これぞフリージャズ! のなか悟空の爆裂ドラムを聴け!(前編)
ミュージシャン
のなか悟空(のなか・ごくう)(ドラムスds)
近藤直司(こんどう・なおじ)(サックスss, ts, bs)
ヒゴヒロシ(ベースb)
今回ももてない音楽
前回、せっかくおしゃれですてきなピアノ曲を紹介したのに、
今回はまたいつも通りのもてない音楽です。
ごめんなさい。
もてない音楽を聴くのは、長年続いた習い性なので、
自分ではもうどうしようもありません。
このサイトはいつもそういう音楽ばかり紹介しています。
よかったら、我慢して読んでみてください。
女子供が裸足で逃げ出す音楽
今回ご報告するライブは、フリージャズです。
フリージャズにもいろいろありますが、
そのなかでも、もっとも女の子にもてない種類のものです。
飾りがなくて、ぶっきらぼうで、いいかげんな音楽です。
知らない人には、工事現場の騒音と区別がつきません。
女子供が裸足で逃げ出すような音楽です。
でも、フシギなことに、その音が
すばらしい美的感動をもたらすのです。
ぼくの耳がおかしいのだというのは簡単ですが、
そう決めつける前に、以下の文を読んでみませんか?
おおらかなジャズドラマー
のなか悟空こと野中光政(のなか・みつまさ)は、
長いキャリアを持つジャズドラマーです*1。
彼の荒っぽいドラミングは、
似たスタイルの人がなかなか見つかりません。
同じフリージャズ系のジャズドラマーでも、
芳垣安洋(よしがき・やすひろ)や
大沼志朗(おおぬま・しろう)は、
まるでマシンのように正確無比なパルスを叩き出しますが、
のなか悟空のビートは、もっとおおらかで、
いいかげんな感じがします。
決してうまくはありませんが、彼のドラムには、
すぐれた音楽にとって大切な、情熱と熱狂があります。
演奏中にトタン板をバシバシと叩いて、手を切ってしまい、
血だらけになってドラムを叩き続けたという話が、
彼のウェブサイトに書かれていました。
痛そうな話ですが、さもありなんという気がします。
音の大きさとダイナミックさでは、日本ジャズ界屈指の
ドラマーでしょう。
彼は1982年以来、自身の「のなか悟空&人間国宝」という
バンドで活動しています。
現在のメンバーは、のなか悟空、ベースのヒゴヒロシ、
サックスの近藤直司です。
くせ者ぞろいのバンド
ヒゴヒロシは、渋さ知らズでのすばらしい演奏が光る、
スゴ腕ベーシストです。あんな混沌とした大所帯のバンドを
彼ひとりのベースががっしりと支えているのです。
近藤直司は、ガトー・バルビエリGato Barbieriや
アーチー・シェップArchie Sheppを思わせる
たいへん野太い音色のサックス奏者です。
彼の昼間の顔は医学者(精神科医)で、
ひきこもり研究の権威だそうです*2。
のなか悟空はドラマーとして活躍するほかに、
フィリピンやタイ、アフリカなどの旅行記や
ルポルタージュを数多く著しています。
つまりは、くせ者ぞろいのバンドというわけです。
彼らは1999年には、ドイツの
メールスジャズフェスティバルMoers Festivalに出演しています*3。
のなか悟空と不破大輔
ちなみに、このバンドの初期のメンバーは、
テナーサックスが川下直広(かわした・なおひろ)、
ベースが不破大輔(ふわ・だいすけ)でした。
川下直広は、フェダインや渋さ知らズに参加していた、
オリジナルなスタイルを持つテナーサックスプレイヤー、
不破大輔は同じくフェダインのベーシストであり、
いまや世界的な名声を得たジャズオーケストラ、
渋さ知らズのリーダーです*4。
のなか悟空を大沼志朗と入れ替えると、そのまま
フェダインのメンバーになります*5。
のなか悟空が、日本ジャズ界の重要人物であるということが
理解してもらえるでしょう。
ライブハウスはがらがら
ぼくは、10年近く前の横浜ジャズプロムナード*6で、
このバンドを聴いていますが、
ライブハウスできちんと聴くのは今回が初めてでした。
なにしろ、のなか悟空は、
しばしばふらりと長期の海外旅行に出かけてしまうため、
ライブが途切れることが多いからです。
何度かライブに行くチャンスを逃して、
きょうようやく聴くことができました。
今夜のピットインはがらがらで、心配になるほどでした。
しかもお客さんは男ばっかりです。
どうやら、お客さんが少ないのはいつものことのようです。
まばらな客席に、ジャズ評論家・プロデューサーの
副島輝人(そえじま・てると)の姿が見えました。
彼は、のなか悟空を初めてこのピットインに呼んだ張本人です。
ジャズは即興演奏の垂れ流し
さて、演奏が始まります。
3人が冒頭から飛ばしまくりです。
おお、これこそまごうかたなきフリージャズです。
最高に暑苦しい、音の奔流です。
のなか悟空は、玉の汗を浮かべながら、恍惚の表情で
絶え間なくドラムを叩き続けます。
やかましい。
ほんとうにやかましい音楽です*7。
耳栓をして聴くとちょうどいいかもしれません。
フリージャズといっても、彼らの演奏するのは、
頭でっかちの前衛じゃありません。
リクツをこねくり回すジャズなんて最低です。
そんなものが面白かったためしはありません。
ジャズなんて頭の悪い音楽なんだから、気持ちいい音を
ブワーッと垂れ流すのがいちばんです。
彼らの演奏は、まさに即興演奏の垂れ流し。
でも、それがいいのです。
聴衆のアドレナリンを引き出すには、
そうするのがもっとも効果的です。
なぜフリージャズが気持ちいいのか?
彼らの演奏は、テーマがあって、
アドリブをやって、それからまたテーマに戻って終わるという、
フツーのモダンジャズの型どおりの演奏です。
それでもフリージャズと呼べるのは、アドリブ部分が
めちゃめちゃになるからです。
サックスはキイキイというフラジオレットを連発だし、
ベースは弦をバシバシ叩きまくっているし、
ドラムはリズムを失ってただの轟音になります。
そんなめちゃめちゃなのに、聴いていて気持ちいいのは、
いったいなぜなのでしょう。
ぼくは次のように考えています。
(以下、後編に続く→id:putchees:20051107)
*2:「近藤直司」のGoogle検索でトップに出てくる医学書の著者と、人間国宝のサックス奏者は同一人物です。
*3:山下洋輔とフェダインが、メールスで吹き込んだライブ盤については、以下のレビューをお読みください→id:putchees:20050329 id:putchees:20050207
*4:渋さ知らズについては、過去のレビューをお読みください→id:putchees:20041220、id:putchees:20041221、id:putchees:20050114、id:putchees:20050403、id:putchees:20050418
*5:フェダインについては、過去のレビューをお読みください→id:putchees:20050207
*6:横浜ジャズプロムナードについては、過去のレビューをお読みください→id:putchees:20051013