これぞフリージャズ! のなか悟空の爆裂ドラムを聴け!(後編)

putchees2005-11-07


前回よりつづき


爆音フリージャズドラマー・のなか悟空の
ライブ報告を書いています。


まったく女の子にもてない音楽ですが、
そういうことを気にしなければ、たいへん気持ちいい音です。
興味のある方は、前編からお読みください。
id:putchees:20051104

今回のライブ


のなか悟空&人間国宝


場所:新宿ピットインPIT INN
日時:2005年11月2日 20:10〜22:20

ミュージシャン


のなか悟空(ドラムスds)
近藤直司(サックスss, ts, bs)
ヒゴヒロシ(ベースb)

なぜフリージャズが気持ちいいのか?


前編の最後は、なぜ、めちゃめちゃな音ばかり出す
フリージャズが、聴いていて気持ちいいのか?
という疑問についてでした*1


それについて、ぼくの意見を書いてみます。


ジャズのアドリブは、即興で音のドラマを作っていく作業です。
ミュージシャンはその場のひらめきで、山あり谷ありの、
ドラマチックな展開を聴かせなければなりません*2
そしてクライマックスに至ったとき、彼は、
型にはまったお行儀のいい演奏では
表現しきれない音楽があることに気がつくのです。


ほとばしる情熱を音にするには、
どうすればいいのでしょう?


一部のジャズミュージシャンは、そういうときに、
ピアノの鍵盤を肘で叩いたり
ベースの弦を手のひらでひっぱたいたり
サックスで甲高いフラジオレットを出したりするのです。


つまり、西洋音楽のリクツに合わない不合理な音を出すことで、
クライマックスの頂点を表現しようとするわけです。


それがうまく決まると、
聴衆にモーレツな感動を与えることができます*3


情熱を表現するための音が、
結果的にフリーキーfreakyなサウンドになるのです。
ですから、ピアノを肘で叩いたとしても、
時宜にかなった用法なら、
聴衆に美的感動を与えることができるのです。


フリージャズというのは、
そういったクライマックスの頂点で現れるような
不合理な音を、最初から意図的に演奏する音楽です。


ミュージシャンのほとばしるパッションを、
音楽理論で説明できない種類の音にした結果なのです。


もちろん、それとまったく別の考え方で
めちゃめちゃな音を出すフリージャズもありますが、
上のように説明すれば、いくらかは、
フリージャズを面白いといって聴く人の気持ちがわかるでしょうか*4

どうせ聴くならハードコアなフリージャズ


フリーキーな音を出すミュージシャンの中にも、
さまざまな考え方があります。
めちゃめちゃな音はごく一部でいいという人もいますし、
全体の半分くらいでいいという人もいます*5


当然、リスナーの中にも、さまざまな音の好みがあります。


フリーキーな音は曲のクライマックス部分だけでじゅうぶんという人は、
アダルトビデオの好みでいうと、カラミは少なくていいという
シチュエーション重視派で、最初から最後までフリーキーな音を
聴きたいという人は、男女のカラミだけ見たいという
ハードコア派と言えるかもしれません。


ぼくはどっちも好きなのですが、
最近はややハードコア派に近いようです。


あ、ジャズの好みのことですよ?


人間というのは、一般に、
徐々に強い刺激を求めるようになるものですよね。


フツウのジャズでは物足りなくなって、次第に
激しいサウンドを求めるようになるというわけです。

飽きないフリージャズはムツカシイ


のなか悟空&人間国宝の奏でるジャズは、
アドリブ部分が、すべてフリーキーなサウンドになるタイプです。


アダルトビデオでいえば、インタビューの後ですぐにカラミ
始まるハードコア派に近いといえます*6


きちんとしたメロディがあるのは最初と最後だけで、
あとはぐちゃぐちゃのサウンドが繰り広げられます。


彼らのように、
最初から最後まで不合理な音を出すフリージャズの弱点は、
あっという間に飽きられるということです。


そりゃそうです。
テーマ部分は違う曲でも、アドリブ部分がめちゃめちゃなら、
どれを聴いても結局同じということになってしまいます。


それに、ここぞというときだけに
サックスのフラジオレットを使ったりするならともかく、
ずっとフラジオレットばかりでは、
聴き手もうんざりしてしまいます。


聴衆を飽きさせず、ライブの2セットをもたせるには、
かなりの技量が必要です。


その点、のなか悟空&人間国宝は、
スゴ腕のミュージシャン揃いですから、
まったく心配ありません*7


いささか単調にはなりますが、
一般のジャズのライブだって、彼らと同じくらい単調なのです。

精神科医のサックスが最高!


彼らの演奏の中で、
ぼくが、ことに魅了されたのは、
近藤直司のサックスでした。


彼はテナーサックスをメインに、
バリトンサックス、ソプラノサックスも使用して、
すばらしい演奏を聴かせてくれました。


彼のテナーの音色はとにかく太い。
サックスの教本に理想として書いてあるように、
体全体で鳴らしているという感じがします。
そして硬い。硬質の音色が、客席にがんがんぶつかってきます。


太くて硬い。奥様もうっとりです。


あ、スミマセン。今回はほんとうに下品ですね。


とにかく、サックスのベルから出てくる
音が、たんなる空気の振動ではなくて、
なにか実質を持った存在のように感じられるのです。
それくらい存在感のあるサウンドです。


そして音色のスピード感が、これまたすばらしい。
超特急の列車が驀進するような速さを感じます。


ガトー・バルビエリGato Barbieri
テナーサックスの音色に近いようですが、
ガトーのサックスがねっとりした熱帯の湿気を含んでいるのに対して、
近藤直司のサックスは、まったくからりと乾いている印象でした*8


のなか悟空の嵐のようなドラムに
マスクされない音色なのですから、たいへんなものです。


クールで、パッションを秘めた野太い音。
近藤直司のサックスは、一度聴く価値があります。

原始の血が騒ぐドラミング


そしてヒゴヒロシのベースは、ここでもがっちりとした
骨太のグルーヴを聴かせてくれます。
高速で演奏される曲の、ベースラインのかっこよさは
特筆すべきものでした。


彼のベースソロを初めて聴きましたが、
たいへんアグレッシブでした。
派手なエフェクターをほとんど使わないで、
あれだけ猛烈な音の流れを生み出せるのはさすがです。


のなか悟空のドラミングは、純粋なジャズというよりは、
アジアやアフリカの民族音楽の影響を感じさせました。
とにかくシンバルがバシャバシャとやかましく、
原始の血を呼び覚ますような、凶暴でおおらかなリズムなのです。


近藤直司とヒゴヒロシのふたりだけでは、
ソリッドにまとまりすぎるかもしれませんが、
のなか悟空のいいかげんなドラムが加わることで、
演奏が小さくまとまることを防いでいます。

ジャズを聴く最上の喜び!


演奏された曲はオリジナルが多かったようですが、
前半にはブリジット・フォンテーヌBrigitte Fontaineの
名曲「ラジオのようにcomme a la radio」が*9
後半にはマイルス・デイヴィスMiles Davis
「オール・ブルースAll Blues」が演奏されました。
オーソドックスなジャズを無視しているわけではなく、
その発展型として、彼らの演奏があるのだということがわかります。


めちゃ速いスピードで演奏されるオリジナル曲で、
アドリブのドラムソロから、3人そろって
ぴたりとテーマに戻ってくるところは、
ジャズを聴く最上の喜びを感じさせてくれました。


近藤直司のサックスが猛スピードで奏でるテーマの
かっこよさときたら!


のなか悟空&人間国宝は、ジャズ好きなら、
一度は聴く価値があります。

男に生まれてよかった!?


最初に書いたとおり、数少ないお客さんはほとんど男でした。
たしかにこんな音楽は、女の子は間違っても聴きたがらないでしょう。


まったく男らしい音楽です。
からっとしていて、竹を割ったようにシンプルです。


ぼくは演奏を聴きながら、
こういう音楽を心から楽しめるなら、
男に生まれて本当によかったと思ったのでした。


男同士の熱い友情、なんてものにはまるきり興味がありませんが、
こういう音楽を聴くためなら、ぼくは
もういちど男に生まれてもいいと思うのです。


たとえぜんぜんもてなくても、
男の人生、楽しめることはたくさんあるのです。


かといって、女の子にもてないのはサビシすぎますけど。


フリージャズにだって、いいものはあるんですよ。


みなさんも一度、のなか悟空&人間国宝
すばらしいサウンドに耳を傾けてみてください。


もちろん、こんな音楽を聴いていると、
一生もてませんからその覚悟で。


(次回はユダヤ系ジャズ、ダブカDavkaの超絶ライブ盤をご紹介します)

*1:フリージャズなんてちっとも気持ちよくないよ! という否定派も多いとは思いますが、それはとりあえず置いて、読み進めてください。

*2:そういうところは、ショウとしてのプロレスに似ているでしょう。

*3:もちろん、そういう音を嫌う聴衆も多いのですが。

*4:もし、ちっともわからないよ!という人がいれば、ご意見をお寄せください。後日別の原稿で、さらにわかりやすく書いてみますので。

*5:もちろん、不合理な音をまったく出さないというミュージシャンが大部分ですが。

*6:このたとえはしつこいですか?ごめんなさい。

*7:だいたい、たった3人でジャズをやろうなんていうミュージシャンは、腕に覚えがあるに決まっています。

*8:川下直広のサックスも野太い音色ですが、彼のサックスは演歌のような強烈なヴィブラートがかかっていて、近藤直司の音とはへだたりがあります。

*9:アルトサックスの坂田明(さかた・あきら)が、ドイツで吹き込んだ「ラジオのように」については、過去のレビューをお読みください→id:putchees:20050115