これぞ珍曲・英国製チューバ協奏曲にしびれる!
ヘンテコクラシック音楽の名盤誕生!
クラシック界の冒険野郎・
ナクソスレーベルの新譜を
買ってきました。
20世紀のイギリスで生まれた、
4つのチューバ協奏曲を収めたCDです。
チューバ協奏曲だって?
そんなの、この世にあるの?
そんなの、誰が作ったの?
そんなの、誰が聴きたがるの?
そう考えるのがフツウですが、
ヘンテコなクラシック音楽を偏愛するぼくとしては、
買わずにはいられませんでした。
これがもう、予想以上のすばらしさ。
あまりに面白いので、みなさんにご紹介します。
今回はCDレビューです
【今回のCD】
英国テューバ協奏曲集BRITISH TUBA CONCERTOS
香港Naxos 8.557754
ASIN:B000E6G2V6
【曲目】
●グレグソンEdward Gregson:テューバ協奏曲Tuba Concerto(1978)
●ステプトーRoger Steptoe:テューバ協奏曲Tuba Concerto(1983)
●ヴォーン・ウィリアムズRalph Vaughan Williams:
テューバ協奏曲ヘ短調Tuba Concerto in F minor(1954)
●ゴランドJohn Golland:テューバ協奏曲Tuba Concerto, Op.46(1980s)
【ミュージシャン】
ジェームズ・グーレイJames Gourlay(テューバ独奏)
ロイヤル・バレエ・シンフォニアRoyal Ballet Sinfonia(管弦楽)
ギャヴィン・サザーランドGavin Sutherland(指揮)
地味で不人気な大型楽器
チューバ、ご存じでしょうか。英語だとtuba。
中学校のブラスバンドなどで、ブカブカと低い音を出している、
ひときわ大きな金管楽器です。
トランペットやサックスがブラスバンドの花形だとすれば、
チューバは明らかに裏方です。
「あんな地味な楽器やってたら、○○くん
いくらかっこよくてももてないわよねぇ、クスクス」
などと、女子生徒に陰口をたたかれる(たぶん)
不人気な楽器です。
チューバ協奏曲ということは、
そんなチューバが、オーケストラの前で
主役を張るのです。
もちろん、そうした機会はめったにありません。
落語の世界でいうなら、
厳しい師匠のもとで長年下積みに甘んじてきた二ツ目が、
ようやく真打ちに昇格して、高座に上がるようなものです。
ついに訪れた晴れの舞台です。
そこで繰り広げられるのは、
すべてのチューバ奏者の怨念がこもった涙の名演となるに
違いありません。
作曲家も、普段のチューバ奏者の地位を
じゅうぶん承知しているはずですから*1
罪ほろぼしの意味も兼ねて、
きっと精魂傾けた名曲が生まれるに違いありません。
つまり、名曲名演の生まれる下地は十分すぎるほどなのです。
そうして生まれた涙の(?)チューバ協奏曲を
音楽好きなら、聴かずには済ませられないでしょう。
なぜ英国製なのか?
さて、このCDに収められたのは、
すべて英国製のチューバ協奏曲です。
はて?
なぜメイド・イン・UKなのでしょう。
少し調べてみて腑に落ちました。
英国は、ブラスバンドがたいへん盛んなお国柄だそうです。
それだけ、チューバという楽器が
国民の間で親しまれているのでしょう。
すぐれたチューバ奏者も数多くいるに違いありません。
そういう下地があって、このCDが生まれたようです。
かっちょいい音楽ぞろい!
チューバのためのコンチェルトって、どんなのだろう?
期待と不安でどきどきしながらCDを掛けてみたのですが
一度聴いて、たちまち気に入りました。
ちんぷんかんぷんな前衛ではなくて、
ちゃんとした音楽です。
もちろんメロディもハーモニーもあります。
常識的な音楽で、いかにも保守派の英国という気がしました。
しかもかっちょいいのです。
それなりの年齢の人は、同じ英国製のテレビ人形劇
「サンダーバードThunderbirds」の音楽でも思い浮かべてみてください。
英国の巨匠が作ったチューバ協奏曲
このCDには4曲が収められています。
そのうちもっとも知られているのが、
英国を代表する作曲家のひとり、
レイフ・ヴォーン・ウィリアムス(1872-1958)の作品です。
世界じゅうのすべてのチューバ協奏曲のなかで
もっとも有名なのがこの曲です。
巨匠ヴォーン・ウィリアムズが80歳を越えてからの作品です。
ブカブカという象の鳴き声のようなチューバソロに、
風格のあるオーケストラサウンドがからみます。
うん、実に堂々としています。
悠揚迫らざる雰囲気が、いかにもチューバに似合っています。
さすが、
この楽器に最初の栄光をもたらした名曲です。
CD1曲目は必聴の名作!!
しかし、ぼくはヴォーン・ウィリアムス以上に
面白い曲を見つけてしまいました。
冒頭に収められた、エドワード・グレグソン(1945-)の
チューバ協奏曲です。
ファンファーレふうの序奏に導かれて、
チューバが威風堂々と登場。
ずっしりしたメロディを朗々と歌い上げます。
ああなるほど、チューバ協奏曲というのは、オペラの中にある、
バス独唱のためのアリアみたいなものなのかと思いました。
第二楽章(緩徐楽章)のゆったりしたソロフレーズを
聴いていると、その感を強くします。
りっぱにソロ楽器として成り立っているではありませんか。
この曲の第三楽章のかっこよさは特筆もの。
あの鈍重そうな金管楽器が、オケと互角に渡り合います。
歯切れのいいタンギングで、かっこいいフレーズを小気味よく
決めていきます。
同じ低音楽器でも、コントラバスには、
こういう速いフレーズはとても無理でしょう。
管楽器ならではの軽快さです。
やるじゃん!
フィナーレもおみごと。
ブラヴォーと喝采したくなります。
最後の収録曲もなかなか
2曲目は、ロジャー・ステプトー(1953-)という作曲家の作品です。
悪くないのですが、ちょっと、オケとのからみが単調な印象です。
ライナーノーツによれば、この曲はもともと、
チューバとピアノのためのソナタとして作曲されたそうです。
それを協奏曲に編曲したと書かれています。
なるほど、たしかにこの曲のオーケストラサウンドは、
ピアノ伴奏を拡大したものという気がします。
広がりに欠ける気がしたのは、そのためだったのかもしれません。
最後に収められた、
ジョン・ゴランド(1946-1993)の曲は、なかなかのかっこよさです。
冒頭のグレグソンの曲に負けません。
ちょっとジャズっぽくて、軽快で、力強くて、
ぐっときます。
何度か聴くと、印象的な主題をつい口ずさんでしまいます。
それくらいわかりやすい音楽なのです。
実演を聴いてみたい!
どれもいい曲だなあ、と感心しているうちに、
60分間のCDが終わります。
ちょっとしたチューバリサイタルを聴くような、
楽しい時間を過ごすことができます。
チューバという楽器の可能性を感じさせるいいCDです。
しかし実演だと、チューバの音は、
こんなに大きく聞こえないのではないでしょうか。
独奏のメロディが、
オーケストラの音にかき消されてしまうかもしれません。
ぜひ、ナマのコンサートで確かめてみたいところです。
英国同様、ブラスバンドや吹奏楽が盛んな日本には、
すぐれたチューバ奏者がたくさんいそうです。
実演に挑戦しようという日本人チューバ奏者とオーケストラが
現れてほしいものです。
ぜひ聴いてみてください
こういうゲテモノ(?)系クラシックには、
つまらないものも多いのですが、今回は大きな収穫でした。
さすがナクソスです。
これだけの内容を1000円以下で提供してしまうのですから。
今後も、こんなCDをガシガシ作ってほしいものです。
これを聴かせたら、チューバをやりたがらない
ブラスバンドの新入部員を説得することができるかもしれませんし、
チューバをやってもいいという人が増えるかもしれません。
みなさんも、ぜひ一度お試しください。
聴いたこともないような音楽に出会う楽しさは格別ですよ。
ただあいにく、こんな音楽を聴いていても、
女の子にはぜったいにもてませんけどね!
(この稿完)
(次回はオーネット・コールマン待望の来日公演の模様をレポートします)
*1:なにしろ、作曲家自身が、ふだんから下積みのフレーズをチューバ奏者に強いているのですから