新交響楽団のタプカーラ交響曲にしびれる!

putchees2007-02-06


あなどれない素人たち


マチュアオーケストラのコンサートに
行ってきました。


マチュアといっても、
なかなかの腕前です。


よいコンサートだったので
ご報告します。

今回はコンサート報告です


【今回のコンサート】
交響楽団 第196回演奏会


【日時】
2007年2月4日 14:05〜16:05
東京芸術劇場大ホール(池袋)


【曲目】
ボロディン:歌劇「イーゴリ公」序曲Prince Igor
コダーイ組曲「ハーリ・ヤーノシュ」Hary Janos
伊福部昭シンフォニア・タプカーラSinfonia Tapkaara
伊福部昭没後1年追悼演奏)


【ミュージシャン】
管弦楽:新交響楽団
指揮:井崎正浩
ツィンバロン独奏:中川陽子

創立50年のアマオケ


交響楽団は、芥川也寸志が創立した
マチュアオーケストラです*1


昨年で50周年を迎え、
今回で196回目の定期演奏会というからスゴイ。


そこらのプロ楽団顔負けの
歴史と伝統を誇っているのです。


腕前もかなりのものです。


技術そのものはプロに及びませんが、
彼らは年に何度かの定期演奏会のために、
練習とリハーサルを重ねています。


一回のコンサートにかける手間と情熱は、
プロのオケにはとてもマネできません。


しかも、プロの楽団が取り上げないような曲目を
積極的に演目に取り入れています。


ですから、数多くの人がわざわざ足を運ぶのです。


この日も、東京芸術劇場の座席が
大かた埋まっていました。

コダーイにしびれる


今回の曲目は、
ロシアハンガリー、そして日本の作曲家の作品です。


1曲目のボロディンBorodinは、
初めて聴く曲でした。


オペラ「イーゴリ公」の序曲だそうです。


おなじみのダッタン人の踊りのメロディは
入っていませんでしたが、
溌剌としたいい曲でした。


演奏はまあ、普通でした。
弦が弱いかな。


2曲目の「ハーリ・ヤーノシュ組曲は、
CDでは何度も聴いていましたが、
実演は初めてでした。


これが、実にいい曲


金管とパーカッションが華やかに鳴り響いて、
ハンガリーの民族楽器、
ツィンバロンcimbalomも加わって、
にぎやかなことこの上ない。


たいへん民族色豊かで、
カラフルな音楽です。


CDではなんとなく聞き流していましたが、
とても楽しい音楽だとわかりました。


ただやっぱりこの曲も、
弦が元気ありませんでした。
残念です。

ハンガリーの巨匠


「ハーリ・ヤーノシュ」の作曲者は、
20世紀ハンガリーを代表する作曲家、
コダーイKodaly(1882-1967)です。


ぼくは、
彼の「独奏チェロソナタ(1915)が大好きなのです。


今年のお正月に、観光旅行で
ブダペストに出かけたついでに、市内にある
コダーイ記念館を訪ねてきました*2


お客さんはほかに誰もいませんでしたが、
彼の住んだ家と書斎を見ることができて感激でした。


コダーイ記念館)


その直後に、こうしてコダーイ作品の
実演に接することができてうれしい限りです。


彼の管弦楽作品を、これを機に、
じっくり聴いてみようと思いました。

新響といえばこの曲


さて、休憩をはさんで、
伊福部昭シンフォニア・タプカーラ」(1954)です。


伊福部昭(1914-2006)が残した、唯一の交響曲です*3


新響は、この曲の改訂版(1979)の初演を手がけ、
以来、14回の演奏を重ねてきました。


新響にとって、
今回が15回目の「タプカーラ」だそうです。


この曲を、これほど多く演奏してきた楽団はほかにありません*4


まさにタプカーラといえば新響
新響といえばタプカーラと言ってもいいほどです。


ぼくは、前回(2002年・伊福部昭米寿記念演奏会)の
演奏を聴いて、魂のふるえるような感動を覚えました。


今回も楽しみです。

気迫あふれる演奏


第一楽章の冒頭、ストリングスが深い音で響きます。


さきほどまでの2曲とはぜんぜん違う音です。


弦が弱い弱いと思っていたのですが、
このタプカーラでは実によく鳴っていました


弦だけでなく、
管楽器も打楽器も生き生きとしていました。


指揮者に頼らずに、自分たちで演奏しているという感じです。


いい演奏というのは、そうでなくちゃいけません。
音楽がおのずから生まれてくる感じが大切なのです。


指揮者も、オケの気迫に応じるように、
この曲を暗譜で振っていました*5


第一楽章の最後のティンパニが、狂ったような大音量でした。


お行儀よくはありませんが、とにかく大迫力の演奏です。


静謐な第二楽章を経て、血湧き肉躍る第三楽章です。


躍動するリズムが、ずんずん腹に響きます。


演奏者の意気込みが、びんびん伝わってきます。


そして、万人の魂をゆさぶる熱狂のフィナーレがやってきます。


前回、新響のタプカーラを聴いた松村禎三*6は、
隣席の観客が感動のあまり涙にむせぶのを目撃したそうです。


今回のぼくも、ほとんど涙がこぼれそうでした


見事な幕切れで、あちこちからブラボーの声があがります。


たとえプロのオケが演奏しても、
とても彼らのように鳴らすことはできないだろうと思いました。


これぞ新響の十八番です。

アンコールはゴジラ


アンコールは、
伊福部昭「SF交響ファンタジー第一番」(1983)でした。


今回は、伊福部昭没後一年の追悼演奏だったのです。
それにふさわしいアンコールでした。


おなじみのゴジラのメロディを、
くつろいだ雰囲気で聴きました。


新響のメンバーによれば、
晩年の伊福部昭は、背中を丸めて悠然と歩く姿が、
ゴジラにそっくりだったそうです。


演奏を聴きながら、
偉大な作曲家のありし日をぼんやり想像していました。

ぜひ一度お試しを


たいへん充実した演奏会でした。


次回の新響の演奏会(4月)は、
ルーセルラフマニノフ交響曲だそうです。


実に渋い組み合わせです。


次回もきっと足を運ぼうと思います。


みなさんもぜひ一度、新交響楽団の演奏会に
足を運んでみてください*7


チケットは安いですし、とても誠実な演奏です。
きっと得した気分になれると思いますよ。


ただまあ、今回みたいな地味な音楽を聴いていても、
女の子にはもてないと思いますけど。


(この稿完結)

*1:芥川也寸志は作曲家で、芥川龍之介の息子。過去のレビューをご覧下さい→id:putchees:20060212 id:putchees:20060220

*2:ブダペストのメトロM1、コダーイ・クルンド駅すぐそば。

*3:本レビューの、過去の伊福部昭に関する記事はこちら→id:putchees:20041202 id:putchees:20050513 id:putchees:20050522 id:putchees:20050611 id:putchees:20051024 id:putchees:20051217 id:putchees:20060823

*4:ついでに言うと、これほど繰り返し演奏される日本人の交響曲はほかにありません。

*5:前半の2曲でも暗譜だったのかもしれませんが、ここで初めて気がつきました

*6:戦後日本を代表する作曲家のひとりで、伊福部昭の弟子。

*7:新響のウェブサイトはこちらです→http://www.shinkyo.com/