アート・ブレイキーのゴキゲンな日本風ジャズを聴け!

putchees2005-03-06


今回のCD

アート・ブレイキージャズ・メッセンジャーズ
Art Blakey and The Jazz Messengers
キョウトKYOTO
(原盤1964/Riverside/OJC - ASIN: B000000Y8I)

ミュージシャン

フレディ・ハバードFreddie Hubbard(トランペットtp)
ウェイン・ショーターWayne Shorter(テナーサックスts)
カーティス・フラーCurtis Fullerトロンボーンtb)
シダー・ウォルトンCedar Walton(ピアノp)
ジー・ワークマンReggie Workman(b)
アート・ブレイキーArt Blakey(ドラムスds)

曲目

1.High Priest
2.Never Never Land
3.Wellington's Blues
4.Nihon Bash
5.Kyoto
(1964年2月20日録音)

日本にモダンジャズがやってきた日


ジャズドラマー、アート・ブレイキーは、
自身のバンド、ジャズ・メッセンジャーズを率いた
1961年の初来日で圧倒的な人気を集めます*1


来日時のメンバーはアート・ブレイキーを筆頭に、
リー・モーガンLee Morganウェイン・ショーター
ボビー・ティモンズBobby Timmons、ジミー・メリットJymie Merrittでした。


1960年前後のジャズ界を代表するすばらしいミュージシャンが揃った
クインテットの演奏に、日本人は熱狂します*2


「モーニンMoanin'」や「ブルース・マーチBlues March」といった、
メッセンジャーズのレパートリーは、当時の日本中のスピーカーから流れ、
「そば屋の出前持ちが、LP「モーニン」のリー・モーガンのソロを鼻歌で歌っていた」
という伝説が生まれます。


ブレイキーの来日を機に、日本にモダンジャズのブームが起こり、
「ダンモ」「ズージャ」は、カッコイイ音楽の筆頭となります。


日本人の、下にも置かぬ歓待ぶりに感激したメンバー(特にブレイキー)は、
日本びいきになり、その後毎年のように来日するようになります。


メッセンジャーズの60年代前半のレパートリーには、
「ウゲツ(雨月)」「キョウト」「オン・ザ・ギンザ」などといった、
日本趣味のタイトルが並びます。

60年代メッセンジャーズ最強メンバーによる録音


きょう紹介するのは、1964年のアルバム、「キョウト」です。
当時のメッセンジャーズのメンバーは、
トロンボーンカーティス・フラーが加わった3管編成*3で、
トランペットがリー・モーガンからフレディ・ハバードに、
ピアノがシダー・ウォルトンに、ベースがレジー・ワークマンに代わっています。


前半は平凡な演奏ですが、後半(アナログB面)がおすすめです。
「ニホン・バッシュ」と「キョウト」という曲が収められています。


「ニホン・バッシュ」は、当時バークリー音楽院Berklee College of Music*4の学生だった
アルトサックス奏者・渡辺貞夫の曲*5
「キョウト」は、フレディ・ハバードの曲です。

「日本バッシュ」?「 日本橋」?


ちなみに、ぼくのもっているLPには「Nihon Bash」と表記されているのですが、
ウェブ上には「Nihon Bashi」と表記されているサイトも多くあります。
もしそうなら、この曲は「日本橋」というタイトルになります。
こっちのほうが可能性は高そうです。


さて、「キョウト」は、
「♪さくらさくら」に似たメロディがテーマになっています。
ハバードの曲ということもあって、日本音階を使っているものの、
基本はフツウのモダンジャズの曲です。


ところが「ニホン・バッシュ」は、日本人が作った、純然たる日本の曲。
「日本風」じゃなくて、ほんとうの日本のメロディです。
日本人の感性で作られた、もっとも初期のジャズのテーマではないでしょうか。


ブレイキーのドラムに続いて、トロンボーンによる重厚な導入部。
そしてサビでは3つのホーンが雄々しく吠えます。
このテーマ、たいへんカッコイイです。


この曲は当時はやりの「モード」の手法を用いた曲です。
ややこしい説明を抜くと、リフものとか、コード一発ものだと思えばいいでしょう*6
ひとつのコードで、ソロイストが自在なアドリブを繰り広げます。



ショーターのプレイが熱いのですが、
この曲ではいつになくコルトレーンJohn Coltrane風のフレーズを連発します*7


バックでプッシュするブレイキーのドラムが熱い!


しかしこの曲で注目すべきは、シダー・ウォルトンのピアノでしょう。
日本音階を強く意識した、熱さの中にも情緒のあるアドリブを展開します。
ガンガンと力強いバッキングもすばらしい。


6人のミュージシャンが一丸となってつきすすむパワーは、
この当時のメッセンジャーズが、いかにまとまった
すばらしいバンドであったかを物語っています。


ブレイキーの60年代前半の傑作群の中にあって、
埋もれがちな一枚ですが、このアルバムのB面は、
とくにぼくたち日本人にとっては注目に値するのではないでしょうか。


もっと多くの人に聴いてもらいたいアルバムです。


ただ、こんなアルバムを聴いていても、女の子にはもてませんので、あしからず。

*1:東京オリンピックの3年前のことです。ちなみに、メッセンジャーズが羽田空港に降り立ったのは元旦。翌2日の東京・サンケイホールでのコンサートが、日本で最初にモダンジャズが演奏された日ということになります…少なくとも公式には。

*2:とくに、ショーターがメンバーに加わっていたことは、日本のリスナーにとって、大変幸福なことでした。

*3:クラシックのオーケストラの3管編成とは別。ホーンが3人という意味。

*4:ボストンBostonにある

*5:60年代のナベサダのプレイは、パーカーのフレーズを自在に操るすばらしいもの。聴いたことのない人はぜひお試しを。

*6:日本の音楽はもともと旋法的(モーダル)ですから、バップ風の目まぐるしいコードチェンジを当てはめるのはふさわしくないと思ったのでしょう。渡辺貞夫の判断はすぐれています

*7:ちなみにショーターは、この年の秋にはメッセンジャーズを退団し、マイルス・デイヴィスMiles Davisのグループに参加します。