恒例・四月馬鹿に新宿ピットインで渋さ知らズを聴く!

putchees2006-04-19


日本一のジャズグループ


旧聞になりますが、4月1日に
新宿のジャズクラブ・ピットインで
渋さ知らズのステージを見てきました。


渋さ知らズについては、本レビューで
過去に何度も取り上げています→
その1id:putchees:20041220
その2id:putchees:20041221
その3id:putchees:20050114
その4id:putchees:20050403
その5id:putchees:20050418


もてないフリージャズをやるバンドだと思っていたら、
いまやすっかり世界の人気者です。


昨年は、なんとエイベックスレーベルから
ベスト盤がリリースされたほどです。


新聞雑誌といったメディアで
彼らの名前を目にすることも多くなってきました。


ひょっとして渋さ知らズは、
このレビューで取り上げるにはふさわしくない、
「女にもてる音楽」になってしまったのではないでしょうか?


それを確かめるために、ひさびさに
彼らのライブに出かけてきました。

今回はライブ報告です


【今回のライブ】
四月馬鹿 渋さ知らズ


【時間・場所】
4月1日20:10〜23:00
新宿ピットイン


【ミュージシャン】
渋さ知らズ

混雑について


今回は手短かに、いくつかの要点を並べていきます。


まずは混雑について。


渋さ知らズのライブというと、
いつも人混みに悩まされます。


音楽を聴くより、踊りたがるだけの客がいて、
ひどく迷惑だったりします*1


ぼくがこれまでに体験した最悪のライブは、2年前に
歌舞伎町の「ウルガ」で聴いた渋さ知らズです。


あまりの人混みに、
酸素不足で倒れそうになりました。


今回のピットインは、もちろん混雑してはいましたが、
音楽を聴くのに大きな問題がない程度でした。


昨年の4月1日とくらべて、余裕のある感じでした。


なんらかの理由で、お客が少なかったようです。
いつもこの程度だと助かります。

立派なフリージャズ


今回のステージはおよそ3時間でしたが、
前半は、大フリージャズ大会でした。


ひとりひとりの即興演奏が、
これでもかというほどに披露されました*2


したがって、聴きながら踊れるような部分は
多くありませんでした。


踊り狂うつもりで来た人は、
拍子抜けしたかもしれません。


しかし、これでいいのです。


彼らはジャズをやっているので、
踊るためのリズムマシンではないのです*3


ジャズの本質はアドリブ演奏。


なにより、
各メンバーの即興を聴くべきなのです。


きょうはそれを思う存分味わうことができました。


だいたい、ユニゾンでおなじみのテーマを吹いてるだけだと、
ミュージシャン側が飽きてしまいます。


ミュージシャン自身が演奏を楽しむためにも、
こうした濃厚なアドリブがどうしても必要なのです。


昂揚するテーマ部分だけを聴きに来たお客さんも、
こうした演奏を耳にするうちに、フリージャズのアドリブの
面白さに気がつくかもしれません。

全曲メドレー


きょうのステージは、
ほぼ全曲メドレーで演奏されました。


途中で入る、渡部真一(エンヤトット)の
強引なMCも、すべて曲の中に組み込まれていました。


いつも中途半端に社会派な漫談をやる
伊郷俊行のしゃべりさえも、音楽の中に取り込んでいました。


したがって、たとえそれら単独の質が低くても、
さして気になりませんでした。


これほどがっちり構成された渋さ知らズの演奏を聴くのは
初めてでした。


一年前のピットインのライブも完成度の高いものでしたが、
今回はそれ以上に感心させられました。


彼らの演奏の、ひとつの完成型を見る思いでした。


いや、もちろん彼らの音楽に完成型というのはありえません。


ひとつの決まった型にとどまらないのが、
彼らの音楽のよさです。


破壊と創造の繰り返しで
音楽が変貌していく過程自体が、渋さ知らズであるとも言えます。


したがって、きょうの演奏も、
現時点における彼らの音楽のひとつのカタチに
過ぎません。


しかしそれを踏まえた上で、彼らの
最高のパフォーマンスを聴いたという思いがしました。

音響はばっちり


渋さ知らズのライブでたいへん重要なのが、
会場の音響特性とPAです。


まず音響について。


残響がワンワンする大ホールで、
彼らのようなごちゃごちゃした音楽を聴いても、
すべて混濁してしまって、
なにがなにやらわかりません。


また、野外ステージだと音が拡散して、
大味なサウンドになってしまうことがあります。


その点、きょうの音は、たいへん聴きやすいものでした。
小さな会場ですから、残響が短く、音の拡散もありません。


もうひとつ、PAについて。
渋さ知らズのステージはマイクの数が多いので、
担当者が慣れていないと、
ミキサーのフェーダーをうまく操れないでしょう。


ぼくはしばしば、音のバランスが悪い
彼らの演奏を耳にしています。
そういうときはPAの担当者が、
どういう音を作ればいいのか、理解していないのです*4


その点もこの会場では問題ありません。
なにしろ渋さ知らズはピットインの常連ですから、


フジロックなどの大会場でしか
彼らの音楽を聴いたことがないという人は、
ぜひピットインや江古田バディのような
小さなハコで聴いてみてください。


まるで別のバンドのサウンドのように聞こえるはずです。

天城越え


きょうはひさびさに、反町鬼郎の歌う
天城越えを聴くことができました。


渋さ知らズのレパートリーの中でも、
ぼくがもっとも好きなもののひとつです。


泥臭さ、大衆性、そして昂揚感という要素をすべてそなえた、
渋さ知らズのために用意されたような曲です。


日本の大衆音楽の底力を感じる名曲です。
茶の間でおなじみの曲とあって、客のボルテージも上がります。


みんな、実は演歌好きなんでしょ?


それでいいんですよ。
だって日本人なんだもの。ねぇ。


この曲、JASRACに申請を出すのが面倒なのか知りませんが、
まだ公式アルバムには一度も収録されていません*5
たいへん残念なことです。


反町鬼郎のボーカルのレベルは、
シロウトのカラオケ並みですから、
スタジオ録音のアルバムに収めるのは苦しいでしょう。


ぜひ、荒っぽい録音のライブ盤で収録してほしいものです。

最後はやっぱり渋さ知らズ


ステージの終盤は、踊れるリズムの、
おなじみの曲が飛び出して、
いつもの渋さ知らズらしい、お祭り気分になってきました。


この、ニッポンのノーテンキな祝祭気分こそ、
渋さ知らズが世界で愛される理由です。


最後は、言うまでもなく「本多工務店のテーマ」で終わりです。


ミュージシャンが客席になだれ込んで、狂乱のクライマックスです。


もう、言うことはありません。


前半のフリージャズ演奏に違和感を感じた人も、
これで溜飲を下げたことでしょう。


ちゃんとこうして、すべてのお客さんを満足させるところが、
プロの仕事だと思いました。


さすがは渋さ知らズです。

「もてる音楽」か?


きょうの渋さ知らズの演奏は、
たいへん質の高いものでした。


100点満点で言うなら、90点をつけてもいいほどです。


それはさておき、
最初に書いたように、今回のテーマは、
果たして彼らの音楽が「女にもてる音楽」
変質してしまったかどうかです。


実際のところ、にぎやかな音楽が好きな女の子を、
彼らのライブに連れて行けば、みんな大喜びでしょう。


その点では、明白に「もてる音楽」だといえます。


ぼくが問題だと思うのは、
彼らが、口ずさめるようなテーマだけを繰り返し奏でる、
凡庸なバンドになってしまうことです。


そうなったとき、ぼくはこのレビューで
彼らの演奏を取り上げる意味を失うでしょう。


しかしながら、きょうの演奏を聴いて、
その心配はいらないと思いました。


きょうの前半の大フリージャズ大会は、
ただの踊りたがりの客をひるませるだけの熱気に満ちていました。


明白な「フリージャズへの意志」を感じました。
それは、リーダー不破大輔の意志であり、
メンバーひとりひとりの意志であるはずです。


彼らは惰性で演奏しているのではなく、
やりたい音楽があるのです。
それは、日々変貌し、決して完成することのない、
「明日のフリージャズ」とでもいうべきものです。


そこには、客にこびるような要素はみじんもありません。
「もてない音楽」そのものです。

もてないくせにもてるバンド


彼らの音楽が意志によって
動機づけられたものである限り、
渋さ知らズは生き生きとした、
ホンモノのバンドでありつづけるはずです。


みんな安心して渋さ知らズの音楽を聴きに行ってください。


古くからのファンは、
「彼らにはもう昔のようなパワーはない」と心配する必要はありませんし、
新しいリスナーは、
「今さら渋さ知らズなんて遅いかも」と心配する必要はありません。


誰にとっても、彼らの音楽はいまだ新鮮で
ありつづけているのです。


なんと希有な存在でしょう。
まぎれもなく日本一のジャズバンドです。


こんなもてない音楽をやってて、にもかかわらず
世界中でもてもてだなんて、
なんてひきょうなバンドでしょうか。


キー、くやしい!


みなさんもぜひ一度、彼らの演奏を生で聴いてみてください。


(この稿完結)


(次回は名古屋のジャズクラブ「ラブリー」で行われた、
森山威男&板橋文夫のライブをレポートします)

*1:客のマナーが、彼らの演奏に悪い影響を及ぼすことがあるようです。昨年の年末、恒例の江古田バディでのライブでは、不作法な客がステージに押し寄せて、演奏が混乱したそうです。

*2:しつこさは、渋さ知らズの音楽を特徴づける重要なファクターです。

*3:もちろん踊ったっていいのですが、それだけじゃつまらないのではないでしょうか。

*4:つまり、それぞれの局面で誰の音をフォーカスすべきなのかわからないのでしょう。

*5:アムステルダムでのライブを収録した「海賊版」には収録されています。