イタリアでシフのハイドンにたまげる!
今回はコンサート報告です
【今回のコンサート】
Omaggio A Palladio XIII
Andras Schiff E I Suoi Amici
「パッラーディオへのオマージュ:シフと仲間たち」
【ミュージシャン】
指揮・ピアノ独奏:アンドラーシュ・シフAndras Schiff
管弦楽:カペラ・アンドレア・バルカCAPPELLA ANDREA BARCA
【曲目】
ブラームスJ.Brahms「ハイドンの主題による変奏曲op.56a」
ハイドンF.J.Haydn「交響曲102番Hob.I:102」
ブラームス「ピアノ協奏曲一番op.15」
【日時】
2010年5月1日
テアトロ・オリンピコTeatro Olimpico
(イタリア・ヴィチェンツァVicenza)
16世紀の歴史的劇場建築
北イタリアのヴィチェンツァという街で、
コンサートを聴いてきました。
劇場は、16世紀後半に建てられた、
テアトロ・オリンピコってとこ。
アンドレア・パッラーディオっていう偉人が
設計したそうな。歴史的建築だね。*1
そこで、アンドラーシュ・シフが、
弾き振りをするらしい。
一緒に旅行した彼女が、
シフの大ファンで、このコンサートを見つけてきたんだ。
おかげですばらしい体験ができました。
ヴィチェンツァの街
ヴィチェンツァは、ミラノから電車で2時間くらいの場所にある。
小さな街だけど、旧市街はユネスコの世界遺産に指定されている。*2
たしかに美しい街並みだ。
ぼくたちが行ったのは日曜日で、
しかも雨が降っていたから、
人通りがまばらで、なんだかさびしかったよ。
テアトロ・オリンピコは、
古典ギリシャの劇場を屋内に再現したといった感じ。
現代の劇場とはずいぶん違う。
お椀を半分に切った形の客席(木製)が、舞台と向かい合っている。
舞台の背景は、城門(街の入口)を思わせる作りで、アーチの
向こう側に、いずこかの街路が通じているように見える。
ところがそれは木製のイミテーションで、そう見えるように
作ってあるのだ。すごい。*3
舞台の下にはちゃんとオーケストラピットもある。*4
ここでギリシャ悲劇やら、
「オルフェオ」やらの古典オペラを上演したら、
さぞかし映えることでしょう。
こんな歴史的な劇場でコンサートが
聴けるなんてシアワセ。
弦の響きに酔いしれる
開演は8時半。ちょっと遅めだね。
場内が満席になって、いよいよスタート。
アンドラーシュ・シフは、
おっとりした感じの人に見えました。
管弦楽は、カペラ・アンドレア・バルカ。
シフが組織した室内オケらしい。
シフの奥さん、塩川悠子もヴァイオリンに入ってました。
そのほかにも、東洋人がけっこう多い。
別に好きでもない曲だけど、よかったね。
シフの指揮ぶりは、いかにも悠揚迫らざる感じ。
細かいことにこだわらない。
だから、開始直後に指揮棒を落としても、
おもむろに拾い上げて、
なにごともなかったように振り続ける。*5
トスカニーニ的スパルタとも、
ブーレーズ的緻密さとも無縁な感じ。
だいじょうぶかよ。
いささか不安になりましたが、
弦の最初の響きが、それを吹き飛ばしてくれました。
おお…。
なんというゆたかな音。
あきらかに一流の音です。
すっかり安心しました。
この劇場の音響はすばらしい。
しかし、それ以上に彼らの演奏がすばらしい。
細かいところは、
いろいろアラがありそうです。
でも音がいい。よく響く。
音が、物理的実体のように、そこにあるのがわかる。
舞台からほわーっと湧き上がってきて、
手で触れられそうな気がするほど。
こういうのをまことのハーモニーというのでしょうか。
響きだけで充足してしまう。
オケのみんなで、指揮者と音楽を支えている感じ。
なんともあったかいオーケストラだ。
これぞハイドン
この人たちが演奏するのに、
シンプルな古典派はぴったりでしょう。*6
始まる前からわくわくします。
おお、いい。
速い。
軽い。
カッコイイ。
ハイドンはこうでなくちゃ!
美酒は水のようだというけど、そんな感じの音楽だ。
少しもつっかからずに、ぐいぐい飲んでしまう。
第三楽章のアレグロが、
そうとう速かったから、これは期待できると思ったら、
第四楽章のプレスト、やっぱりやってくれた。
シフ、速い。
快速!
ハイドンはやっぱりこうでなくちゃ!!
音楽自体がそうとうの推進力を秘めているのに、
シフとオケがそれに拍車を掛ける。
音楽が、物理的実体になって、
ぼくたちの耳の脇を駆け抜けていく!!
もう最高。
ブラボーと言わないわけにはいきませぬ。
アダム・フィッシャーを聴いたときと同じか、
それ以上の、至高のハイドン体験でした。
イタリアまで来てよかった。
ブラームスで居眠り
最後はブラームスのコンチェルト一番。
モーツァルトあたりならともかく、
これを弾き振りするのは無理じゃないの?
と思ったら、やっぱり、いささか無理がある感じでした。
だって、指揮とピアノ独奏は、ぜんぜん違うこと
やらなくちゃならないんだもの。
シフ、忙しすぎる。
でも、やさしいオケのみなさんが、
指揮者の不在をカバーしてくれたのでした。
おお、ちゃんと成立している。
すごいすごい。
シフのピアノを生で聴くのはもちろん初めてだったけど、
よかったですよ。
ぼくの彼女は大感激でした。
ただ、ぼくはメインのこの曲で、
睡魔が襲ってきて、音楽に集中できなかったのでした。
ごめんなさい。
ブラームスが退屈だったわけじゃなくて、
旅の疲れのせいでしょう。
最後はスタンディングオベーションでした。
この人たちの演奏で、
ぜひモーツァルトも聴いてみたいと思ったね。
だってぴったりだもの。*7
劇場を出るともう11時近くで、冷たい雨が降ってましたが
みんな満足そうに帰っていったのでした。
このコンサートシリーズ、
財政難でたいへんなのだそうですが、
来年も5月の、たしか4〜6日に開かれるそうです。
今回は、日本人(というより、東洋人)のお客は
ぼくたちだけだったみたいだけど、
チケットはオンラインで買えるようなので、
みなさんも旅のついでにヴィチェンツァまで
足を伸ばしてはいかがでしょうか。
きっとすばらしい体験ができるでしょう。
……今回のコンサートは、地味だけど、場所柄、
女にもてるかもしれないね。
だから番外編ということでご容赦を!