超肉体派!名古屋で森山威男&板橋文夫のライブを聴く!

putchees2006-04-20


名古屋でジャズ


今回は東京から足を伸ばして、
名古屋までジャズを聴きに
行ってきました。


新幹線で360キロメートル移動してでも
聴きたいライブだったのです。


いったい、どんなステージだったのでしょうか?
気になる方は、下までお読みください。

今回はライブ報告です


【今回のライブ】
板橋文夫・森山威男 Special BAND


【場所・日時】
2006年4月14日(金)20:00〜22:35
ジャズインラブリー(名古屋・栄)


【ミュージシャン】
森山威男(ドラムス)
板橋文夫(ピアノ)
林栄一(アルトサックス)
月英明(ベース)

肉体派ジャズミュージシャン


名古屋でもっとも有名なジャズクラブが、
今回の会場「ラブリー」です。


お店のURLはこちらです→
http://www.jazzinnlovely.com/index.html


ぼくは初めて訪れたのですが、
スケジュール表を見ると、力のある
ミュージシャンが名前を連ねています。


小さなお店ですが、
訪れても損はないと思われます。


今回は、ドラムスの森山威男(もりやま・たけお)と
ピアノの板橋文夫(いたばし・ふみお)の双頭バンドが
出演するステージでした。


森山威男は、60年代末に山下洋輔トリオ
デビューしたドラマーです。


過去の記事で取り上げていますので、
よかったらお読みください→
id:putchees:20050329 id:putchees:20050510


板橋文夫は、70年代にデビューした
個性的なジャズピアニストです。


過去に何度も取り上げていますので、
よかったらお読みください→
id:putchees:20041214 id:putchees:20050127
id:putchees:20050204 id:putchees:20051013


ふたりの共通点は、
肉体派のジャズミュージシャンだということです。


頭で考えるより先に指や腕が動いてしまうタイプ
ミュージシャンです。


ぼくはこのふたりの共演を今年の1月に
初めて目にしました。
(過去のレビューでご紹介しています→id:putchees:20050205)


あまりのすばらしさに、涙がこぼれました。


森山威男は80年代にセミリタイア状態になり、
名古屋に引っ込んだまま、めったにステージに上がりません。


今回、名古屋でのライブの話を聞き、
行かないわけにはいかないと思いました。

パワフルで陽気な音楽


ラブリーの狭い店内は、立ち見も含めて満員でした。
20:00ちょうどに演奏が始まります。


きょうはリズム隊に、林栄一のアルトサックス一本だけでした。
たいへんシンプルな編成ですから、
ひとりひとりのソロをじっくりと楽しむことができます。


このバンドのメンバーには、
長年培ったパートナーシップがあります。
息がぴったりで、たいへん気持ちのいい演奏でした。


演奏された曲目は、このバンドのおなじみのレパートリーでした。
そのほとんどは板橋文夫の作曲で、
アリゲーター・ダンス」「渡良瀬」
「グッドバイ」「サンライズ」などです。


森山威男と板橋文夫は、このジャズクラブで
90年にすばらしいライブ盤を残しています*1


きょうは、それを彷彿とさせる熱い演奏でした。


彼らの音楽は、ジャズの枠内にふみとどまって、
限界まできわめようとするような演奏です。


林栄一は、リードの調子が悪いのか、
最後まで乗り切れない様子でしたが、
それでもプロらしく、個性的なソロを聴かせてくれました。


月英明のベースは、サウンドの屋台骨を
しっかりと支えていました。


板橋文夫は、いつものように、
陽気で豪快そのもののピアノ演奏を聴かせてくれました。


しかし、今夜はなんといっても
森山威男のドラムに注目です。


ただでさえアグレッシブな板橋文夫のピアノが、
森山威男のドラムにプッシュされることで、
いつもの数倍に力を増すのです。


このふたりの相乗効果は、
ほとんど核反応のようです。

音楽性豊かなドラムス


いうまでもないことですが、
同じドラムセットを使っても、
叩く人によって、まるきり違った音が出ます。


森山威男が叩くスネアの


「バシィ!」


という気持ちいい音は、
他のどんなドラマーとも違っています。


ほんの少し聴いただけでそれとわかる
森山威男のきわだった個性です。


スピードとパワーなら、ほかの誰にも負けません。


聴いていると、


「うおぉ!」


と、やみくもに興奮してきます。


しかし、彼は力まかせのドラマーではありません。


森山威男のドラムスは、
豪快でありながら、きわめて知性的。
緻密で正確無比です。


しかも、驚くほど音楽性が高いのです。


まず、無駄な音というのがありません。
スネアが、ハイハットが、バスドラが、シンバルが、
すべてしかるべきタイミングで鳴るのです。
これが即興だなんて!*2


そして、信じられないかもしれませんが、
ドラムソロのとき、
聞こえないはずのメロディが聞こえてきます。


リズム楽器しか鳴っていないはずなのに、
まるでピアノが鳴っているような、
豊かなメロディが聞こえてくるのです。


もちろん、ぼくの錯覚に違いありませんが、
それほど音楽的なドラムソロだということです。


まるでピアノを弾くように
ドラムを叩くことができるミュージシャン、
それが森山威男なのです。


こんなドラマーを、ぼくはほかに知りません。

旅してでも聴きたいドラマー


行く先々でジャズクラブを満員にしてしまう
人気の秘密は、なにより彼の音楽性の豊かさです。


そして人なつっこい笑顔と、
愉快なしゃべりも、聴衆をひきつけます。


とにかく魅力的なミュージシャンなのです。


森山威男と板橋文夫のバンドは、
日本ジャズ界の宝です。


ステージの最後、
サンライズ」で圧倒的なクライマックスを迎え、
客席の歓声がワッと爆発します。


最高です。
名古屋まで来たかいがありました。


満員のジャズクラブのお客さんは、
みんな満足そうに帰って行きました。


こんなバンドを定期的に聴くことができる
名古屋の人が、ほんとうにうらやましいと思いました。


森山威男&板橋文夫バンドは、
来る6月に、新宿ピットインに出演します。


彼らの音楽は、生で見てこそ真価がわかります。
東京の人は、ぜひ足を運んでください。

「おしゃれなジャズ」をぶっとばせ!


ジャズという音楽は、どうやら「静かでおしゃれなBGM」
というのが、一般的なイメージのようです。


そういうイメージからもっとも遠いのが、
彼らの音楽です。


ロックだとかパンクだとかの
エネルギーをはるかに超えるような、
豪快でパワフルで肉体派のジャズがあるということを
ひとりでも多くの人に知ってもらいたいと思います。


もし、森山威男のドラムを聴いたことがないという人は、
いますぐ聴いてください。


ただもちろん、こんな音楽は(静かでおしゃれなジャズと違って)
女の子にまったくもてませんから、あらかじめご了承ください。


(この稿完結)

*1:「Live at Lovely」DIW-820

*2:ついでに書くと、森山威男の演奏には無駄な動きもありません。板橋文夫が、まるで踊るようにピアノを弾くのとは対照的です。