オーネット・コールマン日本公演に酔いしれる!(前編)

putchees2006-04-10


ジャズライブのご報告


古い話ですが、
3月末に行なわれたコンサートの
レポートを書きます。


ジャズのライブ報告です。
大物外国人ミュージシャンの来日ステージです。
なかなか面白いコンサートだったので、
よかったら下までお読みください。

今回はコンサート報告です


【今回のコンサート】
オーネット・コールマンカルテット・
プレミアムツアー in Japan


【日時】
2006年3月27日(月)19:00-21:10
オーチャードホール(東京・渋谷)


【ミュージシャン】
オーネット・コールマンOrnette Coleman
(アルトサックス・トランペット・ヴァイオリン)
トニー・ファランガTony Falanga(ベース)
デナード・コールマンDenardo Coleman(ドラムス)
グレッグ・コーエンGreg Cohen(ベース)
山下洋輔Yamashita Yosuke(ピアノ)

一部ジャズファン感涙の来日


ジャズのアルトサックス奏者、オーネット・コールマン
ライブに出かけてきました。


オーネット・コールマンは、1950年代から
独自のスタイルを貫いてきたミュージシャンです。


あまり人気はありませんが、間違いなく、
マイルス・デイヴィスMiles Davis
ジョン・コルトレーンJohn Coltraneなどと並んで
モダンジャズの歴史を作った巨人のひとりです。


彼については、過去のレビューで3回取り上げています。
よかったら読んでください。
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ジャズの「正史」(?)では、オーネット・コールマンは、
「フリージャズを発明した革命家」ということになっています。


しかし(とうにばれていますが)実際は、
単に風変わりなフレーズを吹くアルトサックス奏者
ということに過ぎません。


とはいうものの、彼の吹くアルトサックスの音色
フレーズのすばらしさは、ジャズ界でも並ぶ者がいないほどです。


アルトサックスという楽器を究めた、
天才の中の天才です。


かたくるしいことを考えずに聴けば、
きっと誰でも楽しめるはずです。

ひさびさの来日公演


オーネット・コールマンが来日するのは、
1998年に東京フィルハーモニー交響楽団
共演したとき以来です。


そのときの公演では、オーネットの作曲した
オーケストラ曲*1がメインだったので、彼自身の
アルトサックス演奏があまり聴けませんでした。


ファンにとっては、たいへん不満の残る公演でした。


しかし今回は、自身のスモールコンボを率いての来日です。
思うぞんぶん、彼のサックスが聴けるはずです。


いやが上にも、期待が高まります。


オーネットは70歳をとうに越えていますから、
おそらくは最後の来日コンサートということになります。


行かないわけにはまいりません。


東京公演は、3月27日と28日の2回でした。
ほんとうはどちらも見に行きたかったのですが、
残念ながら、ぼくが出かけたのは27日のほうだけでした。


その模様をレポートします。

前座は山下洋輔


オーネット・コールマンが登場する前に、
ピアニスト・山下洋輔によるソロ演奏がありました。


要するに前座です。
約30分間、彼のオリジナル曲が演奏されました。


「まさか自分の人生に、こんな日が来るとは思ってもみませんでした。
謹んで前座をつとめさせていただきます」


と、山下洋輔がステージ上で挨拶しました。


もちろん山下洋輔とオーネットコールマンは、
何の接点もありません。


山下洋輔にとっても、お客にとっても、
不可解な前座でした。


あまつさえ、山下洋輔は、オーネットと共演までしたのです。
しかし、誰が聴いてもすぐわかったように、
明らかにこのふたりの音楽は調和していませんでした。


オーネット→フリージャズ→日本なら山下洋輔


…という、完全に誤った推論(?)から生まれた、
珍妙な共演だったと言えるでしょう。


そんなん、出なきゃいいのに。


と、山下洋輔に対する非難の声が上がりそうです。
彼はなぜ前座などつとめたのでしょう。


それはおそらく彼自身の、音楽に対する貪欲さでしょう。
山下洋輔は、少しでも面白そうだと感じたことには、
進んでトライします。


総スカンを食うことがわかっていても、
彼はオーネットと同じステージに立つことを選んだのです。


その図々しさには、さすがヤマシタとうならされます。


と、いちおう持ち上げておきますが、
彼のピアノ演奏自体には、べつに感心しませんでした。


60年代、そして70年代の輝かしいピアノ演奏に比べると、
いまの山下洋輔の音楽は、
かつての自分自身のミニチュアに過ぎない印象です*2


わざわざここで聴きたくないというのが、
いつわらざる気持ちでした。

オーネット様の音にしびれる!!


まあ、山下洋輔のことは、この際ほっときましょう。


30分間ガマンして、ようやくオーネット様の登場です。


ガマンすればするほど、快感は高まるものです。


オーネットの姿がステージ袖から現れた瞬間から、
客席は大歓声です。


アルトサックスの最初の一音から、もう鳥肌が立ちます。
ほかのだれとも間違えようのない、オーネットだけの音です。


ああ、もうダメ!


ヨン様なんてメじゃありません。
ぼくらにはオーネット様がいる!


実は、心配していたのです。
オーネットが、ちゃんと楽器を吹けなくなっているのではないかと。


なにしろ、前座を必要とするくらいですから、
ひょっとして、本人は30分くらいしか
ステージに立たないのではないかと危惧していました。


しかし、それはまったくの杞憂でした。
彼はおよそ90分間にわたって、
すばらしい演奏を披露してくれました。


しかも、彼のアルトサックスは、
まったく衰えていませんでした。


60年代に確立し、70年代にゆるぎのないものとなった
彼の即興演奏のスタイルは、いまも健在でした。


ふくよかで、ほとんど官能的な音色と、
鋭く、速く、とらえどころのないフレーズが、
ホールの空間を埋め尽くします。


サックス一本で、大ホールの空間を満たすことができる
アルトサックス奏者が、いったい世界に何人いるでしょう。


聴衆は陶然として
彼のアルトサックスに聞きほれていました。


これこそ一流のあかしです。


「ロンリーウーマンLonely Woman」から
「ソングX Song X」まで、オーネットの音楽を
堪能できるステージでした。

スゴ腕(?)のサイドマンたち


きょうのバンドは、ベースがふたりに、
ドラムスという編成でした。


ドラムスは、孝行息子のデナード・コールマンでした。
彼はすでに30年以上、偉大な父の音楽を支えています。


彼のドラムスから生まれる
速くもあり、遅くもある不可思議なビートは、
複雑なのか、単純なのか不明で、
精緻なのか、いいかげんなのかよくわかりませんが、
ともかく、オーネットのサックスのフレーズに調和していることは
間違いありません。


今回のコンサートの音楽を特徴づけていたのは、
ふたりのベーシストでしょう。


上手側にいるベーシストが主にピチカートを担当し、
下手側のベーシストがアルコ担当でした。


上手はビンボン、ビンボン、
下手はギーコー、ギーコーです。


これがなかなか気持ちいい。
どちらもそうとうの腕前とお見受けしました。


あ!
ピチカート担当のベーシストは、
どこかで見たと思ったら、
なんとジョン・ゾーンJohn Zornのジャズカルテット・
マサダMasadaのベーシスト、
グレッグ・コーエンではないですか!!*3


そりゃ、うまいわけです。


マサダとはずいぶん違ったサウンドですが、
ここでも彼のベースがいきいきと響いていました。


彼らのアシストを受けて、
オーネットはいかにも気持ちよさそうにアルトを吹きます。


ときどき思い出したようにトランペットと
ヴァイオリンを手にしますが、そっちは、
聴いてもあまり面白くないので、
刺身のツマみたいなものです。


あくまで、聴くべきはアルトサックスです。


(以下、後編につづくid:putchees:20060413)

*1:アメリカの空」Skies of America

*2:山下洋輔については、過去のレビューで何度か取り上げています。よかったらお読みください→id:putchees:20050329 id:putchees:20050411 id:putchees:20050510

*3:マサダについては、過去のレビューをお読みください→id:putchees:20041217