尺八と筝の奏でる美に酔いしれるのだ!

putchees2005-03-26


今回のCD

三橋貴風/竹籟五章
(1997 カメラータトウキョウ30CM-303)
ASIN:B00005YBWR

曲目

●諸井 誠:竹籟五章(1964)
●松巌軒所傅尺八古典本曲「鈴慕」
松村禎三
詩曲1番〜箏と尺八のための(1969)
詩曲2番〜尺八のための(1972)
●三木 稔:秋の曲〜尺八と二十絃箏のための(1980)

ミュージシャン

三橋貴風(尺八)
吉村七重(二十絃箏)

真の名曲を求めて


このレビューは一種のアジテーションです。
誰も見向きもしない本当の名曲に目を向けてもらうのが目的です。
そして読んでくれた人のなかから、
新しい、すばらしい音楽が生まれるのを心から渇望しているのです。


さて、今回のCDは、尺八のCDです。
尺八というと抹香臭いイメージですが、
このCDは現代曲で、たいへん洗練されたサウンドです。


とはいえ、西洋音楽風に洗練されているわけではありません。
西洋音楽におもねった邦楽器の曲なんて聴く価値はありません。


日本的な美と、現代人にもわかる美というのを両立させた音楽なのです。

尺八の超絶技巧にビックリする!


これは尺八の名人、三橋貴風(みつはし・きふう)のCDです。
最後に収められた「秋の曲」を聴いてみてください。


愛のコリーダ」で知られる作曲家、三木稔の名作です*1


おごそかで、繊細な筝の音色にさそわれて、
尺八がたゆたうようなメロディを奏でます。


たいへんドラマチックで、リリカルな曲です。
約13分間の曲ですが、まったく退屈しません。
尺八と筝で、こんなに美しい音楽が作れるのか!と、
目からウロコが落ちるはずです。


個人的な話をするなら、ぼくはこの演奏を聴いて、
尺八という楽器の魅力に目覚めました。


もしあなたが「これまでに聴いたことのない音楽」を貪欲に求めている人なら、
聴いて決して損はしません。


自分のごくそばに、豊かな音楽があったことに気が付くはずです。
日本の音楽が豊かなものであったとわかるはずです。


ラテン音楽や、アフリカ音楽、あるいはガムランやアラブ音楽など、
世界の民族音楽を遍歴してきた人ほど、この曲の価値が理解できるはずです。


日本的だからこそ、この曲はすばらしいのだと。

日本的なものこそ、世界に通用するのだ


三木稔の師、伊福部昭はこういっています。


「もっとも民族的なものが、もっとも世界的なものだ」


と。


敷衍するなら、それはすなわち、


「もっとも日本的なものが、もっとも世界的なものなのだ」


ということなのです。


なぜ、アフリカ音楽やアラブ音楽が、ぼくたちの胸に響くのか、
考えてみてください。


それは、その民族らしい響きがするからではありませんか。


うそ偽りのない「自分の音楽」を奏でているからではありませんか。

スタイルじゃない、心なのだ!


たとえば、フェラ・クティFela Kutiの音楽がすばらしいからといって、
それを猿真似しても、しょせんまがいものにしかなりません。


なぜなら、根っこがないからです。
あなたはナイジェリア人ではなく、日本人なのです。


彼の音楽がすばらしいのは、
彼が「自分自身の音楽」をやっているからです。


だから、フェラ・クティの音楽がすばらしいと思うなら、
あなたは、「自分自身の音楽」をやるべきなのです。


学ぶべきは、スタイルではなく、心なのです。


ごく単純なことですが、日本人の大部分は、それを理解していないように思います。


ぜひ「秋の曲」を聴いてください。
自分の足元にある、美の根っこに気が付いてください。
そして、ホンモノの「自分自身の音楽」を探してください。


この曲は、それだけの力を持った名曲です*2
決して難解ではありませんし、抹香臭くもありません。
ほんとうに音楽が好きな人なら、かならず理解できるはずです。


このCDには、ほかにも三橋貴風の名演がたっぷり収められていますから、
尺八の深みのある音に酔いしれたい人にはおすすめです。


もちろん、こんなものを聴いていても、女の子にはぜったいにもてません。


ただ最初に申し上げたように、このレビューはアジテーションなのです。
ぼくは新しい音楽が生まれるタネを蒔いているつもりです。


ひとりでも多くの人に共感してもらうために、
次回ももてない音楽を紹介しますよ。お楽しみに。

*1:三木稔については、以前にもレビューを書いています。→ id:putchees:20041208 id:putchees:20050116

*2:この「秋の曲」には、フルートとピアノのための編曲版もあります。楽器の演奏ができる方は、ぜひ楽譜を手に入れて演奏してみてください。