ラビ・アブ・カリルを聴いてレバノンに恋い焦がれる
今回のアルバム
ラビ・アブ・カリルRabih Abou-Khalil「ODD TIMES」
(ドイツ、Enja ENJ-9330)
(ナクソスミュージックライブラリー)
http://ml.naxos.jp/album/ENJ-9330
レバノンに平和を!
7月にレバノン旅行を計画していたのですが、キャンセルしました。
隣国シリアの騒擾が次第にレバノンまで浸透してきています。
ここ数ヶ月、レバノン情勢を注意深く見ていましたが、月曜日にとうとうベイルートで騒乱が起きたのを見て、ぼくも旅行をあきらめました。*1
まことに無念です。
5000年以上前から人間が文明を築いて住み続けているレヴァント地方。
コスモポリタンな首都ベイルート、地中海沿岸の古代遺跡、レバノン山脈の美しい山並みをこの目で見たかった。
レバノンに平和を。
レバノンとシリアを平和に旅することができる日が一日も早く戻ってくることを祈っています。
自分でも、どうして自分がこんなにアラブ世界に惹かれるのか、不思議でなりません。
昨年旅行したヨルダンでの体験が転機でした。
最大の理由は人でしょう。
どうしてアラブの人たちは、ぼくたちにこれほど優しいのか。
そして食べ物。ホンモスとホブス、ファラーフェル、それにシャーイを口にするためだけに旅をする価値があるだろうと思っています。
もうひとつ欠かせないのが音楽でしょう。
アラブ音楽の精妙な響き。歴史に支えられた豊かな伝統。
街角で聞こえてくる音楽に、つい聴き惚れてしまいます。
で、今回はラビ・アブ・カリルのアルバムを聴いてみます。
以前も紹介しましたが、彼はレバノン生まれのウード奏者。
内戦を避けて欧州に渡り、そこでアラブ音楽とジャズを融合したユニークな音楽を作っています。
このアルバムはライブ。
ウード、ハーモニカ、チューバ、ドラムス、パーカッションという不思議な編成で、魔術的に美しいジャズを聴かせてくれます。
エスノジャズ(民族音楽ジャズ)の最高峰といえます。
どうしてこれほど自然に、アラブ音楽とジャズが融合しているのか。
まことに天才的です。
ぼくは、やはりレバノンという国の特質があらわれているように感じます。
内戦前のレバノンは、ムスリム、クリスチャン、ユダヤ教徒などが2000年も平和に共存してきた地域でした。
「ブラック・スワン」でナシーム・タレブNassim Nicholas Taleb(レバノン出身)が書いていましたが、彼は少年時代、なにより寛容であれと教えられたそうです。
それがかの国の美徳だったのです。
タレブは、内戦でそれがすっかり損なわれたと嘆いていました。
アブ・カリルの音楽にも、寛容の心が満ちています。
アラブ音楽の伝統と西洋音楽、ジャズの伝統が矛盾なく共存している。
そして高度に洗練され、ユニークな音楽となって実現している。
技術だけではこういうものは生まれない。
哲学あってこそです。
このようなミュージシャンを生んだレバノンという国に畏敬の念を抱かずにはいられません。
レバノンに平和を。
レバノンの動揺が続く間、ぼくはラビ・アブ・カリルを聴いて、かの国のことを忘れないようにするつもりです。
そして一日も早く、訪れたいと思っています。
みなさんもぜひいちど、彼の音楽を聞いてみてください。
確実にびっくりします。
ただもちろん、これは「もてる音楽」ではありませんが。
*1:いろいろな理由があるのですが、総合的に判断しました。