渋谷クアトロで渋さ知らズを聴く!

putchees2005-04-18


今回はライブ報告です


渋さ知らズオーケストラ」
日時:2005年4月17日
場所:渋谷・クラブクアトロ19:30〜22:15

ミュージシャン

不破大輔(ダンドリスト・指揮)
片山広明/佐藤帆/吉田祥一郎(テナーサックス)
小森慶子/立花秀樹/川口義之(アルトサックスほか)
鬼頭哲バリトンサックス)
北陽一郎/辰巳光英(トランペット)
高岡大祐(チューバ)
太田恵資(ヴァイオリン)
斉藤社長良一/大塚寛之(以上ギター)
ヒゴヒロシ/オノアキ(以上ベース)
中島さちこ/須賀大郎(以上キーボード)
関根真理(パーカッション)
倉持整/磯部潤(以上ドラムス)
室館彩(フルート・ボーカル)
ペロ/Rott/東洋/ふる/ちえ/しもん/渡部真一(ダンス・舞踏ほか)
(メンバーは「地底新聞」掲載のものを、わかる範囲で修正しています)

欧州ツアー直前の壮行ライブ


情熱☆熱風フリージャズバンド、
渋さ知らズのライブに行ってきました*1


場所は渋谷・クラブクアトロ
老舗のライブハウスです。


狭すぎず、広すぎず、このバンドを聴くには
ちょうどいい会場ではないでしょうか。


今回も超満員でしたが、4月1日のピットインのときのような
息苦しさはありません。


ホールの天井が高いというのはいいことです。


客層はジャズクラブと違って、フジロックフェスティバルの聴衆に近い、
若い人が多かったようです*2


「P-CHAN」や「火男」に合わせて、みんな踊り狂っていました。


本日の編成は、ミュージシャンが22人ほど。
「オーケストラ」を名乗るときの標準的な人数でした。


今回はゲストもなく、4月19日からのヨーロッパツアーを
にらんで、渡欧メンバーによる壮行ライブという印象でした*3


トピックを挙げるとすれば、ヴァイオリンの勝井祐二
ドラムスの芳垣安洋が不在だったことです。


しかし、サウンドはもちろんいつもの渋さ知らズでした。

演奏の内容はごく標準的


渋さ知らズの演奏の質を云々するのは、
あまり意味のあることとは思えません。


なぜなら、基本的にはいつもいっしょだからです。


評価の善し悪しは、そのときの聴き手の体調や気分に、
多分に影響されるように思われます。


とはいえ、繰り返し聴いていると、
ステージごとの違いがいくらかわかってくるものです。


これまでのステージの記憶と比較した印象からすると、
今回の演奏は、ごく標準的なものでした。


演奏時間は、約2時間半。
途中、休憩をはさまなかったので、これが限界でしょう。
アンコールもありませんでした。聴衆も疲れていたのでしょう。


終了後、会場前で「こんなに長くやるとは思わなかった」
という声が聞かれましたが、
休憩をはさんだ場合、彼らの演奏は4時間近くになることもあります。

会場の音響はきょうもいまひとつ


いつも気になる音響(PA)についてですが、
今回も、ベストのバランスとは言いがたいものでした。


ギター、ベース、ドラムスといった
リズム隊の音は明瞭なのですが、肝心のホーンのバランスが、
うまく取れていなかった印象です。


10人以上の管楽器群がブワーッと吹いたときにできる
音の塊が、うまく表現できていなかったのです。


一緒に聴いていた友人は、
「なんか遠くのほうでコチャコチャやってる感じ」
と表現していました。


あれだけの人数のバンドのPAをやるというのはそれだけでもたいへんですが、
担当のエンジニアにはがんばってもらいたいものです。

演奏にはほころびもありましたが…


さて、演奏のほうですが、
4月1日のピットインでのステージにくらべると、
ほころびが目立ちました。


まず「火男」で北陽一郎のトランペットソロから
怒濤のテーマに突入する瞬間がしくじっていました。


そのほか、不破大輔の指示でテーマの各パート*4へもどるときに、
いくつか混乱している箇所がありました。


ああいうところは、うまくそろっていたほうが、
気持ちがいいものです。


ただ、はっきり言っておきたいのは、
だからといって彼らを難じるのはおかどちがいだということです。
お行儀のいいまとまったアンサンブルを聴きたいなら、
スカパラ」でも「熱帯ジャズ楽団」でも聴きに行けばいいのです。


渋さ知らズにとって、曲が破綻するというのは、
たいしたことではありません。


彼らの音楽の魅力は、もっと深いところにあるのですから。

今回注目のソロイストたち


さて、今回のステージで印象的なソロを披露してくれたのは、
テナーサックスの片山広明は別格として、
バリトンサックスの鬼頭哲
アルトサックス・ハーモニカの川口義之、
キーボードの須賀大郎などでした。


泉邦宏が抜けて手薄になった渋さのアルトサックスパートを支えるのは、
川口義之の音色だろうと思っています。


彼はブルースハープを多用していますが、
もっとアルトのソロを聴かせてほしいものです。
たいへんいい音色を持っているのですから*5


1月のO-EASTでも印象的だったのですが、
須賀大郎のキーボードの迫力はなかなかのものです。


マイルスバンドMiles Davis時代のチック・コリアChick Corea
サン・ラSun Raを合わせたような知的で熱狂的なソロは、
もっとちゃんと聴いてみたいと思わせます。


そのほか、太田恵資のヴァイオリンも、いつもながらよかったです。

得意のホーミーこそ出なかったものの、アヤしいアラブ風歌唱で
ステージを異界に変えていました。
勝井祐二のいない穴を埋めるのは彼しかいません。


斉藤良一(通称・社長)のギターの弦が繰り返し切れていたのは、
残念なことでした。大塚寛之(通称:さるへん)とのギター合戦を
もっと聴いてみたかったのですが。


そのせいで大塚寛之のギターの出番が多かったのですが、
今回はちょっと大すぎだったかもしれません。
彼のペンタトニックスケールソロは、ここぞというときに聴きたいものです。


北陽一郎は、「火男」ではしくじっていましたが、
彼らしい火の出るような鋭いソロを聴かせてくれました。


しかし、トランペットのふたりそろってポケットトランペットを
使っているというのは、たいへん面白いことです*6


「P-CHAN」における、ドラムスふたりのソロも、
たいへんすばらしいものでした*7


ちなみに、急逝した高田渡を悼んで、
ステージの冒頭は渋さのレパートリーでもある「自衛隊に入ろう」でした。

渋さ知らズの曲は、彼らだけのもの


自衛隊に入ろう」を除けば
きょうの曲はすべて渋さ知らズのオリジナルで、
最近のレパートリーになっているものばかりでした。


曲とバンドが、これほど不可分になっているケースというのは、
たいへん珍しいのではないでしょうか。


渋さ知らズの曲は、渋さ知らズだけのものです。


他人の曲を渋さが演奏することは可能でも、
その逆というのはあり得ないのです。


ほかのバンドが「本多工務店のテーマ」などを演奏して、
彼らのようなすぐれたサウンドを作ることができるとは、
到底考えられません。


その点からも、渋さ知らズサウンドがきわめて
ユニーク*8で、すぐれたものであることがわかります。

ヨーロッパでもがんばれ


例によってステージは「本多工務店のテーマ」で締めくくられたのですが、
その折に、ダンサーたちが、ニセ札のようなものをステージからばらまいていました。
終了後に確認すると、それは欧州通貨ユーロEuroの最高額紙幣、
500ユーロ札*9を模した、欧州ツアーの日程表でした。


そこからツアーの行程を引用してみます。


渋さ知らズ欧州ツアー2005
【4月】ロシア〜ベルギー
【5月】ドイツ〜スイス〜ドイツ〜帰国〜ドイツ〜スイス
【6月】オランダ〜ドイツ〜スロヴェニアオーストリア〜帰国?
【7月】ポーランド〜帰国?
【8月】ウクライナ〜帰国?〜イタリア(サルジニア)
【9月】スイス


途中、何度かの帰国をはさみながら、実に半年に及ぶ、
長丁場のツアーが組まれています。


総計27回、彼らはステージに立つ予定です。
この中には、おなじみのメールスジャズフェスティバルMoers Festival*10や、
リュブリャナLjubljanaでのフェスティバル*11が含まれています。


夏季の欧州では、各地でジャズフェスティバルが開催されるため、
それに合わせて転戦するかたちです*12


今回ドイツでの公演が多いのは、日独両政府が行っている
「ドイツにおける日本年」の影響もありそうです。


なにぶん30人以上の大所帯ですから
ミュージシャンと製作担当の人たちにとってはたいへんですが、
ぜひ、今年もヨーロッパの聴衆を驚倒させてほしいものです。

ニセモノを蹴散らせ!ホンモノの音楽を!


お上品な音楽だけがすばらしいと思いこんでる連中には、
圧倒的に下品なフリージャズのすばらしさを。


アンサンブルの完璧さが大切だなんて思いこんでる連中には、
間違いだらけでも力押しで圧倒するパワーの大切さを。


凝ったアレンジが不可欠だなんて思っている不幸な人には、
単純さの美学を。


テクニックがあればいい音楽ができると勘違いしている連中には、
サウンド(音色)がいちばん大切だということを。


音楽なんてコンピュータでちょこちょこ、
小手先で作れば十分だなんて思ってる連中には、
汗をかきながら人力で演奏する音楽の底力を。


音圧というのは、いいコンプレッサーとか機材を使えば
簡単に表現できると思いこんでる甘ちゃんには、
大人数で「せーの」で演奏するホンモノのド迫力を。


ただレコードを選んでかけてるだけで
自分はクリエイティブだと思いこんでいる馬鹿どもには、
真に音楽を創造するということの意味を。


要するに、ホンモノのジャズを、ホンモノの音楽というものを、
いやというほど見せつけてやってほしいのです。


今年のツアーが大成功を収めることを願ってやみません。


しかし、こんな音楽を聴いていても、女の子にはぜったいにもてません*13

*1:渋さ知らズについては、以下の記事も読んでみてください。id:putchees:20041220、id:putchees:20041221、id:putchees:20050114、id:putchees:20050403

*2:背の高い欧米人の一団がフロアのど真ん中にいたのが、後ろのオーディエンスにとっては困りものだったかもしれません

*3:彼らは毎年、欧州ツアーの前に東京でライブを行っています。2002年5月の渋谷ON AIR EASTでのステージは、「European Tour In Japan」として映像ソフト化されています。

*4:曲を構成する各パート、つまりAA'BA''の「A'」とかのこと

*5:新しく加わった立花秀樹は、まだまだ音色が細いようです。今回はアンソニー・ブラクストンAnthony Braxtonふうのソロを聴かせてくれました。

*6:ポケットトランペットpocket trumpetというのは、管の長さは一緒で、一回余分に巻いてあるために、サイズがコンパクトになっているB管トランペット。普通のトランペットより若干くぐもった音がします。

*7:全体を通してみると、今回のベストはこの「P-CHAN」でしょうか。

*8:いつも書いているように、「唯一無二の」という意味です。

*9:実物を見かけることはまずない。

*10:日本人フリージャズミュージシャンの欧州デビューの場といえる。

*11:ユーゴスラヴィア時代に山下洋輔などが出演した、歴史のあるジャズフェス。1976年、セシル・テイラーCecil Taylorはこの地で世紀の傑作「Dark to Themselves」を吹き込んだ。

*12:このスタイルは、60年代初期から、ジャズ界では一般的なものでした。

*13:その確信は深まるばかりです。とほほ。