日本組曲とレニングラードでびっくりする

putchees2012-03-11


コンサート報告です


【今回のコンサート】
オーケストラ・ダスビダーニャ 第19回定期演奏会
東日本大震災から1年〜
2012年3月11日(日)14:00-16:30
すみだトリフォニーホール大ホール(錦糸町


【曲目】
伊福部昭:管絃楽のための日本組曲
ショスタコーヴィチ交響曲第7番「レニングラード」作品60


【ミュージシャン】
管弦楽:オーケストラ・ダスビダーニャ
指揮:長田雅人

ユニークなアマチュアオーケストラ


オーケストラ・ダスビダーニャの演奏会に行ってきました。
ぼくが行くのは3回目です。


彼らはアマチュアオーケストラです。
なんとショスタコーヴィチ専門


それが、例外的に伊福部昭を演奏するという。
奇しくも震災のちょうど一年後。


「日本」という名前を冠した作品で、
追悼の意味を込めたものでしょう。


彼らの演奏は、以前もここで書いたけど、ほんとうにユニーク。
生演奏なのに、まるでアナログ録音のように聞こえるのです*1


いわゆる「爆演系」。
とくに金管が暴れまくって、音がすぐ飽和状態になる。
アナログ録音の、コンプレッサーがかかったようなサウンドってわけです。


バランスもへったくれもない。
でも、ショスタコーヴィチのシンフォニーの迫力と切迫感を表すには、ひとつの最適解でしょう。


プロのオーケストラにはぜったいにできない演奏。
こんなことやったら怒られるもんね。頭の固い客に。


ぼくは大好きなんです。
一度きいて、たちまちファンになりました。


自分だけのサウンドを持っているミュージシャンはそれだけで魅力的なんですよ。


だって、ほかにまねできない得意技を持っているってことだから。

魂がふるえる「日本組曲


さて今日の演奏。
まずは伊福部昭の「日本組曲」。


以前もここで書いたけど、作曲家、伊福部昭の代表作のひとつです。


さいしょの「盆踊り」から、ギアがトップに。
おおすごい迫力だ。爆音だ。


新響&コバケンの録音に負けない迫力。


金管がとにかく元気がいい。
これこれ。さすがダスビ。
弦も負けじとがんばる。
ティンパニがすごい勢いで叩いている。
「盆踊り」最後のトロンボーンの5連符もおみごと。


じゃん!と堂々と終わる。


つづいて静かな「七夕」。
「演伶」もすばらしい。


そして「ねぶた」。
ずんずんというリズムが迫ってくる。
この列島で地を這って生きてきたわれら日本人のバイタリティがそのまま音になったよう。


最後は耳をつんざく轟音でおしまい。


たまらない。
震災で傷ついたこの国のことを思うと、涙なしでは聴けないよ。


細かいことをいえばきりがないけど、
これほどの大迫力で演奏してくれたダスビに感謝です。
これ以上なにを望むというのでしょう!?


すばらしかった。


でも、客席の反応はわりと鈍かったね。残念。

愛情こもったレニングラード


震災の起きた時刻には、会場全体で黙祷しました。
悲しみを乗り越えてわれらは未来に向かうのです。


後半はショスタコーヴィチ交響曲7番


5番と並ぶ代表作のひとつ。


この曲はなんといっても第一楽章。
スネアドラムが静かに軍楽っぽいリズムを刻み始めると、胸騒ぎが。


弱音でおさえておさえて…しかし、そのときがくると、ギアがいきなりトップに!
ぐわーん!
轟音!


金管がほえまくる。
打楽器奏者が目の色を変えて太鼓を叩きまくる。
クラシックのオーケストラがこんな野蛮な音を出すとは。
弦が聞こえなくなるけど、バランスなんて問題じゃないんだ。
このオケはこういうサウンドなんだから。


聴きながら、可笑しくてしょうがない。
これは立派な芸ですよ。


みんな、大好きな曲を自分の好きなやりかたで演奏しているんだ。
その愛情(ちょっと屈折してるかもしれないけど)がびんびん伝わってくる。
これこそ音楽の原点ですよ。


ゆっくりの楽章は、ちょっと彼らのスタイルではもたないというか、あらが出てしまうと言うか、金管の出番があまりないし、眠くなってしまった。


で、最終楽章で、また元気になる。
彼らの演奏は、ゼロか100かという感じで、とてもいさぎよい。
つまり中間がない。
静かか、爆音か、どっちか。


でも、いいじゃないか。
まさにユニークなスタイル。


フィナーレは耳をつんざく轟音のうちに過ぎ去った。


お見事!
瞬間的にムラヴィンスキー指揮のレニングラードフィルを超えたと思うよ。うん。

アンコールも充実


アンコール1曲目は、どっかで聞いたことがある曲。
ショスタコーヴィチの初期のシンフォニーのどこかの楽章かな?
と思ったら、弦楽四重奏曲1番の終楽章を(独自に)オーケストラ用に編曲したものらしい。
おおすごい。


そしてアンコール2曲目は、外山雄三の「ラプソディ」。
みんなお祭り騒ぎで、最後は立ち上がって八木節でおしまい。


すばらしい。ぼくはこの曲、大好きなんだ。
(なぜほかのクラシック好きがこれを馬鹿にするのかぜんぜんわからないよ。日本の民謡はすばらしい魅力あふれる音楽じゃないか)


盛りだくさんでおなかいっぱいになるコンサートでした。
確実に、東京のプロオーケストラの定期演奏会より楽しめるよ。


彼らがすばらしいのは、ユニークなサウンドを持っていることにつきる。
「彼らがこのスタイルであの曲をやったらどんなふうになるだろう?たとえばベートーヴェンとか、ハチャトゥリアンとか」
などと想像したら楽しくなるんです。


こういうオーケストラって、プロだってあまりない。


マイルス・デイヴィスが言うように、自分だけの個性的なサウンドがないミュージシャンはダメなんですよ。


オーケストラ・ダスビダーニャは、その一点だけで確実にすばらしいと言えるのです。


来年はなにを演奏してくれるのでしょうか。
楽しみでならないです。


個人的には、弦楽器だけの「室内交響曲」とかやってほしいけどな。
金管入りで編曲してもいいと思いますよ)
第2楽章の「DSCH」というフレーズを、彼らの演奏で聞いてみたいよ。


しかし、ショスタコーヴィチの音楽はほんとうに「もてない音楽」だよね。
ダスビの演奏会には(たぶん出演者の関係者で)一般の方がたくさん聴きに来てるけど、みんな困惑したり怒り出したりしないのかな?
こういうのがクラシック音楽だと思われるのも、よくないような気がするし。
他人ごとながら心配になるのです。

*1:これ、もちろん、褒めているんです。