オーストラリア産の痛快なオーケストラ曲を聴け!

putchees2006-09-07


クラシックは退屈だ!


クラシック音楽というのは、
どうも堅苦っしくていけません。


小中学校の音楽の時間に、
モーツァルトやらベートーヴェンやらを
ムリヤリ聴かされたのが、
トラウマになっている人は多いのではないでしょうか。


お勉強で聞かされる音楽なんて、
面白く感じるわけがありません。


これぞ芸術だの、楽聖だのといわれたって、
子供には関係ありません


そんなんよりもロックやポップスのほうが、
はるかに面白いに決まっています。


クラシック音楽なんてつまらん!


そんなのはニッポンの常識でしょう。

クラシック嫌いのためのクラシック


しかしながら、どんなクラシック嫌いでも、
大好きな映画のバックで流れるオーケストラ曲には
ぞくぞくするのではないでしょうか。


同じオーケストラ曲なのに、
この差はどうしたことでしょう?


思うに、一般のクラシック音楽には、
現代のぼくたちを楽しませる要素が決定的に欠けているようです。


きょうは、クラシック嫌いのみなさん
聴いてもらいたいCDをご紹介します。


人を楽しませるという原点に立ち返った
クラシック音楽です*1


暗いとか、優等生的とか、退屈だとか、
クラシックに対するネガティブなイメージ
一掃してくれるはずです。


痛快で、明るくて、カジュアル。


そんなスカッと気持ちいい「クラシック」を、
ぜひ一度お試しください。

今回はCD紹介です


【今回のCD】
「クーネKoehne:エレベーター・ミュージックElevator Musicほか」
(2001香港・ナクソスNaxos 8.555847)


【曲目】
作曲:グレーム・クーネGraeme Koehne(1956-)
●エレベーター・ミュージックElevator Music(1997)
●飛行中のエンターテイメントInflight Entertainment(1999)
アンチェインド・メロディUnchained Melody(1990)
発電所Powerhouse(1993)


【ミュージシャン】
指揮:湯浅卓雄Yuasa Takuo
管弦楽シドニー交響楽団Sydney Symphony Orchestra
オーボエ独奏:ダイアナ・ドハーティDiana Doherty

映画音楽のようにカッコいい!!


能書きはいいから、さっさと聴いてみましょう。


このCD、1曲目から気持ちがいいです。


曲名は「エレベーター・ミュージック」。
何のことやらわかりませんが、
ノリのいいリズムと、カッコいいメロディが
ぼくらのハートをがっちりつかみます。


おお! まるで映画音楽みたい


ラテン音楽っぽいリズムで、最後まで盛り上がります。


いいねぇ。


2曲目オーボエ協奏曲ですが、
名前がふるっています。
「イン・フライト・エンターテイメント」


飛行機のフライト中に楽しむ映画や音楽のように
お気軽にお聴きくださいってことでしょう。


実際、この曲は気持ちいいエンターテイメントです。
オーボエのかっちょいいソロに導かれて、
ジャズや映画音楽といった、
さまざまな音楽のスタイルが現れてきます。


しかめっ面のゲージュツとは無縁です。
実にスカッとします。


第1楽章のカデンツァなんかは、
ビッグバンドジャズのソロのようです。


でもって第2楽章は、
まるでイージーリスニングです。
まさにインフライト・エンターテイメント。


なんとこの曲では、
オーボエは(オーケストラの大音量に対抗するために)
マイクとアンプで電気的に音を増幅しているそうです。


お堅いクラシックマニアなら眉をしかめそうですが、
楽しい音楽なんだから、
別にカタいこと言わなくたっていいじゃん。


繊細な印象が強いオーボエという楽器が、これほど
カッコよく軽快なメロディを吹きまくる曲は、古今探しても
なかなか見つからないのではないでしょうか。


CD後半の3、4曲目も実に痛快です。


スネアとバスドラムがドカドカで、
ブラスがブカブカ鳴りまくります。


重苦しさとか、暗さとはまったく無縁。
かっちょいい音楽が全力疾走してフィナーレへ向かいます。



CDを聴いたあと、爽快な気分になることうけあいです。
現代のクラシック音楽で、こんな気持ちいい体験ができるのは
ほかにないでしょう。


ぜひ一度試してもらいたいものです。

オーストラリアの作曲家


今回ご紹介する曲を作ったのは、
オーストラリア出身の作曲家、クーネです。


(グレーム・クーネ)


1956年生まれといいますから、
日本だと昭和31年です。


日本だと、その世代は子供のころゴジラ鉄腕アトムなどを
見て育ったはずです。


オーストラリアでも事情はさほど変わらないらしく、
クーネは007シリーズバッグス・バニーBugs Bunny Show
などを見て育ったそうです。


まあ、テレビ時代の申し子とでもいいましょうか。


クーネは長じて北米へ渡り、
ニューヨークで正統派のクラシック音楽教育を
受けたのですが、
ほかの多くの学生のように
前衛音楽の作曲家にはなりませんでした。


あくまで人の心に訴える、面白味のある音楽を
作ろうと考えたようです。


そのためにクーネが規範にしたのは、
自分が少年のころに親しんだ音楽の数々です。


劇場で胸躍らせた映画音楽や、
リビングのラジオから聞こえてきたイージーリスニング
そしてテレビの前で笑い転げた、
アニメのキャラクターたちにつけられていた音楽です。


これこそが自分にとっての「クラシック」だ、
というわけです*2


オーストラリアという国には、
ヨーロッパのような音楽の伝統がありません。


だからこそ、オーストラリア人はクラシックの伝統を気にせず、
自由に作曲ができると考えたようです。


そこでクーネは、思い切って
エンターテイメントな音楽を作ることに
精を出したのです。


彼は作曲するときに、あえてアカデミックな手法を捨てて、
ジャズやポップス流の作曲法を採用することもあるそうです。


その結果は上述の通り。
芸術作品としてはともかく、
実に楽しい音楽に結実したのでした。


日本には、ほぼ同世代の作曲家、
吉松隆(1953年生まれ)がいますが、
彼もまた、テレビ時代の申し子で、アンチ前衛音楽です*3


ふたりの作風はずいぶん違いますが、
オーストラリアと日本という、
ともにヨーロッパのクラシックの伝統から遠くへだてられた国で
似たような志向を持った作曲家が相次いで生まれたのは、
たいへん興味深いことです。

ゲージュツなんてどーでもいい!


20世紀後半の世界で、はっきりしたメロディリズム調性のある
音楽を作ることは、たいへん勇気のいることです。


クーネの音楽は前衛ではありませんが、
彼の創作態度は、逆説的にきわめて前衛的であるといえます。


彼の作品のような、一見通俗的な音楽は、
うるさいマニアからすぐに
バカにされる危険があるからです。


しかし、ゲージュツとしての評価が、いまの時代、
どれだけの価値があるというのでしょう?


それよりも、ひとりでも多くのリスナーに聴いてもらうほうが、
はるかに価値があるのではないでしょうか?


ゲージュツとしての評価を気にするあまり、
誰も聴いてくれない難解な音楽を作る作曲家が多い中、
バカにされることを恐れずに
ポップな音楽を作る姿勢はあっぱれです。


現代人にウケるクラシックの新曲というと、
安易な「お涙ちょうだい系」か、
子供だましの「癒し系」が多いのですが、
こういうエネルギッシュな曲があるのは、頼もしい限りです。


クーネの音楽は女性にはおそらくウケが悪いでしょうが、
子供や、子供っぽい男たちには大ウケでしょう。

1000円で買って聴いてみて!


このCDの演奏は、作曲家の地元・シドニーのオーケストラ。
指揮は腕のいい職人・湯浅卓雄です*4
カラッと南半球的に(?)明るい音楽を、
実にそれらしくきびきびと演奏しています。


廉価盤の覇者・ナクソスから出ているCDですから、
1000円以下で手に入ります。


クラシックなんてつまらん!


そう決めつけてしまう前に、
ぜひこのCDをお聴きください。


ロックやポップスと、クラシック音楽を隔てる垣根が、
実はそれほど高くないということがわかるはずです。


クラシック嫌いを治すクスリとして
最適な1枚ですよ。


ただ、こんなCDを聴いていても、あいにく
女の子にはもてないと思いますけど。


(この稿完結)

*1:正確には「現代音楽」と呼ぶべきですが、中身は同じなので、とりあえずわかりやすく「クラシック」と呼んでおきます。

*2:クーネは、ヨーロッパのクラシック音楽と、現代のポップミュージックの間に境界線を引くことが無意味だと考えているようです。

*3:吉松隆についてはこちらをごらん下さい→id:putchees:20041218 id:putchees:20060428

*4:湯浅卓雄についてはこちらをごらん下さい→id:putchees:20051016 id:putchees:20060212