ミラノ・スカラ座でベルクの「ルル」を観る

putchees2010-05-15


コンサート(オペラ)報告です


【今回のオペラ】
アルバン・ベルク「歌劇 ルル」(三幕版)Alban Berg: Lulu
●日時:4月30日(金)19:30〜
●場所:ミラノ・スカラ座Teatro alla Scala


【ミュージシャン】
●指揮:ダニエレ・ガッティDaniele Gatti
管弦楽ミラノ・スカラ座管弦楽団l'Orchestra della Scala
●ルル:ローラ・アイキンLaura Aikin
●シェーン博士:ステファン・ウェストStephen West
●アルヴァ:トーマス・ピフカThomas Piffka

ベルク大好き


ヨーロッパへ観光旅行に行ってきました。


で、向こうでいくつかコンサートやオペラに出かけたので、
ご報告しようと思います。


まずは、イタリア、ミラノのラ・スカラ(スカラ座)で
ベルクの「ルル」


(公式サイトはこちら)
http://www.teatroallascala.org/en/stagioni/2009_2010/opera-e-balletto/Lulu.html


未完のオペラを完成させた、三幕版です。


歌手はよく知らないけど、
指揮はダニエレ・ガッティ
オーケストラはもちろん、ミラノ・スカラ座管。


オペラはよく知らないけど、
ベルクは大好き。


ヴォツェックWozzeck」もいいけど、
音楽的には「ルル」のほうが充実しているんではないか?


それをミラノで聴けるとは思わなかった*1

最高に汚らわしいオペラ


これまで、CDでしか聴いたことがなかったので、
旅行の前にDVDで予習していきました。「ルル」。


ブーレーズがパリでやった、
三幕版のたぶん初演のやつ*2


ゴージャスでデカダンな舞台と、
ストラータス演じるルルの毒婦ぶりに圧倒された。


これはひどい
なんて汚らわしい物語だ!


同じベルクの「ヴォツェック」は、デカダンながらも、
なんとなく気品が漂っている。


ところが「ルル」と来たら、
ひたすら汚らわしい。


なにしろ、毒婦が男を次々破滅させ、
殺人を犯して娼婦に身を落とし、
あげく、客の殺人鬼に殺されてしまう。


出てくるのは同性愛の貴婦人とか、
父親だか情夫だかわからない男とか、
女衒やインチキ銀行家など、
とんでもない連中ばっかり。


オペラとは、西洋文化の頂点を占める、
ハイソでセレブでスノッブなものではなかったの?


お歴々の集まる劇場で、高い金を取って、
もったいぶって見せるものではなかったの?


ところが、ベルクはオペラの冒頭から、
ムチを持った親方が「これは見せ物だ!」と宣言する。


これは挑戦だ。
「ルル」は反オペラanti-operaだ。


たとえナチスでなくたって、
上演禁止にしてもおかしくない。


ぼくは、ベルクのヴァイオリン協奏曲を聴いたとき、
彼はこの曲で西洋音楽息の根を止めようとしたんじゃないかと考えた。


同じように思った。
「ルル」で、ベルクは、
オペラの息の根を止めようとしたのではないか。


ベルクは、西洋音楽の歴史の掉尾に立つ男なんじゃないのか!?


…ま、そこまで大げさなもんでもないか。


しかし、75年経ったいまも刺激的なオペラであることはまちがいない。

ベルクは意地悪だな


さて、舞台です。


ミラノ・スカラ座は、表から見るとそんな大きな建物じゃない。
しかし、中は豪華だぜ!


ぼくたちは、上の方のバルコニー席から観ました。


オーケストラピットがよく見える。
おお、たしかにヴィブラフォンがある。
ルルは、ヴィブラフォンを使った最初のクラシック曲らしい。


オペラは、CDやDVDと舞台では大違いで、
歌はよく聞こえなくても、楽器の音はよく聞こえる。


ヴィブラフォンマリンバが大活躍するのが、
上からよく見えました。


さらに、歌のバックで、
オーケストラがめったやたらにムツカシそうなフレーズを
弾きまくるのがよく聞こえてきました。


とくにヴァイオリンとヴィオラのソロがよかったな。


しかし!
残念ながら、これぞスカラ座、これぞダニエレ・ガッティ、
という強い印象は、とくに受けなかったのでした。


なぜなら、舞台の前にお酒を少し飲んだせいか、
旅行の疲れか、猛烈な眠気が襲ってきたからです。


舞台の半分近くは、うとうとしておりました。
ああもったいない。
でもしょうがない。


最後は起きてたよ。
「ナイン、ナイン、ナイン……アーーーーッ!!!」っていうところ。


あんなに後味の悪いオペラはないね。


カーテンコールで主役がにっこり笑って出てきたけど、
悪い冗談にしか見えない。


帰り道「ああ面白かったね」なんて会話は、
とてもできそうにない。


すごいけど、デートには向かない。
ベルクは意地悪なやつだな。
まさにもてないオペラ


ぼくたちのほかにも日本人観光客がたくさん来ていたけど、
みんな、こういう作品だと知って来てたんだよね?
「ミラノでオペラでも」という軽い気持ちで来ていたら、
きっとケンカになるよ。


スカラ座を出たらもう12時近かったので、
大急ぎで地下鉄に乗って帰ったのでした。


こんなオペラ観ていたら、
女の子にはぜったいにもてないよ!*3

*1:一緒に行った彼女が、チケットを撮ってくれたのです。ありがとう。

*2:彼女が見せてくれました。ありがとう。

*3:おまえはどうなんだ、と問われたら今回は謝ります。ごめんなさい。