孤独なヴィオラ・ダ・ガンバ独奏曲を味わえ!
渋いクラシックBGMその3
クラシックの「もてないBGM」を
ご紹介するシリーズ、その3です。
今回は古楽のCDです。
古楽early musicとは、
バロックより昔のヨーロッパ音楽です。
要するに古くさい音楽です。
たいへんマイナーなジャンルです。
しかも、今回ご紹介するのは古楽器のCDです。
むかしむかしの楽器を使った音楽です。
いかにも地味です。
古い、マイナー、地味という三重苦。
もてる要素はみじんもありません。
本レビューで自信を持ってご紹介できる最高の音楽です。
ぜひ下までお読みください。
今回はCD紹介です
【今回のCD】
「無伴奏ヴィオラ・ダ・ガンバ・リサイタル」
Viola Da Gamba Solo Recital
(DENON COCO-70555)
ASIN:B00008BDFW
【曲目】
1.5つの小品ニ短調WKO.205-209(アーベルAbel )
2.「装飾変奏法」4つの無伴奏レセルカーダ(オルティスOrtiz)
3.「ドナウ河のこだま」op.9 ソナタ第6番イ短調(シェンクSchenck)
4.「忠実な音楽の師」 ヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ ニ長調(テレマンTelemann)
5.「ディヴィジョン・ヴァイオル」 3つのプレリュード(シンプソンSimpson)
6.エア集第1部 2つの小品(ヒュームHume)
【ミュージシャン】
ヴィーラント・クイケンWieland Kuijken
いちど絶滅した楽器
今回ご紹介するのは、
ヴィオラ・ダ・ガンバの独奏曲集です。
はて、ガンバとは?
ヴィオラ・ダ・ガンバは、
16世紀から18世紀にかけてヨーロッパで
使われていた弦楽器です。
ヴィオラとはあまり関係ありません。
およそチェロに似た大きさと形ですが、
弦は6本で、フレットがついています。
床に立てて、足ではさんで演奏します。
調弦は4度で、一箇所だけ3度になります。
ちょうどギターと同じです。*1
アルコ(弓)で弾くギターという表現が
ぴったりしそうです。
ガット弦がゆるめに張られているので、
チェロとはずいぶん違った音がします。
たいへんやさしく、ちょっとくすんだ、
しかし豊かな音です。
バロック末期までのヨーロッパで
愛好されたのですが、次第にヴァイオリンやチェロに
取って代わられ、絶滅してしまいました。
復活したのは、20世紀になってからです。
いまでは、ヨーロッパをはじめ、日本など
世界各地にガンバの愛好家がいます。
ぼくも一度、生演奏を聴いてみたいものです。
バッハのチェロ組曲に負けない名曲
さて、今回紹介するCDは、ガンバの名手のひとり
ベルギー生まれのヴィーラント・クイケンが演奏しています。
この楽器の独奏曲というのは、たいへん数が少ないようで、
このCDは、かつて存在したガンバ独奏曲の
主要なものをほぼカバーしてしまっているそうです。
冒頭の曲が、このCDのクライマックスです。
18世紀ドイツのアーベルという作曲家の作品ですが、
ガンバ一本で、バッハの無伴奏チェロ組曲に匹敵するような
完璧な音楽を作り上げてみせます。
くすんだ音色で奏でられる、マイナーキーの音楽が
メランコリックな気分を誘います。
めまぐるしいアルペジオの中から、
豊かな旋律が浮かび上がってきます。
おお、まさしくバッハのチェロ組曲のようです。
あのヨーロッパ音楽の至宝に勝るとも劣らない
豊かなひびきです。
こんなすばらしい音楽があったのか!
アーベルはガンバを活躍させた最後の作曲家だそうです。
この楽器の性能をフルに活かした曲ということなのでしょう。
これを聴くためだけでも、CDを買う価値があります。
3つめに収められたシェンクの曲も捨てがたい魅力です。
陰のある、一本のメロディがゆるやかに流れます。
老境の詩人が、ため息混じりに口ずさむ歌のようです。
この作曲家は、「ライン川のニンフ」という、
印象的なガンバのデュオ曲を残しています。
そちらも聴く価値があります。
もちろん、ほかの曲も捨てがたい魅力があります。
(バロックの大作曲家・テレマンの曲も収められています)
これを聴けば、古楽っていいなあと、
心から感じるはずです。
知られざる名曲に出会うよろこびを
味わうことができるでしょう。