古代アジア神秘の楽器、笙のサウンドに酔う!(前編)

putchees2005-07-14


興味のない人もためしにどうぞ


この手の音楽レビューというのは、
自分が興味のないジャンルだと、
まず読まないものです。


対象となる音楽のことを知らないで
文章だけ読んでも、つまんないですからね。


音楽評には自律性がありません。
単独では生きられない宿り木みたいなものです。


当たり前のことです。
しかしぼくはその常識に挑みます。


対象となる音楽のことを知らない人でも、
読んで「へー」と思うような文章を書きたいものです。


ぼくがここで取り上げているような
ジャンルの音楽に、ひとりでも多くの人が
関心をもってほしいからです。


メジャーなジャンルを扱う場合は、
文章が多少読みづらくても、
そのファンの人は読んでくれるでしょう。
しかし、このサイトのように
マイナーなジャンルを取り上げる場合は、
文章の間口を広くしないと、誰も読んでくれません。


ですからなるべく、予備知識がなしで
誰でも楽しく読めるようにしたいものです。


ほとんど絶望的な挑戦ですが、
せいいっぱいがんばります。


今回はコンサート報告ですが、
行ってない人でも楽しめるようような内容にするつもりです。
専門知識は必要ありません。
なにしろぼくも素人ですから。


どうぞ、下のほうまで読み進めてみてください。

今回はコンサート報告です


●伶楽舎雅楽コンサートNo.14
 〜笙 たちのぼる音〜


●日時:2005年7月2日(土)
 14:00〜16:15
●場所:東京 四谷区民ホール

曲目


第1部 壱越調調子、迦陵頻急 (笙ソロ) 
    佐藤聡明「時の静寂」 
    東野珠実「まばゆい陽射しを仰ぎ見て」
第2部 平調音取 鶏徳 陪臚 (管絃)
    平調調子(笙と竿(う)/8人編成)

ミュージシャン


宮田まゆみ(笙)ほか

雅楽って知ってます?


今回もコンサートのレビューです。
(次回はそろそろCDをご紹介します)


1週間以上経ってからの報告になりますが、
今回は雅楽を聴いてきました。


雅楽。ご存じでしょうか。


小学校や中学校の音楽教材として、
「越天楽えてんらく」くらいは
耳にしたことがあるかもしれません。


神社から聞こえてきそうな音楽です。


ヒヤー、ミャー、ポク、ポク。


そんな感じの音楽です。


え、ぜんぜんわからないですか?
ごめんなさい。


でも、日本人なら、生涯でいちどくらいは
耳にしたことがあると思います。


たとえば、雅楽の楽器に
篳篥(ひちりき)というものがあります。


最近、イケメン篳篥奏者の東儀秀樹という人が人気です。
彼の名を聞いて、なるほどと思う方は多いかもしれませんね。
音楽の内容はトンチキですが、
篳篥という楽器を広めた功績は認めてもいいでしょう。


雅楽は笙や篳篥龍笛、琵琶、鞨鼓(かっこ)、
鉦鼓(しょうこ)といった楽器によって演奏されれます。


とりあえずこれらの楽器の説明は省きます。
古くからある楽器だと考えていただければ結構です。

1100年以上前からそのまんま!!


雅楽は日本の伝統音楽の中で唯一、
多くの楽器による合奏を行うジャンルです。


日本の支配階級に1000年以上前から伝わる、
一種の宮廷音楽なのです。


もともとは中国で発展した音楽だったのですが、
発祥の中国大陸では絶滅してしまい、
朝鮮半島(韓国)と日本に現在も残っています*1


日本の雅楽は、5世紀以降少しずつ、
大陸各地から伝えられてきました。
それが9世紀に日本人の感性に合うように整えられ、
おおむねそのままのかたちで現在まで伝わっています*2


驚くべきことです。


西洋には、それほど古くからまとまって
伝わっている音楽など、なにひとつないのですから。


いうまでもなく雅楽の楽器も、
1000年以上前から、
そのままのかたちで伝わっています*3


そのうちのひとつが笙(しょう)です。
細い竹を束にして、顔の前に立てて吹く楽器です。
見たことがあるでしょうか?
この稿のトップに掲げた写真がそうです。


きょうのコンサートは、
この笙という楽器にスポットライトを当てた
レクチャーコンサートでした。


笙の奏者として欧州などでも活躍している
宮田まゆみの解説を交えながら、
笙の音色を堪能できる2時間でした。


宮田まゆみは、武満徹一柳慧*4
ジョン・ケージJohn Cageなどの曲を初演し、
1998年の冬季オリンピック長野大会
長野オリンピック)では、
笙で「君が代」を演奏しました。


たいへん意欲的な笙奏者のようですね。


会場は新宿御苑の目の前にある四谷区民ホールです。
新宿区の施設ですが、都心近くに
こんな立派なホールがあるとは知りませんでした。


客席は450だそうです。
利用料は格安のようですから、
ミュージシャンの方は、ここを
活用してみてはいかがでしょうか。


さて、客席は6割の入りという感じでした。
土曜日の午後とはいえ、これだけマニアックなコンサートに
200人以上も集まったことになります。
老若男女、幅広い客層で、西洋人の姿も見られました。

伝統にとらわれない雅楽演奏団体


今回のコンサートは、伶楽舎れいがくしゃの主催でした。
この伶楽舎は、元宮内庁楽部所属の龍笛*5奏者・
芝祐靖しば・ゆうすけが率いる雅楽演奏団体です。


雅楽というのは、宮内庁楽部*6に代表されるように、
おもに世襲の楽師で継承されてきたのですが、
伶楽舎に集う演奏家たちは、それぞれ
音楽としての雅楽に魅了されて集まった人たちです。


儀式としての雅楽ではなく、
音楽、舞踏の総合芸術としての雅楽を追求しているわけです。


伝統曲を演奏するだけでなく、
現代の作曲家による新作雅楽を手がけるなど、
たいへん意欲的に活動しているグループです。


雅楽を身近なものにするために、
今回のようなレクチャーコンサートも
開いているというわけです。


ちなみに、伶楽舎のサイトはこちらです。

http://reigakusha.com/japan/index.html


さあ、今回はどんなコンサートだったでしょうか。


(以下、後編につづく→id:putchees:20050717)

*1:朝鮮半島では正楽と呼んでいたそうですが、現在の大韓民国では、ほかの伝統音楽と合わせて国楽と呼ぶそうです。

*2:もちろん新曲が加わったり、派生ジャンルが生まれたりはしていますが。

*3:それらは、大陸から伝えられたものです。

*4:いちやなぎ・とし。作曲家。ジョン・ケージの弟子で、オノ・ヨーコ小野洋子の最初の夫として知られています。

*5:雅楽で使われる横笛です。

*6:正式名称は宮内庁式部職楽部