メシアンのオルガン曲は瞑想の友

putchees2012-05-12


今回のアルバム


メシアン:聖体秘蹟の書(ジェイコブス)
MESSIAEN, O.: Livre du Saint Sacrement (P. Jacobs)
(香港・NAXOS 8.572436-37)


ナクソスミュージックライブラリー)
http://ml.naxos.jp/album/8.572436-37

メシアンの「もてない音楽」


最初に関係ないことを書きます。


思うに「モテる」というのは、現在進行形でないと意味がないんですよ。


「俺も昔はモテましたよ」なんて言ってもダメ。
そんなの、現在ダメ人間だということの説明にしかならない。


いま「モテている」かどうかが常に問題なんです。
そういう意味じゃぼくはいまダメ人間ですよ。
世の中キビシイよ。


以上関係ない話でした。


さて、今回はメシアン


メシアンって「もてない音楽」の筆頭だと思うんですよ。


「幼子イエスの20のまなざし」の全曲リサイタルとか、「アッシジの聖フランチェスコ」の全曲公演とか、デートではぜったいに行かないもんね。


行くわけない。行ったら破局だよ。


しかも今回のこれ、オルガン曲。


オルガン曲って人気ないんだよね。
ぼくも苦手だもん。


だからメシアンのオルガン曲ときたら、二重の意味でもてない。
このブログで紹介するのに最適です。


メシアンのオルガン曲、ぼくはたぶん全部聴いてるんですが、どれも一緒に聞こえる。


というのは、どれも白玉全音符)ばっかりの静かな音楽だから。


このアルバムを選んだのもたまたまです。
どれ選んでも一緒と思ったので。


不思議なのは、メシアンピアノ曲はあれほど饒舌なのに、なぜかオルガン曲は静謐だということ。


リストとかフランクとか、饒舌なオルガン曲は苦手なんですよ。
でも、こういう静かなやつはいいかも。


ほとんどアンビエント音楽
たぶん、瞑想のためなんだろうな。
メシアンは敬虔なクリスチャンだった。


静かに神を思う、そのために奉仕する音楽ってことなんだろう。
彼は楽器ごとに、目的を変えていたんだろうね。


それにしても、オルガン曲でもやっぱりメシアンメシアン
あやしい。変態的な音響がぐわーんと響く。
超静かで超あやしい。


クセになるとたまらない。


面白いという保証はないけど、ちょっとためしてみても面白いかも?
ただもちろん、こんな音楽を聴いてたら、ぜったいにもてないよ。

第二次大戦中の東京で響いた第九に感動する!

putchees2012-04-25


今回のアルバム

ベートーヴェン交響曲第9番「合唱付き」(日本語歌唱)(三宅春恵/四家文子/木下保/矢田部勁吉/日本交響楽団NHK交響楽団)/山田和男)(1942)
BEETHOVEN, L. van: Symphony No. 9, "Choral" (Sung in Japanese) (Japan Symphony, Kazuo Yamada) (1942)
Naxos Japan NYNN-0001)


ナクソスミュージックライブラリー)
http://ml.naxos.jp/album/NYNN-0001

またもナクソスの偉業


ありがとうございます。
ナクソスレーベルに感謝です。


NHKが保管する、第二次大戦以前からのN響(前身は日本交響楽団)のアーカイブの一部をNMLで(オンラインで)公開してくれるというのです。


第一弾がきょう公開されたのですが、なにはなくともこれ。
1942年12月末、東京・日比谷公会堂での演奏会のライブ録音。
大東亜戦争開戦1周年を記念するコンサートだったそうです。


指揮は山田一雄管弦楽は日本交響楽団NHK響)。
曲目はベートーヴェン第九交響曲
当時の友邦ドイツの誇る「楽聖」ってわけだね。


あたかも戦争中のフルトヴェングラーベートーヴェンを彷彿とさせるシチュエーション。*1


さっそく聴いてみました。


なかなか立派な演奏。とくに弦はがんばってる。
第二楽章でホルンがずっこける
第三楽章のアダージョも、木管と弦がからむところのアンサンブルがあやしい
うーん、技術的にはまだまだですね。
でも、ライブ録音だし。


終楽章は堂々たる響き。
なんと日本語歌唱
ちょっと古くさいけど、けっこうはまってる。


歓喜の歌」は、ほんとうに歓喜に満ちている感じ。
すごいじゃん!


時代背景を考えると、それだけで泣けるけど、演奏自体も立派なものだと思います。


サイトに上がってる資料を見ると、入場券はA席4円80銭。「プレイガイド」なんて敵性語も使ってる。


第二次大戦中の東京にも市民生活があったんだ!
オーケストラが演奏会をやってたんですよ。
サラリーマンは電車に乗って会社に行ってたんですよ。*2


「戦時中」は隔絶した世界の話じゃなくて、ぼくらのいまの暮らしと地続きのところにあったんだと思います。
当時の日本人の考え方も、いまの日本人とほぼ大差ないと思うんですよ。
(それに日本人は第二次大戦の前から、クラシックが大好きだったんです)


ちょうどきょう、恵比寿の写真美術館で堀野正雄展を見てきたんですが、1930年代の日本のモダンな風景をたくさん見て、目を見張る思いでした。


そりゃもちろん暗い面もあっただろうけど、当時の日本は、成熟した市民が幅広く闊達な文化活動をしていたんだと改めて認識しました。


それらの結実のひとつが、ここで聴かれるベートーヴェンのような堂々とした音楽でしょう。


やっぱり戦前と戦後はつながっている
現代日本につながる文化は、すべて戦後ゼロからスタートしたなんて、うそっぱちだと思うわけです。


もちろん第二次大戦がそれまで蓄積をいったん(ほとんど)ふいにしてしまったのはまちがいないでしょう。
ただ、戦前の蓄積なくして、戦後文化の復興はありえなかったこともまた確実なのです。


日本帝国が敗北の坂を転がり落ちていくそのさなかに、銃後の東京で、このような美しい音楽が生まれていたことは、新鮮な驚きです。
音楽の力はすごい。遠い世界だと思っていた時代が、音を聞くことで、まるでそこに自分がいるような気にさせてくれるのです。


それにしてもこの演奏、クライマックスの熱狂ぶりは、まちがいなくあのヤマカズのそれです。
泣けてくるほどうれしい。


ありがとうございます。
ナクソスミュージックライブラリー。


これを聴かないで、日本のクラシック音楽史は語れないでしょう。


ただもちろん、こんなものを聴いていても、女の子にはぜったいにもてません。

*1:別にカラヤンでもいいんだけど、なんとなく。

*2:前に書いたと思うけど、サラリーマンという言葉が生まれたのは1920年代のことらしい。

エネスコの弦楽八重奏曲がかっこいい!

putchees2012-04-23


今回のアルバム

メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲/エネスコ:弦楽八重奏曲(テツラフ/ファウスト/バティアシビリ/ヴァイトハース/ゴワーズ/ロバーツ/オリ・カム/フィエルセン)
MENDELSSOHN, Felix: String Octet / ENESCU, G.: String Octet (C. and T. Tetzlaff, Faust, Batiashvili, Weithaas, Gowers, R. Roberts, Ori Kam, Viersen)
(独、CAvi-music 8553163)


ナクソスミュージックライブラリー)
http://ml.naxos.jp/album/CAvi8553163

熱血の名演!


メンデルスゾーンとエネスコの弦楽八重奏曲の入ったアルバムです。
オクテットってやつだ。


六重奏はたまにあるけど、八重奏はめずらしいよね。


指揮者はいない。
みんなで「せーの」で演奏する民主主義(?)の室内楽としては、ほぼ限界の規模なのかな?
これ以上大きくなると、指揮者が必要だよね。


この編成でいちばん有名なのは、まちがいなくメンデルスゾーンの曲でしょう。
このアルバムの演奏はライブで、すごくかっこいい。


熱気がすごい。
奏者もすごい。クリスティアン・テツラフ、イザベル・ファウスト、リサ・バティアシヴィリなど。


張り詰めていながら、のびのびと、熱く奏であげる。
観客からはブラヴォーの嵐。
ぼくもブラヴォーですよ。


ただ、実はもっとすごいのはエネスコのほう。
エネスコの弦楽八重奏曲については、いぜん書きました


そのときは、あまりいい曲と思わなかったんですが、この演奏はすごい
やっぱりクラシックは演奏次第と実感しました。


ほとんどめまいのしそうな迷宮的音楽を熱く、狂おしく奏でるのです。
すごいすごい。すごい名演だ!
エネスコの曲で感動したのは初めてですよ。


小弦楽オーケストラといってもいいこの不思議な編成で、これほど楽しめるとは!

これを聴かないのはもったいない!
マイナーな曲でも、いいものはいいのです。
ぜひぜひ、お試しいただきたいものです。


ただ、こんな曲を聴いてても、女の子にはもてませんよ!

笙とアコーディオンはよく似ている

putchees2012-04-22


今回のアルバム

「DEEP SILENCE」
細川俊夫:線 V/雲景・月夜/光に満ちた息のように/雅楽(宮田まゆみ/フッソング)
HOSOKAWA, T.: Sen V / Cloudscapes - Moon Night / Wie ein Atmen im Lichte / Gagaku (Deep Silence) (Miyata, Hussong)
(独、Wergo 6801-2)


ナクソスミュージックライブラリー)
http://ml.naxos.jp/album/WER6801-2

たまには細川俊夫も悪くない


このアルバムは面白い。
なんと雅楽アコーディオンのデュオ。
演奏は宮田まゆみとステファン・フッソング。


笙と宮田まゆみについては、以前えらい長々しく書いたので、そっちをご覧ください。


このアルバムは、ドイツの現代音楽専門(?)レーベル、Wergoが出してる細川俊夫作品集です。
彼はドイツで人気があるんだよね。


細川俊夫は、ちっとも好きじゃない。


彼のオーケストラ曲は眠くなる
武満徹と同じで、せっかくオーケストラを使ってるのに、ちっともカタルシスがない。


I hate his music! と思っていたのですが、彼の室内楽を聴くようになって、イメージが変わってきました。
つまり静かで、BGMには悪くないわけです。


このアルバムは、静けさでいえばほぼ究極といえます。
70分間ほとんど全音だけなんじゃない?


解説にはとかとか、いかにも欧州人がよろこびそうなタームが満載でした。
ようするに、幽玄とかわびさびの境地ってやつだよね。


細川俊夫は、日本文化のわびさび的価値(つまり静的な面)を体現した作曲家なんだ。


ま、理屈はともかく


このアルバムには、雅楽の伝統曲(笙の独奏曲)と細川俊夫のオリジナル曲が交互に入ってる。


どっちもごくごく静かで、ほとんど動きがない


アコーディオンと笙がソロだったり、デュオで演奏したりする。


アコーディオンは、オクターブ上げて、笙の音域(ピッコロより高い)に合わせているらしい。


笙もアコーディオンも、フリーリード楽器free reed instrumentsだよね。
だからうまく調和する。


アコーディオン雅楽の和音やメロディを演奏するところなんて、かなり面白い。笙との微妙な音色の違いが音楽に味わいを加えている。


細川俊夫の曲は、現代音楽的ではあるけど、雅楽と並べても違和感のない響きになっている。ごく控えめ


自意識過剰でもエキセントリックでもないところが好印象。


まさにユニークな響きです。
西洋には、こんな響きがあるわけがない。世界に誇れる音楽だと思います。


細川俊夫は、日本の伝統を踏まえることで、ほかにない響きを作り出したといえるでしょう。


もちろん宮田まゆみとフッソングの演奏もいいです。
現代音楽好きも現代音楽嫌いにもおすすめできます。


日本人が1000年以上受け継いできた不思議な和音の響きに酔いしれてください。


ただもちろん、こんな音楽を聴いていたら、女の子にはもてないけどね。

読響&カンブルランのフランクを聴く

今回のコンサート

読売日本交響楽団 第548回名曲シリーズ
2012年4月21日(土) 18:00 サントリーホール
指揮=シルヴァン・カンブルラン Sylvain Cambreling
サクソフォーン=須川展也


メシアン:ほほえみ
イベール没後50年〉
イベール:3つの小品
イベール:アルト・サクソフォーンと11の楽器のための室内小協奏曲
フランク:交響曲 ニ短調

読響の弦は日本一


読響の常任指揮者principal conductor、カンブルランの演奏を初めて聴きました。


実は、以前はあまり聴きたいと思わなかった。


彼の録音はメシアンとかハイドンとかずいぶん聴いたのですが、どうもぴんとこなくって。


ただ、今年になって聴いたベートーヴェンがあまりにすごかったので、俄然聴きたくなったわけです。


で、行ってきました。
きょうのプログラムはメシアンイベール、フランク。
フランスもの3点セット。


土曜日のサントリーホールは大勢のお客さん。


まずはメシアンの小品。
ゆっくりと速いのが交互に繰り返す不思議な曲。


弦の弱音とシロフォンがよかったね。


で、つづいてイベール
ことし没後50年なんだね。大好きな作曲家です。


まずは管楽器による室内楽
すごくセンスのいい音楽。
イベールには、もっと多くの人に知られてほしい曲がたくさんあります。


そして、同じくイベールのアルトサックス協奏曲。
独奏は須川展也


彼の生演奏は、10年前に吉松隆の個展で聴いて以来。
あいかわらずのふくよかな美音でした。


そして、読響のがやっぱりすばらしかった。
とくにヴァイオリンは言うことない。


音楽も絶妙。まさにフランス的な軽快さイベールの美点はそこにしかないのですが)。


ただ、ぼくはステージ後ろの席に座ってしまったので、音のバランスはなにがなにやらわからない感じでした。


後半はフランクのシンフォニー。
これは楽しみ。


おお、やっぱりかっこいい。


このくどさは、ちょっとフランスぽくない。
でも大好き。


ブラームスふうでもあるし、繰り返しが多いという点では、ちょっぴりブルックナーふうでもあるな、と考えたりしました。


まあ、そんなことはともかく、19世紀後半のシンフォニーの中で、ぼくが好きな数少ないもののひとつです。


やっぱり弦がすばらしい。
ただ、ぼくはステージのすぐ後ろに座っていたから、管楽器の音がガンガン聞こえてバランスがめちゃめちゃでした。


座る場所はだいじだね。


でも、楽しんで聴きました。


今回のコンサートでは、カンブルランらしさは、どこにあるのか、ちょっとわからなかった。
ま、何回も聴けばそのうちわかるでしょう。


終演後はホールがあたたかい拍手に包まれました。
読響はファンに愛されている、いいオケだね。


カンブルランのもとで、彼らがいっそう成長するという予感がします。
彼は、未来志向の指揮者だと思うんですよ。
新しい音が作れる人。


古くさいクラシックじゃなくて、21世紀の、アジアのオケのユニークな音を作ってほしいなと思います。
彼らには、それができると信じます。


今後も読響の演奏会に注目していきたいと思います。


まあ、フランクのシンフォニーはもてない音楽だと思いますけど。

クセナキスの打楽器曲がかっこいい!

putchees2012-04-19


今回のアルバム

クセナキス:プサッファ/ルボン/オコ(カルネイロ)
XENAKIS, I.: Psappha / Rebonds / Okho (Carneiro)
(フランス、Zig-Zag Territoires 040901)


ナクソスミュージックライブラリー)
http://ml.naxos.jp/album/ZZT040901

予想よりずっといい!


ギリシャ生まれの作曲家クセナキスといえば、シュトックハウゼンとかノーノとか、リゲティとかと並ぶ、20世紀後半の前衛作曲家、ってことになってる。


これまでなんとなく敬遠してたけど、このアルバムは当たりだった。


パーカッション作品集。
メロディ楽器はひとつもなしで、打楽器だけ


3曲入ってて、1曲目は3人で演奏するやつ。のこりはひとりだけの、つまり独奏だ。


ところが、どれも面白かったんだなぁ。ああびっくり。


轟音とか点描系の音だったら困るなと思ったんだけど、どれもちゃんとリズムがある


基本的に速い。
で、その組み合わせの変化が面白い。


1曲目はジャンベの曲だから、アフリカ風。
2曲目と3曲目はパーカッション独奏なんだけど、どちらもちゃんとリズムがあって、しかも音色が豊富。いろんなパーカッションが次から次に出てくる。面白い。
リズムはキープしたまま。だから、ちょっとしたドラムソロ作品集のように聴ける。


堅苦しくなる必要はない。
たとえコンサートでも退屈しないで聴けるかも。
こんな現代音楽なら大歓迎です。


いやー、食わず嫌いはよくないね。
クセナキスのほかの曲はよく知らないけど(聴いたことあると思うけど印象にない)、これはとにかくおすすめできます。


ただ、こんな音楽を聴いてたら、一生女の子にはもてないよ!

ファイのハイドン57番にしびれる

putchees2012-04-18


今回のアルバム

ハイドン交響曲集 11 - 第57番, 第59番, 第65番(ハイデルベルク響/ファイ)
HAYDN, J.: Symphonies, Vol. 11 (Fey) - Nos. 57, 59, 65
(独・Haenssler Classic 98.526)


ナクソスミュージックライブラリー)
http://ml.naxos.jp/album/CD98.526

ハイドンはぜったい面白い


ハイドンリズムの人だと思うんですよ。


少し前まで、そう言い切るのに、ためらいがあったんですよ。ただ最近、友だちがそう言っているのをきいて、あ、やっぱりそうかと、迷いを捨てました。ありがとう。


もう一回いいます。
ハイドンはリズムの人だ。


ヘンスラーが出してる、トマス・ファイによるハイドン交響曲集をじゅんばんに聴いてるんですが、11集まで来ておどろいた。


57番、こんな鮮烈な曲だったっけ?


ちなみに書いておきますと、ハイドンには番号つきだけで104曲交響曲があります。


おもむろに始まって、1分過ぎで突如アチェンジ。ドドドド、というティンパニとともに快速運転開始。


あとは小気味よく駆け抜ける。


メヌエットも、もろダンスっぽいリズムでやってくれるし、終楽章のプレスティッシモはまさに超特急


かっこいい!!
まさしくリズムの快楽
ハイドンアレグロ仕掛け。


だれだ、ハイドン渋いとか、退屈だとか言ってるのは?
こんなに明朗で娯楽に満ちた音楽はほかにないじゃないの。


おれはぜったいモーツァルトよりハイドン派なんだ。


もてるモーツァルトより、もてないハイドンなんだよ!


みなさまもいちどファイによるハイドンをお試しください。
きっととりこにしてみせます。


ただ、ハイドン好きが女の子にもてる自信はぜんぜんないよ!