これぞフリージャズ! のなか悟空の爆裂ドラムを聴け!(前編)

putchees2005-11-04


今回はライブ報告です


のなか悟空&人間国宝


場所:新宿ピットインPIT INN
日時:2005年11月2日 20:10〜22:20

ミュージシャン


のなか悟空(のなか・ごくう)(ドラムスds)
近藤直司(こんどう・なおじ)(サックスss, ts, bs)
ヒゴヒロシ(ベースb)

今回ももてない音楽


前回、せっかくおしゃれですてきなピアノ曲を紹介したのに、
今回はまたいつも通りのもてない音楽です。
ごめんなさい。


もてない音楽を聴くのは、長年続いた習い性なので、
自分ではもうどうしようもありません。


このサイトはいつもそういう音楽ばかり紹介しています。
よかったら、我慢して読んでみてください。

女子供が裸足で逃げ出す音楽


今回ご報告するライブは、フリージャズです。
フリージャズにもいろいろありますが、
そのなかでも、もっとも女の子にもてない種類のものです。


飾りがなくて、ぶっきらぼうで、いいかげんな音楽です。
知らない人には、工事現場の騒音と区別がつきません。
女子供が裸足で逃げ出すような音楽です。


でも、フシギなことに、その音が
すばらしい美的感動をもたらすのです。


ぼくの耳がおかしいのだというのは簡単ですが、
そう決めつける前に、以下の文を読んでみませんか?

おおらかなジャズドラマー


のなか悟空こと野中光政(のなか・みつまさ)は、
長いキャリアを持つジャズドラマーです*1
彼の荒っぽいドラミングは、
似たスタイルの人がなかなか見つかりません。


同じフリージャズ系のジャズドラマーでも、
芳垣安洋(よしがき・やすひろ)や
大沼志朗(おおぬま・しろう)は、
まるでマシンのように正確無比なパルスを叩き出しますが、
のなか悟空のビートは、もっとおおらかで、
いいかげんな感じがします。


決してうまくはありませんが、彼のドラムには、
すぐれた音楽にとって大切な、情熱と熱狂があります。


演奏中にトタン板をバシバシと叩いて、手を切ってしまい、
血だらけになってドラムを叩き続けたという話が、
彼のウェブサイトに書かれていました。
痛そうな話ですが、さもありなんという気がします。


音の大きさとダイナミックさでは、日本ジャズ界屈指の
ドラマーでしょう。


彼は1982年以来、自身の「のなか悟空&人間国宝」という
バンドで活動しています。
現在のメンバーは、のなか悟空、ベースのヒゴヒロシ
サックスの近藤直司です。

くせ者ぞろいのバンド


ヒゴヒロシは、渋さ知らズでのすばらしい演奏が光る、
スゴ腕ベーシストです。あんな混沌とした大所帯のバンドを
彼ひとりのベースががっしりと支えているのです。


近藤直司は、ガトー・バルビエリGato Barbieri
アーチー・シェップArchie Sheppを思わせる
たいへん野太い音色のサックス奏者です。
彼の昼間の顔は医学者(精神科医)で、
ひきこもり研究の権威だそうです*2


のなか悟空はドラマーとして活躍するほかに、
フィリピンやタイ、アフリカなどの旅行記
ルポルタージュを数多く著しています。


つまりは、くせ者ぞろいのバンドというわけです。


彼らは1999年には、ドイツの
メールスジャズフェスティバルMoers Festivalに出演しています*3

のなか悟空と不破大輔


ちなみに、このバンドの初期のメンバーは、
テナーサックスが川下直広(かわした・なおひろ)、
ベースが不破大輔(ふわ・だいすけ)でした。


川下直広は、フェダイン渋さ知らズに参加していた、
オリジナルなスタイルを持つテナーサックスプレイヤー、
不破大輔は同じくフェダインのベーシストであり、
いまや世界的な名声を得たジャズオーケストラ、
渋さ知らズのリーダーです*4


のなか悟空を大沼志朗と入れ替えると、そのまま
フェダインのメンバーになります*5


のなか悟空が、日本ジャズ界の重要人物であるということが
理解してもらえるでしょう。

ライブハウスはがらがら


ぼくは、10年近く前の横浜ジャズプロムナード*6で、
このバンドを聴いていますが、
ライブハウスできちんと聴くのは今回が初めてでした。


なにしろ、のなか悟空は、
しばしばふらりと長期の海外旅行に出かけてしまうため、
ライブが途切れることが多いからです。


何度かライブに行くチャンスを逃して、
きょうようやく聴くことができました。


今夜のピットインはがらがらで、心配になるほどでした。
しかもお客さんは男ばっかりです。


どうやら、お客さんが少ないのはいつものことのようです。


まばらな客席に、ジャズ評論家・プロデューサーの
副島輝人(そえじま・てると)の姿が見えました。
彼は、のなか悟空を初めてこのピットインに呼んだ張本人です。

ジャズは即興演奏の垂れ流し


さて、演奏が始まります。
3人が冒頭から飛ばしまくりです。
おお、これこそまごうかたなきフリージャズです。
最高に暑苦しい、音の奔流です。


のなか悟空は、玉の汗を浮かべながら、恍惚の表情で
絶え間なくドラムを叩き続けます。


かましい。
ほんとうにやかまし音楽です*7
耳栓をして聴くとちょうどいいかもしれません。


フリージャズといっても、彼らの演奏するのは、
頭でっかちの前衛じゃありません。


リクツをこねくり回すジャズなんて最低です。
そんなものが面白かったためしはありません。


ジャズなんて頭の悪い音楽なんだから、気持ちいい音を
ブワーッと垂れ流すのがいちばんです。


彼らの演奏は、まさに即興演奏の垂れ流し
でも、それがいいのです。
聴衆のアドレナリンを引き出すには、
そうするのがもっとも効果的です。

なぜフリージャズが気持ちいいのか?


彼らの演奏は、テーマがあって、
アドリブをやって、それからまたテーマに戻って終わるという、
フツーのモダンジャズの型どおりの演奏です。


それでもフリージャズと呼べるのは、アドリブ部分が
めちゃめちゃになるからです。


サックスはキイキイというフラジオレットを連発だし、
ベースは弦をバシバシ叩きまくっているし、
ドラムはリズムを失ってただの轟音になります。


そんなめちゃめちゃなのに、聴いていて気持ちいいのは、
いったいなぜなのでしょう。


ぼくは次のように考えています。


(以下、後編に続く→id:putchees:20051107)

*1:1951年大分県生まれ。現在54歳。

*2:近藤直司」のGoogle検索でトップに出てくる医学書の著者と、人間国宝のサックス奏者は同一人物です。

*3:山下洋輔フェダインが、メールスで吹き込んだライブ盤については、以下のレビューをお読みください→id:putchees:20050329 id:putchees:20050207

*4:渋さ知らズについては、過去のレビューをお読みください→id:putchees:20041220、id:putchees:20041221、id:putchees:20050114、id:putchees:20050403、id:putchees:20050418

*5:フェダインについては、過去のレビューをお読みください→id:putchees:20050207

*6:横浜ジャズプロムナードについては、過去のレビューをお読みください→id:putchees:20051013

*7:とくにドラムがやかましい。