セシル・テイラー来日公演に行ってきた!(前編)

putchees2007-02-22


ジャズ界最後の巨人


大事件です。


フリージャズの父、セシル・テイラー
16年ぶりに来日して演奏するのです。


彼こそもてない音楽のチャンピオンです。
行かないわけにはいきません。


というわけで、コンサート報告をお届けします。

今回はコンサート報告です


【今回のコンサート】
東京オペラシティ ニューイヤー ジャズコンサート2007
セシル・テイラー山下洋輔 デュオコンサート


【ミュージシャン】
セシル・テイラーCecil Taylor(ピアノ)
山下洋輔やました・ようすけ(ピアノ)


【日時】
2007年2月21日(水)19:10〜21:05
東京オペラシティコンサートホール
タケミツ・メモリアル(初台)

フリージャズピアニスト2


今回の来日公演は、山下洋輔とのデュオです。


山下洋輔は毎年、オペラシティ主催の
ニューイヤージャズコンサートで
オーケストラと共演したり、
いろいろと実験的な試みをしています。


今年の試みは、
セシル・テイラーとの共演というわけです。


ピアニスト同士の共演というのは
珍しいですから、たしかに実験的です。


当初、コンサートは1月10日の予定でしたが、
セシル・テイラーのヘルニア手術と療養のために
40日ほど遅れて開催となりました。


中止にならなくてほっとしました。


しかし、来日が延期になったために
大阪ブルーノートでのセシル・テイラー単独公演は
中止になってしまいました。


今回セシルのピアノを聴くチャンスは、
ただ一度ということになります。

デタラメピアニストではない


セシル・テイラー(1929-)は、ビバップ以降の
ジャズにおける最重要人物のひとりです。


1950年代中葉にフリージャズfree jazzという音楽を始めたのは
彼を中心とするサークルだといわれています。


彼のピアノは、ほかの誰のスタイルとも違っています。


デタラメを弾いているような感じなので、
ちょっと聴いただけで逃げ出す人が多いのですが、
注意深く聴くと、美しいメロディや和音が
隠されていることがわかります。


そして、音楽にとってとても大切な、
情熱やエネルギーといったものが
無限に秘められていることがわかります。


ジャズから出発して、ジャズの垣根を越えていくような
途方もないスケールの音を作る人です。

日本のフリージャズの第一人者


山下洋輔もまた、デタラメまがい
ピアノを弾く人として知られています。


1960年代中葉からフリージャズに手を染めた彼は、
1969年に結成した山下洋輔トリオで一世を風靡します。


坂田明、森山威男を擁した第2期のトリオは、
日本のみならずヨーロッパ全土を席巻しました。


1980年代にトリオを解散したあとも、
幅広く活躍しています。


山下洋輔は、同じピアニストとして
セシル・テイラーを尊敬しています。


詳しくは過去のレビューをお読みください→
id:putchees:20050216


1973年、セシル・テイラー初来日の
ステージは、若き山下洋輔にとって
生涯忘れがたい出来事でした。


山下洋輔は、セシル・テイラーの演奏を聴いて、
完全に打ちのめされ、自分の音楽性の基盤が
揺らぐような気がしたそうです。


おそらく山下洋輔にとって、
セシル・テイラーの衝撃を乗り越えることが
生涯の課題になったに違いありません。


今回は、いわば
その落とし前をつけようというわけなのでしょう。

セシル・テイラーだけ聴きたかった


先にいっておきますが、
ぼくは山下洋輔セシル・テイラーも大好きなのです。


山下洋輔については、過去に何度も取り上げています。
id:putchees:20050329 id:putchees:20050411
 id:putchees:20050510 id:putchees:20060410
 id:putchees:20060130


セシル・テイラーについては、過去に6回取り上げています。
id:putchees:20041225 id:putchees:20050210
 id:putchees:20050216 id:putchees:20050321
 id:putchees:20050605 id:putchees:20060619


その上で感じているのは、
最近の山下洋輔はつまらんということです。


1970年代の爆発的なパワーはとうにありません。
今の彼は、ただうまいだけのピアニストです。


一方、セシル・テイラーはどうか?
生演奏を聴いたことがないのでなんとも言えませんが、
少なくとも、ソロ演奏に関しては、
往年のスタイルとバイタリティを保っている印象です。


ですから、正直なところ、
ふたりのうちどっちを聴きたいかというと、
圧倒的にセシル・テイラーのほうです。


ですから、ふたりが共演すると知って、
セシル・テイラーのソロならよかったのに」
と思ったわけです。


しかし、そもそも今回の来日自体が、
山下洋輔との共演のためなので、
そんなことぼやいても始まりません。

共演してもしかたがない?


ぼくは、このふたりが共演すると知って、
大きな不安を覚えました。


もちろん見に行きたいのですが、
ふたりの共演から、何か新しいものが
生まれるとは思えなかったからです。


なにしろ、
ふたりの音楽性がまるきり違います


ふたりともフリージャズのミュージシャンですが、
お互いのスタイルは天と地ほどに開きがあります。


山下洋輔のスタイルは、
一見ハチャメチャなようで、
テーマ→アドリブ→テーマという
オーソドクスなジャズの枠にはまった演奏です。


簡単に言うと、アドリブの部分で
教科書通りのスケールやコードを
弾かないというだけなのです。


だから、リスナーは普通のジャズを聴くのと同じ心持ちで
リラックスして楽しむことができるわけです。


いっぽうセシル・テイラーは、そもそも
テーマ→アドリブ→テーマという構成に従いません。
それどころか、世の中の人が考える
「音楽というのはこういうふうに音が盛り上がっていって完結するものだろう」
というイメージにすら従いません。


セシル・テイラーの音は、彼自身のドラマツルギー
組み立てられています。だから、
他の人には予測不能な音の流れに聞こえます。


それが、とても美しく聞こえるから不思議なのです。


彼の音楽を楽しむということは、ジェットコースターに乗るような
エキサイティングな体験といえます。

音楽性が正反対


共演者に要求するものも、
ふたりはまったく異なるように思います。


ふたりとも、綿密なリハーサルを重ねて
バンドの音を作るタイプですが、
山下洋輔の場合は、共演者と「息が合う」ことを第一に考えます。
ソロの受け渡しや盛り上げ方、そして終わり方まで、
バンド全員の息を合わせて
ピタリと決めることに美を感じると思われます。


セシル・テイラーは、まったく違います。
彼も精緻な音作りをモットーにしていると思うのですが、
少なくともバンドのメンバー同士の「息が合う」ことは重視していません。
それより、アンサンブルがバラバラでも、
音のエネルギーを最大限放出することを目指しているような気がします。


とまあ、正反対といっていいほど、
ふたりの音楽性は異なります。


共通点といえば、ふたりとも
興に乗ってくると、肘でガンガン鍵盤を叩くということ
くらいでしょうか。


こんなふたりで、果たして共演が成り立つのか、
大いに不安を覚えながらオペラシティに向かいました。


(以下、後編につづく→id:putchees:20070224)