新宿ピットイン40周年コンサートで涙にむせぶ!(その1)

putchees2006-01-28


日本一のジャズクラブ!


日本で最高のジャズクラブはどこか?


前にも同じ質問をした気がしますが、
もういちど確認しましょう。


青山のブルーノート


ノン! まさか!


正解は新宿ピットイン


日本のジャズを知りたいなら、
このライブハウスに来ればじゅうぶんです。


アヴァンギャルドから伝統的な4ビートまで、
実に多彩ながら、品質はどれも保証付きの
イキのいいジャズが毎晩やってます。


よほどの目利きでなければ、
これほど質の高いミュージシャンばかりを
ブッキングすることはできないでしょう。


さて、その新宿ピットインが、
昨年12月に40周年を迎えました。


それを記念したコンサートが開かれました。


大ホールを借りて、2日間連続でのべ
100人以上のミュージシャンが登場するという、
大がかりなコンサートです。


渡辺貞雄、日野皓正といった大御所から、
山下洋輔渋谷毅坂田明といった実力派、
そして渋さ知らズ大友良英といった、今をときめく人気ミュージシャン、
さらに海外からはジョン・ゾーンビル・ラズウェルも駆けつけるという
豪華な顔ぶれです。


まさにピットインならではのラインナップです。
金ずくでは、決して集めることのできない人たちです。
このジャズクラブが築いてきた
信頼の厚さと人脈の豊かさが感じられます。


これらのミュージシャンのステージを全部聴いたら、
いまの日本のジャズの全貌がわかるのではないかという気がします。


今回から数回にわたって、
そのコンサート報告をいたします。

今回はコンサート報告です


【今回のコンサート】
Shinjuku New Year Jazz Festival 2006
新宿ピットイン 40周年記念


【場所・日時】
新宿・東京厚生年金会館大ホール(ウェルシティ東京
2006年1月21日(土)15:00〜21:40
 1月22日(日)13:00〜19:40


【プログラム】
1月21日
渋さ知らズ
●三好“3吉”功郎 スペシャル・ユニット
梅津和時 KIKI BAND
●ペインキラーPain Killer
大友良英ニュー・ジャズ・オーケストラONJO
室内楽団 八向山(山下洋輔、八尋知洋、向井滋春


1月22日
●What is HIP?+ ケイコ・リー
渋谷毅 ORCHESTRA
佐藤允彦 plays Masahiko Togashi
●日野皓正 クインテット
辛島文雄 ユニット
●森山・板橋 グループ(森山威男、板橋文夫
渡辺貞夫 グループ

伝統の大ホール


さて、今回のコンサート会場は、
新宿・靖国通り沿いにある東京厚生年金会館大ホールでした。


1964年にマイルス・デイヴィスMiles Davisがライブ盤を残したのも、
1966年にジョン・コルトレーンJohn Coltraneがライブ盤を残したのも、
1973年にセシル・テイラーCecil Taylorがライブ盤を残したのも、
すべてこの東京厚生年金会館大ホールでした。
いわば日本ジャズ史の舞台になった場所です*1


現在のピットインから、歩いて10分ほどの場所にあるこのホールは、
今回のコンサートにぴったりだといえるでしょう。


では、初日のコンサートの模様をご報告しましょう。

21日(初日)のコンサート


1月21日は、未明から雪が降り、
都心で9センチの積雪を記録しました。
8年ぶり(1998年1月15日以来)の「大雪」だったそうです。


その悪天候でも、会場はほぼ満席でした。


21日は、わりとヘンテコリンなサウンドのバンドが多く出演していました。
ジャズを逸脱したジャズミュージシャンたちというわけです。
それに対して、22日は、正統派のジャズバンドが多かったようです。
ジャズの枠内にとどまって表現しようとするミュージシャンたちです。


さて、ヘンテコなジャズバンドばかりが出演した初日
どんな模様だったでしょうか。
以下に、順にご紹介していきましょう。

渋さ知らズはちょっと不完全燃焼


渋さ知らズ
不破大輔(ダンドリスト)片山広明 広沢哲 佐藤帆(Ts)
川口義之 小森慶子 立花秀樹(As)鬼頭哲(Bs)北陽一郎
辰巳光英(Tp)高岡大祐(Tuba)勝井祐二 太田恵資(Vn)
斉藤良一 大塚寛之(G)中島さちこ(P)スガダイロー(Key)
芳垣安洋 倉持整 磯辺潤(Ds)関根真理(Per)
ペロ(Dance)東洋組(舞踏)


コンサートの劈頭を飾ったのは、いまや日本を代表するバンドの
ひとつになった渋さ知らズでした。


渋さ知らズについては、本レビューの過去の記事をごらんください。
id:putchees:20041220 id:putchees:20041221 id:putchees:20050114
id:putchees:20050403 id:putchees:20050418


渋さ知らズは年に数回、定期的に新宿ピットインのステージに立っており、
このコンサートには欠かせないバンドです*2


今回のステージには、現在のレギュラーメンバーといえるメンツが
集まっていました。


いやが上にも期待が高まります。


ところが、わずか50分ほどのステージで、
演奏されたのはたった2曲


渋さらしい爆発的なユニゾンを堪能する前に、
ステージが終了してしまいました。


一緒に出かけたぼくの友人は、
ふたりとも渋さ初体験だったのですが、
あれでは、彼らの音楽の面白さの半分も
伝わらなかったのではないかという気がします。


たいへん残念でした。


しかし、演奏する側からすると、
短い持ち時間で多くの曲を演奏するほうが、
不完全燃焼という感じがするのかもしれません。


それよりも、1曲をじっくりと演奏したほうが、
深い内容になるのかもしれません。


たしかに、渋さ知らズの音楽が持つ
「くどさ」「しつこさ」は、
今回の演奏からじゅうぶん伝わってきました。


以前「横濱ジャズプロムナード」に出演したころは、
やはり1時間ほどの持ち時間で、ヒットメドレー的に
多くの曲を演奏していました*3


それより、きょうのようなスタイルのほうが、
渋さ知らズらしいと言えるのかもしれません。


今回あつまったお客さんのほとんどは、
渋さ知らズの音楽をよく知っているはずですから、
不破大輔はあえてこうしたスタイルを取ったのかもしれません。


しかし、演奏終了後の拍手は、
聴衆の消化不良感というか、とまどいを反映して、
かなり控えめに聞こえました。


せっかくいいメンバーがそろっていたので、
もっと聴きたかったというのが、大部分のファンの
正直な感想だったのではないでしょうか。


渋さ知らズの真髄に触れるなら、こうした音楽フェスティバルではなく、
単独のステージ(できることなら反響音の少ない、小さな会場で)に
足を運ぶべきだと思います。

村上秀一VS仙波清彦のドラム合戦!


三好“3吉”功郎 スペシャル・ユニット
三好功郎(G)村田陽一(Tb)原朋直(Tp)井上陽介(B)
村上“PONTA”秀一(Ds)仙波清彦(Per)


続いて、ギタリスト三好功郎(みよし・いさお)のバンドです。
彼も、ピットインに定期的に出演しています。


ぼくは彼の音楽を聴くのは初めてでした。


今回は、共演者がなかなか豪華です。
彼らの音楽は、4ビートではありませんが、
立派なジャズでした。


ぼくが夢中になるタイプの音楽ではありませんが、
聴きやすくて、悪くないステージだったのではないでしょうか。


印象的だったのは、終盤での、
村上秀一(むらかみ・しゅういち)のドラムと、
仙波清彦(せんば・きよひこ)のパーカッションのドラム合戦でした。


ポンタこと村上秀一はジャズという枠に留まらない大物ドラマー、
仙波清彦は日本を代表するパーカッショニストであり、
かつての「はにわオールスターズ」のリーダーとして、
さらに歌舞伎の囃子方仙波流家元として知られています。


ふたりの、ほとんど過剰な打楽器の応酬に、
すっかりおなかいっぱいでした。

この梅津バンドは最高!!


梅津和時 KIKI BAND
梅津和時(Sax)鬼怒無月(G)早川岳晴(B)ジョー・トランプ(Ds)
(ゲスト)今堀恒雄(G)


続いて梅津和時(うめづ・かずとき)のバンドが登場です。


梅津和時については、過去のレビューをお読み下さい。
id:putchees:20050320


忌野清志郎バンド(RCサクセション)のサックス奏者として、
また日本ジャズ界屈指のバンドリーダーとして活躍しています。


このバンドでは、完全なロックビートで
ゴキゲンなサックスを吹きまくってくれました。


ドラムもよかったのですが、
ギターの鬼怒無月(きど・なつき)のギターが最高でした。


スゴイとは聞いていましたが、
ぼくは、もっと早く彼のギターを聴いておくべきでした。
ああくやしい。
おそろしくグルーヴィーなギタープレイです。


この日の梅津和時は、体調がよくなかったようなのですが、
ドラムとギターの作るグルーヴに乗せて、
いつものように輝かしい音色で、超スピードのフレーズを
聴かせてくれました。


さらにはソプラニーノ*4まで使って大活躍です。


彼らの演奏が、初日のステージの中で、
もっとも満足できる内容だったのではないでしょうか。


彼らの激っ速の8ビートを聴いていると、
いやでも体が動きます。


このバンドは、29日にピットインに出演するようです。
聴いてみたい方は、ぜひ行ってみてください。

ペインキラーのキテレツサウンドにクラク


ペインキラー
ジョン・ゾーンJohn Zorn(as)ビル・ラズウェルBill Laswell(B)
吉田達也(Ds)
(ゲスト) 近藤等則(Electric Tp)


さあ、つぎは大物です。


合衆国を代表する先鋭的な音楽家のひとりにして、
すばらしいアルトサックス奏者であるジョン・ゾーン率いる
ペインキラーの登場です。


といっても、ジョン・ゾーンは、ロックスターのように
大金持ちではありません。


2003年にニューヨークで
彼の50歳記念フェスティバルが開催されたのですが、
ジョン・ゾーンは自分でなにもかもプロデュースしなくては
ならなかったとぼやいていたそうですから、
相変わらず、お金とはあまり縁がなさそうです。


彼のCDを聴けばわかりますが、
とうてい女の子にもてそうな音楽ではありません。


彼の風貌も、下北沢あたりのコンビニで
カップ麺でも買ってそうな、どこにでもいる
白人のおっちゃんといった印象です。


かつて高円寺の安アパートに住んでいたことから知れるように、
東京の風景に容易に溶け込む、大物らしからぬ雰囲気が、
ジョン・ゾーンジョン・ゾーンたるゆえんかもしれません。


彼のこのバンドにおける相棒、ビル・ラズウェルのほうは、
それと対照的に、あまり近づきたくないような風貌です。


シリアルキラーを思わせるような眼光のするどさは、
いかにもアングラ芸術家という雰囲気です。


そのふたりのサウンドを支えるドラマーが
日本人というのが、また妙な感じです。


ずいぶんメチャメチャ書きましたが、
彼らのことをほめているのだと解釈してください。


さて、演奏が始まります。


……


あっはっは。


めっちゃめちゃです。


まともな音なんて、誰ひとりとして
出しやしません。


サックスはきいきい
ベースはもこもこ
ドラムはどかどか


まあ、フリージャズといって差し支えないでしょう。


途中から近藤等則(こんどう・としのり)のトランペットが
加わりましたが、これもまためちゃめちゃです。
エフェクターがかかっていて、ノイズにしか聞こえません。


最後は大友良英のギターまで加わりましたが、
音響にさしたる変化はありません。


最初から最後までノイズな50分間でした。
まったくあきれた連中です。


ぼくはこのバンドのサウンドは好んで聴きたくありませんが、
ジョン・ゾーンのサックスはやはりすばらしい音色だと思いました。
生で聴くのは初めてでしたが、鋭く、攻撃的で、輝かしい
アルトの音色は彼だけのきわだった個性です。


それを聴くことができただけでも価値のあるステージでした。
次はぜひエレクトリック・マサダを連れてきてほしいものです。


(以下、その2:初日後半レポートにつづく→id:putchees:20060130)

*1:もちろんジャズ以外のジャンルでも、海外の大物ミュージシャンがここで公演しています。昔は、東京にいいホールがあまりなかったのですね。

*2:次回は2月1日です。

*3:横浜ジャズプロムナードについては過去の記事をお読みください→id:putchees:20051013

*4:アルトサックスの1オクターブ上の音域が出る、サックス属でもっとも小さな楽器。