イタリアでシフのハイドンにたまげる!

putchees2010-05-31


今回はコンサート報告です


【今回のコンサート】
Omaggio A Palladio XIII
Andras Schiff E I Suoi Amici
「パッラーディオへのオマージュ:シフと仲間たち」


【ミュージシャン】
指揮・ピアノ独奏:アンドラーシュ・シフAndras Schiff
管弦楽:カペラ・アンドレア・バルカCAPPELLA ANDREA BARCA


【曲目】
ブラームスJ.Brahmsハイドンの主題による変奏曲op.56a」
ハイドンF.J.Haydn「交響曲102番Hob.I:102」
ブラームス「ピアノ協奏曲一番op.15」


【日時】
2010年5月1日
テアトロ・オリンピコTeatro Olimpico
(イタリア・ヴィチェンツァVicenza)

16世紀の歴史的劇場建築


北イタリアのヴィチェンツァという街で、
コンサートを聴いてきました。


劇場は、16世紀後半に建てられた、
テアトロ・オリンピコってとこ。


アンドレア・パッラーディオっていう偉人が
設計したそうな。歴史的建築だね。*1


そこで、アンドラーシュ・シフが、
弾き振りをするらしい。


一緒に旅行した彼女が、
シフの大ファンで、このコンサートを見つけてきたんだ。


おかげですばらしい体験ができました。

ヴィチェンツァの街


ヴィチェンツァは、ミラノから電車で2時間くらいの場所にある。
小さな街だけど、旧市街はユネスコ世界遺産に指定されている。*2


たしかに美しい街並みだ。


ぼくたちが行ったのは日曜日で、
しかも雨が降っていたから、
人通りがまばらで、なんだかさびしかったよ。


テアトロ・オリンピコは、
古典ギリシャの劇場を屋内に再現したといった感じ。
現代の劇場とはずいぶん違う。


お椀を半分に切った形の客席(木製)が、舞台と向かい合っている。
舞台の背景は、城門(街の入口)を思わせる作りで、アーチの
向こう側に、いずこかの街路が通じているように見える。
ところがそれは木製のイミテーションで、そう見えるように
作ってあるのだ。すごい。*3


舞台の下にはちゃんとオーケストラピットもある。*4


ここでギリシャ悲劇やら、
オルフェオ」やらの古典オペラを上演したら、
さぞかし映えることでしょう。


こんな歴史的な劇場でコンサートが
聴けるなんてシアワセ。

弦の響きに酔いしれる


開演は8時半。ちょっと遅めだね。
場内が満席になって、いよいよスタート。


アンドラーシュ・シフは、
おっとりした感じの人に見えました。


管弦楽は、カペラ・アンドレア・バルカ
シフが組織した室内オケらしい。


シフの奥さん、塩川悠子もヴァイオリンに入ってました。
そのほかにも、東洋人がけっこう多い。


最初は、ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」


別に好きでもない曲だけど、よかったね。


シフの指揮ぶりは、いかにも悠揚迫らざる感じ。


細かいことにこだわらない。


だから、開始直後に指揮棒を落としても、
おもむろに拾い上げて、
なにごともなかったように振り続ける。*5


トスカニーニ的スパルタとも、
ブーレーズ的緻密さとも無縁な感じ。


だいじょうぶかよ。


いささか不安になりましたが、
弦の最初の響きが、それを吹き飛ばしてくれました。


おお…。
なんというゆたかな音。


あきらかに一流の音です。
すっかり安心しました。


この劇場の音響はすばらしい。
しかし、それ以上に彼らの演奏がすばらしい。


細かいところは、
いろいろアラがありそうです。


でも音がいい。よく響く。


音が、物理的実体のように、そこにあるのがわかる。
舞台からほわーっと湧き上がってきて、
手で触れられそうな気がするほど。


こういうのをまことのハーモニーというのでしょうか。
響きだけで充足してしまう。


オケのみんなで、指揮者と音楽を支えている感じ。
なんともあったかいオーケストラだ。

これぞハイドン


2曲目はハイドン交響曲102番。


この人たちが演奏するのに、
シンプルな古典派はぴったりでしょう。*6


始まる前からわくわくします。


おお、いい。


速い。


軽い。


カッコイイ。


ハイドンはこうでなくちゃ!


美酒は水のようだというけど、そんな感じの音楽だ。
少しもつっかからずに、ぐいぐい飲んでしまう。


第三楽章のアレグロが、
そうとう速かったから、これは期待できると思ったら、
第四楽章のプレスト、やっぱりやってくれた。


シフ、速い。


快速!


ハイドンはやっぱりこうでなくちゃ!!


音楽自体がそうとうの推進力を秘めているのに、
シフとオケがそれに拍車を掛ける。


音楽が、物理的実体になって、
ぼくたちの耳の脇を駆け抜けていく!!


もう最高。


ブラボーと言わないわけにはいきませぬ。


アダム・フィッシャーを聴いたときと同じか、
それ以上の、至高のハイドン体験でした。


イタリアまで来てよかった。

ブラームスで居眠り


最後はブラームスのコンチェルト一番。
モーツァルトあたりならともかく、
これを弾き振りするのは無理じゃないの?


と思ったら、やっぱり、いささか無理がある感じでした。
だって、指揮とピアノ独奏は、ぜんぜん違うこと
やらなくちゃならないんだもの。


シフ、忙しすぎる。


でも、やさしいオケのみなさんが、
指揮者の不在をカバーしてくれたのでした。


おお、ちゃんと成立している。


すごいすごい。


シフのピアノを生で聴くのはもちろん初めてだったけど、
よかったですよ。


ぼくの彼女は大感激でした。


ただ、ぼくはメインのこの曲で、
睡魔が襲ってきて、音楽に集中できなかったのでした。


ごめんなさい。


ブラームスが退屈だったわけじゃなくて、
旅の疲れのせいでしょう。


最後はスタンディングオベーションでした。


この人たちの演奏で、
ぜひモーツァルトも聴いてみたいと思ったね。
だってぴったりだもの。*7


劇場を出るともう11時近くで、冷たい雨が降ってましたが
みんな満足そうに帰っていったのでした。


このコンサートシリーズ、
財政難でたいへんなのだそうですが、
来年も5月の、たしか4〜6日に開かれるそうです。


今回は、日本人(というより、東洋人)のお客は
ぼくたちだけだったみたいだけど、
チケットはオンラインで買えるようなので、
みなさんも旅のついでにヴィチェンツァまで
足を伸ばしてはいかがでしょうか。


きっとすばらしい体験ができるでしょう。


……今回のコンサートは、地味だけど、場所柄、
女にもてるかもしれないね。
だから番外編ということでご容赦を!

*1:だから今回のは、パッラーディオを記念するコンサートだったんだ。

*2:イタリアは、小さな街にももれなく(?)世界遺産がある。とんでもない国だ。

*3:たしか、チェコのチェスキー・クルムロフの城内劇場も、同じような遠近法のトリックを使っていたと思うけど、こっちのほうがずっと古い。

*4:今回は客席になってました。

*5:オケも、知らんぷりして演奏を続けてた。

*6:それにシフは、ハイドンピアノソナタを得意にしているらしい。

*7:ぼくたちが訪れる前日のプログラムには、モーツァルトも入っていた。