これぞジャズ!西荻窪で板橋文夫を聴く!
今夜はオーソドックスなジャズでした
名盤「渡良瀬」が復刻されたばかりのピアニスト*1、
板橋文夫のライブに出かけてきました。
場所は西荻窪「アケタの店」。
ピアニスト/オカリナ奏者・明田川荘之がオーナーを勤める小さなライブハウスです。
ぼくはこの店に、およそ10年ぶりに出かけてきました。
なんか、入口の様子が変わったような…記憶違いかな。
さて、今夜のお客さんは全部で16人。女性が10人、男性がぼくを含めて6人でした。
なんと、女性のほうがおよそ倍も多いではないですか。
「女にもてない」ことを紹介する条件にしている当レビューの根幹を揺るがす事態です。
とはいっても、みんなデートじゃなくて、
真剣に音楽を聴きに来ている人たちでした。
こうでなくちゃいけません。
女性の聴衆が多いというのは、板橋文夫のピアノが、
一見荒々しいようで、実はとても優しく、温かで、
人間味にあふれているからではないでしょうか。
血沸き肉躍るこのサウンド!
きょうの演奏は、かなりフツウのジャズでした。
もちろん、スタンダードを演奏していても、
あの爆発的なテンションは健在です。
ただ、これまで2回聴いた経験よりは、
やや控えめかなという印象でした。
音数の多いベースのソロが続くと、
ちょっと眠くなってしまいました。
しかし、板橋文夫が踊るようにピアノをガンガン叩きはじめると
居眠りなどしていられません。
血が騒ぐとはこのことです。
ステージの最後は、サンバのリズムで、ミュージシャンも聴衆も昇天です。
ジャズって不思議な音楽です。
簡素なドラムセットと、ウッドベースと、ピアノ一台で、
これだけ聴衆を熱狂させてしまうのですから。
ロックでもクラシックでも、
ミュージシャンはステージで燃え上がるものでしょう。
ただ、奇跡に立ち会うことができる可能性は、
ジャズのほうがはるかに高いのではないでしょうか。
即興演奏には、魔物が潜んでいます。
始まってみなければ、どうなるかわからないのですから。
だからジャズは面白いのです。
共感が広がっていくあたたかな音
板橋文夫は、決してテクニシャンではありません*2。
華麗でも、流麗でもありません。
ただ、音の力は、凡百のピアニストをはるかに凌駕しています。
オーネット・コールマンOrnette Colemanの稿で書いたように、
ジャズというのは、音色(サウンド)がすべてです。
板橋文夫のピアノも、他のピアニストと間違えようのない個性的なものです。
ふと思ったのですが、彼のピアノのサウンドは、
外側へ広がっていく力を持っているような気がします。
彼の音楽を聴いた人同士がつながっていけるような、
共感と温かみに満ちた音なのです。
内省的で、外側の世界と隔絶した印象を与えるサウンド……
たとえば、ポール・ブレイPaul Bleyのピアノなどと比べると、まったく対照的です。
あっけらかんとして、陽性で、飾らないサウンド。
聴衆に一体感が広がるような音楽です。
それこそが、板橋文夫の音が持つ、真の力なのかも知れません。
彼の比類なきサウンドは、日本ジャズ界の宝です。
彼の音を、こうして気軽に聴きに行けることを、感謝すべきなのです。
ぜひみなさんも、いちどライブで彼のあたたかい音を聴いてください。
精力的にライブを行っている彼は、日本全国で聴くことができるはずですから。
ただ、こんなジャズを聴いていても、女の子にはぜったいにもてません。