尺八と筝の奏でる美に酔いしれるのだ!
今回のCD
三橋貴風/竹籟五章
(1997 カメラータトウキョウ30CM-303)
ASIN:B00005YBWR
曲目
●諸井 誠:竹籟五章(1964)
●松巌軒所傅尺八古典本曲「鈴慕」
●松村禎三:
詩曲1番〜箏と尺八のための(1969)
詩曲2番〜尺八のための(1972)
●三木 稔:秋の曲〜尺八と二十絃箏のための(1980)
ミュージシャン
三橋貴風(尺八)
吉村七重(二十絃箏)
真の名曲を求めて
このレビューは一種のアジテーションです。
誰も見向きもしない本当の名曲に目を向けてもらうのが目的です。
そして読んでくれた人のなかから、
新しい、すばらしい音楽が生まれるのを心から渇望しているのです。
さて、今回のCDは、尺八のCDです。
尺八というと抹香臭いイメージですが、
このCDは現代曲で、たいへん洗練されたサウンドです。
とはいえ、西洋音楽風に洗練されているわけではありません。
西洋音楽におもねった邦楽器の曲なんて聴く価値はありません。
日本的な美と、現代人にもわかる美というのを両立させた音楽なのです。
尺八の超絶技巧にビックリする!
これは尺八の名人、三橋貴風(みつはし・きふう)のCDです。
最後に収められた「秋の曲」を聴いてみてください。
おごそかで、繊細な筝の音色にさそわれて、
尺八がたゆたうようなメロディを奏でます。
たいへんドラマチックで、リリカルな曲です。
約13分間の曲ですが、まったく退屈しません。
尺八と筝で、こんなに美しい音楽が作れるのか!と、
目からウロコが落ちるはずです。
個人的な話をするなら、ぼくはこの演奏を聴いて、
尺八という楽器の魅力に目覚めました。
もしあなたが「これまでに聴いたことのない音楽」を貪欲に求めている人なら、
聴いて決して損はしません。
自分のごくそばに、豊かな音楽があったことに気が付くはずです。
日本の音楽が豊かなものであったとわかるはずです。
ラテン音楽や、アフリカ音楽、あるいはガムランやアラブ音楽など、
世界の民族音楽を遍歴してきた人ほど、この曲の価値が理解できるはずです。
日本的だからこそ、この曲はすばらしいのだと。
日本的なものこそ、世界に通用するのだ
「もっとも民族的なものが、もっとも世界的なものだ」
と。
敷衍するなら、それはすなわち、
「もっとも日本的なものが、もっとも世界的なものなのだ」
ということなのです。
なぜ、アフリカ音楽やアラブ音楽が、ぼくたちの胸に響くのか、
考えてみてください。
それは、その民族らしい響きがするからではありませんか。
うそ偽りのない「自分の音楽」を奏でているからではありませんか。
スタイルじゃない、心なのだ!
たとえば、フェラ・クティFela Kutiの音楽がすばらしいからといって、
それを猿真似しても、しょせんまがいものにしかなりません。
なぜなら、根っこがないからです。
あなたはナイジェリア人ではなく、日本人なのです。
彼の音楽がすばらしいのは、
彼が「自分自身の音楽」をやっているからです。
だから、フェラ・クティの音楽がすばらしいと思うなら、
あなたは、「自分自身の音楽」をやるべきなのです。
学ぶべきは、スタイルではなく、心なのです。
ごく単純なことですが、日本人の大部分は、それを理解していないように思います。
ぜひ「秋の曲」を聴いてください。
自分の足元にある、美の根っこに気が付いてください。
そして、ホンモノの「自分自身の音楽」を探してください。
この曲は、それだけの力を持った名曲です*2。
決して難解ではありませんし、抹香臭くもありません。
ほんとうに音楽が好きな人なら、かならず理解できるはずです。
このCDには、ほかにも三橋貴風の名演がたっぷり収められていますから、
尺八の深みのある音に酔いしれたい人にはおすすめです。
もちろん、こんなものを聴いていても、女の子にはぜったいにもてません。
ただ最初に申し上げたように、このレビューはアジテーションなのです。
ぼくは新しい音楽が生まれるタネを蒔いているつもりです。
ひとりでも多くの人に共感してもらうために、
次回ももてない音楽を紹介しますよ。お楽しみに。
*1:三木稔については、以前にもレビューを書いています。→ id:putchees:20041208 id:putchees:20050116
*2:この「秋の曲」には、フルートとピアノのための編曲版もあります。楽器の演奏ができる方は、ぜひ楽譜を手に入れて演奏してみてください。