アラン・ギルバートはやっぱりすごかった。

コンサート報告です


【今回のコンサート】
都響スペシャ
2011年7月18日14:00〜
東京・サントリーホール


【ミュージシャン】
指揮:アラン・ギルバート
ヴァイオリン独奏:フランク・ペーター・ツィンマーマン
管弦楽東京都交響楽団


【曲目】
ブラームスハイドンの主題による変奏曲
ベルク:ヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」
ブラームス交響曲第1番 ハ短調

アラン・ギルバート


ひさびさに都響の演奏会に行ってきました。
今回の指揮はアラン・ギルバート
N響とはよくやってるけど、都響とやるのは初めてらしい。


ぼくは聴いたことないけど、話題の指揮者だよね。
彼はいま、ニューヨークフィルの音楽監督


ニューヨークフィルは大好きなんだ。
だから、とりあえず聴きに行ってきましたよ。

東京都交響楽団


都響は、デプリースト時代、ときどき聴きに行ってました。
でも、印象的な演奏会ってあまりなかった。


もちろん、都響はいいオーケストラです。
たとえばコンサートマスター矢部達哉
それにチェロの古川展生ソリストとしてもすごい。


ポテンシャルはあると思うんだ。
うまく引き出してくれる人がいればいい。
インバルが率いるようになって変わったかな?

ブラームス


休日午後のサントリーホールは、
ほぼ満席


当日券売り場は長い行列で、予想してなかったから
ちょっと焦っちゃいました。


さあスタート。


さいしょはブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」


これ、ぼくは昨年、イタリアで、
A.シフの指揮で聴いたんです。


シフの演奏を聴いたときは、最初の弦の響きで、
もううっとりしちゃった。
ふくよかな音楽だったね。
一緒に行った彼女は「室内楽的な演奏」って言ってた。


きょうは、それとはぜんぜん違う。
ダイナミックな演奏だった。


冒頭の弦の響きがイマイチで、
あらら、と思ったんだけど、すぐに、
アプローチが違うんだとわかった。


アラン・ギルバートは、
音楽をぐいぐいと前にひっぱっていく。


彼は強い意志を持っている。
そして、意志を実現する強い腕力を持っている。
そう感じたね。
まさにアメリカの指揮者という感じ。


地味な曲だと思うんだけど、
ぴょんぴょんはねるように、元気に躍動する。


オケも、途中からよく鳴ってました。
実に面白い。
いやあ、これは期待できそうだ。

アルバン・ベルク


2曲目はベルクのヴァイオリン協奏曲。


実演を聴くのは二度目。
今回のソリストは、F.P.ツィンマーマン
悪いはずがありません。


うーん、やっぱりいい曲。
第二楽章の劇的な部分では、ぞくっと来た。


ヴァイオリン独奏もよかったけど、
オーケストラの動きが明晰というか、
曲の構造を明示するような演奏で、新たな発見がありました。


最後の消え入るような弱音も美事でした。


アンコールに応えて、
ツィンマーマンは、バッハの無伴奏パルティータを
静かに弾いてくれました。


今回の震災の犠牲に対する祈りが
込められていたようです。

このブラームスはすごい!


最後は、ブラームス交響曲一番。


超期待。
ぼくの大好きな曲


この曲の冒頭部分は、古今の交響曲の中で、
もっとも荘厳なのではなかろうか?


ティンパニがドンドンドンドン、と鳴ると、
これからすごいことが始まる!」という感じがするんだよね。


さあ始まった。
アレッ?
ちょっと弱いかな?


…ああ、すぐ持ち直した。
すごい。
すごいすごい!


都響ものすごい音を出している!


やっぱりオーケストラは指揮者次第だ。


アラン・ギルバートは、
都響から巨大なエネルギーを引き出している。


この演奏を聴きながら、ぼくは、
音楽というのは、一種の「エネルギーの放散」だな、と
考えてました。


演奏というのは、楽譜という燃料を燃やして、
エネルギーを取り出す作業みたいなものでしょう。


いい演奏は、楽譜という燃料から、
最大限の効率でエネルギーを取り出すことだと思うんです。


アラン・ギルバートは、それができる指揮者であり、
都響は、それに応えられるジェネレータ(発電機)だったんですね。


眼前の舞台で、たいへんなエネルギーが、
カーッと燃え上がるのが見えるわけです。
ああ、これが音楽を聴くってことだ。


あの長たらしいブラームス交響曲が、
「このままずっと続いてくれ」なんて思ってたんだから、
ぼくもどうかしてる


第一楽章の後半から、もうずっと興奮しっぱなし。
第二楽章、第三楽章を退屈させずに聴かせると、
ドラマチックな最終楽章へ。


そしてそのまま熱狂的なフィナーレに突入して、
大音響とともにオーケストラが燃え尽きる。


すばらしい。
もちろんブラボーの嵐。


いつまでも拍手が鳴りやまない。


アラン・ギルバート、予想以上のすごいやつ。
そして都響もすごかった。
まさかこんな体験ができると思わなかった。


確実に、都響のこれまでの演奏会でいちばんでした。


指揮者って、軍隊の指揮官みたいなもので、、
作戦の目的を明確に兵隊に伝えて、
優先順位を決めて、確実に目的を達成するように仕向けるのが
大切なんですよね。


アラン・ギルバートは、たぶん、
オーケストラのメンバーに、いちばん大切なことと、
そうでないことを明確に伝えられる人なんじゃないでしょうか。


きょうの演奏は、それぞれの曲で、
アプローチがすごく明確だなって感じたんです。
オーケストラのメンバーが、それぞれ、同一の目標に向かって
動いているという印象が強かった。
だから、ふだん以上の(つまり本来の)力が出せたんじゃないでしょうか。
うーん、ふだんからこういう演奏をしてくれよ。


ああ、こんな指揮者が日本にずっといてくれたら!


アラン・ギルバートのお母さんは日本人で、
今回の演奏会は、震災の犠牲者への祈りを込めた、
彼にとっても特別なものであったようです。


その祈りが結晶したような
特別な音楽でした。


日本のオーケストラの底力を見せてくれた
アラン・ギルバートにほんとうに感謝です。


それにしても、こんな渋いプログラム
クラシック好きにはたまらないけど、
軽いデートにはぜったいに使えないよね。


自分のための楽しみで、あるいは、
ほんとうに大切な人と行きたいコンサートです。