシル・テイラーのクールなピアノを聴け!

putchees2004-12-25

今回のCD

The Cecil Taylor Quartet/Looking Ahead!

曲目

  1. Luyah! The Glorious Step
  2. African Violets
  3. Of What
  4. Wallering
  5. Toll
  6. Excursion On A Wobbly Rail

メンバー

フリージャズのチャンピオン?


セシル・テイラーというピアニストがいます。


アフリカ系アメリカ人で、
フリージャズのピアニストです。


1929年生まれ。60年代から、
モーレツなフリージャズを演奏し続けています。


フリージャズの帝王といってもいいかもしれません。


とはいえ、阿部薫の稿で書いたように、
極端に人気のないこのジャンル、
帝王といっても、たかが知れています。


フリージャズ全体のリスナーが
全世界で10,000人以下しかいないのは、
おそらく間違いのないところです。


その中で、セシル・テイラーのファンが
全世界にはたして何人いることか…。

食わず嫌いしないで聴いてみて!


そのセシル・テイラー
ジャズの名盤大全みたいな本を読むと、
帝王とまではいかなくても、
たいがい、「前衛のチャンピオン」「孤高の即興演奏家
みたいな書き方をされているので、
初心者にはまず手が出せません。


2,000円のCDを買って大失敗したら、
あまりに痛いからです。


初心者は、マイルス・デイヴィスMiles Davis
ビル・エヴァンスBill Evans
それにジョン・コルトレーンJohn Coltrane
といった無難なものを聴くと決まっています。


なぜなら、ぼく自身がそうだったからです。


ジャズを聴き慣れてきくると、
周囲の人が、前衛ジャズの代名詞として
セシル・テイラーみたいなメチャメチャの……」などと
無責任に口にするので、ますます聴く気になれなくなります。
(そういうことを口にする人に限って、セシル・テイラーなど
ちゃんと聴いたことがないのですが……)


どのジャンルでも起こりうる悪循環です。


いっぱしのスノッブになると、
セシル・テイラーというと、聴いたこともないのに、
ハナから馬鹿にして、わかったような気になってしまいます。


それはたいへん悲しいことです。


ぼく自身、後年セシル・テイラーの音楽のすばらしさを知って、


「ああもっと、早く聴いておけばよかった!!」


と、嘆息したからです。


別に、彼の音楽は難解ではありません。


音楽を聴くことの快感に満ちています。


まあ、いっぺん聴いてみて!


食わず嫌いは一生の損ですよ。


この間まで食わず嫌いだったぼくがいうのですから、
間違いありません。

最初に聴くセシルのアルバムはこれ!


ただ、どんなミュージシャンでもそうですが、
最初に聴くアルバムは選ぶべきです。


いきなりフリージャズのメインディッシュに行くのが怖いという人は、
これから聴いてみてはいかがでしょうか。


59年録音の「Looking Ahead!」(Contemporary)がそうです。


これ、肩すかしを食らうぐらい、フツーのジャズです。


セシルのピアノトリオと、ヴァイブ(ヴィブラフォン)のカルテットです。
紛れもなくモダンジャズです、


ぼく自身、これを聴いて、セシル・テイラー
弾いていると知って驚いたほど。


ただ、59年録音とは思えないくらい、クールなサウンドです。


当時としてはかなり尖鋭的な演奏だったのではないでしょうか。


とくにセシルのピアノは、


ギャギャギャン!


と、激しく叩きつけるようなタッチとか、
不思議な間の取り方とか、ホントにクールで、
とても45年前の録音とは思えません。


後年の烈しいプレイの萌芽を十分感じさせます。


ここからなにかが生まれてくる予感をはらんだような、
エキサイティングな演奏です。


現代音楽的といわれればそんな気もします。


フリージャズに限らず、ジャズ全般に
興味のある人なら、聴いて損はしない一枚です。


この時期のセシルはもう一枚、
「Love For Sale」(1959/United Artists)
という、まるでビートルズナンバーのような
名前のアルバムも残してます(同じなのは名前だけですが)。


これもまたホットでクールな演奏です。


アヴァンギャルド一歩手前で踏みとどまっているところが
妖しい魅力を醸しています。


特にアナログ盤A面のピアノトリオによる演奏はゴキゲンです。


カニカルかつパーカッシブ。


まるで未来派ピアノ曲を聴くような快感です。


ほかに似たスタイルのピアニストが思いつかない、
個性的なサウンドです*1


こちらもぜひお試しを。


ただ、言うまでもないことですが、こんなCDを聴いていても、
女の子にはぜったいにもてません。


(この文章は、以下のURLに2004年3月5日に掲載したものを、大幅に改訂しています)
http://putchees.m78.com/newsanddiary.html

*1:あえて近いスタイルのピアニストを探すとすれば、セロニアス・モンクでしょうか