ジャズ史上最高のソロピアノ、セシル・テイラー畢生の名演を聴け!

putchees2005-02-10


【今回のCD】

サイレント・タンSilent Tongues
セシル・テイラーCecil Taylor
(1974/2000ドイツ・da Music/CD877633-2)
(ASIN: B00004SVHY)

【ミュージシャン】

セシル・テイラー(piano)

【曲目】

1.Abyss [First Movement] /Petals and Filaments [Second Movement] /Jitney
2.Crossing [Fourth Movement] , Pt. 1
3.Crossing [Fourth Movement] , Pt. 2
4.After All [Fifth Movement]
5.Jitney No. 2
6.After All No. 2
(1974年7月2日、モントルージャズフェスティバルMontreux Jazz Festivalにおけるライブ録音)

コワいジャケットにめげるな!買え!そして聴くのだ!


セシル・テイラー
74年のモントルージャズフェスで行ったソロパフォーマンスの実況録音盤です。


ジャケットがコワいです。
これ、最近のセシルじいさんの写真です。


なにも知らない人が、こんなジャケを目にしたら、
思わず後込みしてしまうでしょう。


ただ、オリジナルのジャケットはたいへんかっこいいです。
若きセシルおじさんの知性的な笑顔があしらわれています。


オリジナルジャケットのCDも出ていますが、
このコワいジャケットのほうは、
どうやら新しくマスタリングされて音質が向上しているようです。
まあ、ジャケットにめげず、聴いてみてください。


中身を聴いたら、あまりに安い買い物だったとわかるはずですから。


このCDは、フリージャズではありますが、かといって、
ごちゃごちゃとやかましい、退屈な前衛音楽を想像しないでください。


このCDに収められているのは、厳粛な美に溢れた音楽なのです。
すべての先入観と予断を取り去って、素直な気持ちで聴いてください。


そうすれば、きっと心に響くものがあるはずです。

名門ジャズフェスは出演者が豪華!


さて、スイス、レマン湖に臨む保養地・
モントルーで行われるジャズフェスティバルは、
1967年のスタート以来、数多くの名演を残してきました。


1974年のフェスでは、
マディ・ウォーターズMuddy Watersソフト・マシーンSoft Machine
ジョン・マクラフリンJohn McLaughlin
マハヴィシュヌ・オーケストラMahavishnu Orchestraや
ギル・エヴァンス・オーケストラGil Evans Orchestra、
アート・アンサンブル・オブ・シカゴArt Ensemble of Chicago
などが出演しています。


さらにはフローラ・プリムFlora Purimやミルトン・ナシメントMilton Nascimento、
ソニー・ロリンズSonny Rollinsラリー・コリエルLarry Coryellなんかも出演してます。


メインストリームもアヴァンギャルドも、
ブルースもブラジルもごちゃまぜなのがすばらしいです。


しかしこのラインナップ……すげえな、オイ!
全部聴きたいよ。

大観衆を魅了したセシルの独奏ピアノ


セシルのステージは、
7月2日、Congres Montreuxで行われました。
約50分の持ち時間で、セシルは、圧倒的な演奏を繰り広げます。


たったひとりのミュージシャンの前に大観衆がいることが、録音からわかります。
Cecil Taylor!!」という力強いアナウンス、喝采
そしてピアノ演奏が始まります。


緩やかで印象的なテーマから始まり、
彼のピアノが、次第に熱をはらんでいきます。
1曲目の3分を過ぎたころから、ただならぬ気配が満ちてきます。
タッチは強くなり、聴いていてこわいほどです。
そして、スピードがどんどん上がっていきます。
ただでさえ速い彼のピアノが、
亜光速から、ついに光速にまで達します。
あとはステージのラストまで、
観衆を巻き込んで、熱狂と感動の嵐です。


彼の超光速のピアノが突如ピタリと停まると、
別の曲に移ります。
そして新たな音の冒険に漕ぎ出すのです。
最後は、静謐な美しいテーマが奏でられて、
ステージが幕を閉じます。

言葉を失う至高の美


彼は、あらかじめ作られた曲を持って演奏に臨んでいますが、
即興で、まったく自由に展開させていきます。


あまりに自由でありながら、
あまりに美しく均整の取れた音なのです。


これを聴いて、セシル・テイラーのピアノがデタラメだという人は
どこにもいないでしょう。


これこそジャズの醍醐味、音楽の真髄です。


いったいどうやったら、こんな演奏ができるのでしょう。


ジャズピアニストのソロ演奏は、キース・ジャレットKeith Jarrett
セロニアス・モンクThelonious Monkなど、数多く残されていますが、
この録音は、それらすべてを軽く凌駕しています。


これに比べたら、キースの「ケルン・コンサート」なんて、
ただの甘いBGMです。


猛烈なスピード、稠密さをきわめた音。
強靱で、確信に満ちたタッチ。
そして典雅で、光輝を放つ美しい音。


このような音楽をなんと呼べばいいのでしょう。


紛れもなくフリージャズですが、
そうしたジャンルの枠組みを超えていくパワーを秘めています。


ジャズはおろか、ロックやクラシックまで含めて、
古今のどんなピアニストでも実現することができなかったサウンドを、
セシルは軽々と表現しています。


決して悲壮感もなければ、押しつけがましい情念の発露でもありません。
透徹した普遍的な音とでもいいましょうか。


これを聴いたら、ジャズでもロックでもクラシックでも、
あらゆるジャンルのリスナーは、
ビックリしてしまうに違いありません。


こんな音楽、ほかのどこにもないからです。
あったら教えて下さい。


ただ美しい。


あまりに美しいのです。


完璧な音楽というものがあるとすれば、
そのひとつのカタチがここにあります。


このようなものを前にしたとき、
ぼくたちは言葉を失うばかりです。


語り得ないものについては、沈黙しなければならないのです*1


まさに「沈黙の言語」。いいタイトルです。


なんか、レビューなんて書くのがばかばかしくなってきました


あまりに陳腐な言葉しか浮かんでこないからです。


こんな日は、「Silent Tongues」でも聴いて、おしっこして寝ることにしよう。


みなさんもそうしてください。


永遠の輝きを放つ、音楽史上の記念碑です。


ただ、こんなCDを聴いていても、女の子にはぜったいにもてません。

*1:あたりまえだ