超絶ジプシーバンド、マハラ・ライ・バンダを聴く!

putchees2005-05-08


今回はライブ報告です。

マハラ・ライ・バンダ来日公演2005
MAHALA RAI BANDA

日時

5月3日(火)18:30〜20:30
六本木ヒルズアリーナ

ミュージシャン

Aurel Ionita(ヴォーカル、ヴァイオリンvocal, violin)
Aurel Bosnea(バリトンbaritone)
Viorel Oprica(トランペットtrumpet)
Georgel Cantea(トランペットtrumpet)
Marian Dinu(ドラムスdrums)
Mihai Enache(ダラブッカdarbuka)
Stephane Karo(ダラブッカdarbuka)
Sorin Constatin(ヴォーカル、クラリネット、サックスvoice, clarinet, sax)
Marian Enache(ヴォーカル、アコーディオンvocal, accordion)
Cristinel Cantea(チューバtuba bass)
Marin Tudor(コントラバス、ベースdouble bass, bass guitar)
&Beautiful dancers from Romania

ルーマニアのジプシー音楽


少し古い話になりますが、去る5月3日、
ルーマニアのジプシー(ロマ)バンド、
マハラ・ライ・バンダのライブに出かけて来ました。
11人編成という大所帯で、ブラスやパーカッション、
それに歌によるアコースティックバンドです。


ステージ上ではダンサーも入り交じり、
たいへん賑やかで、土の香りのするゴキゲンな音楽でした。


コンサートの主催はプランクトン*1
会社のサイトを見ればわかるとおり、東欧やスペイン、アイルランドやブラジルなど、
周縁地域の音楽*2を意欲的にプロモートしている会社です*3


場所は六本木ヒルズアリーナ。
テレビ朝日社屋に面した野外ステージです。
PAの音が四方に拡散してちょっと迫力不足でしたが、開放的な雰囲気が、
このバンドの音楽にマッチしていました。


お客さんは老若男女問わず、バラバラでしたが、
隣に立っていた人の話を聞いていたら、
シャクティShaktiカエターノ・ヴェローゾCaetano Volosoの名前が出てきました。
つまりは、「ワールドミュージック」に関心のある客層ということでしょう。


オーガニックライフが好きそうな人とか、
エスニックなファッションが好きそうな人とかが多い気がしました


当日はさわやかな五月晴れで、野外コンサートを聴くには、
最良の天候でした。


会場はあまり広くないのですが、数百人の観客が入っていました。
入りとしては、満員の5割ぐらいの印象でした。

バイタリティあふれる最良のステージ


さて、内容についてです。


ぼく自身はこのバンドについてなにも知りませんでしたが、
プランクトンが、ルーマニアからわざわざこれだけの
大人数のバンドを呼ぶくらいですから、つまらないはずがありません。


チラシに「超テク・サウンド」と書いてあったとおり、
期待を裏切らない、驚異のサウンドでした。
ブラス隊も歌い手もリズム隊も、超絶技巧を駆使して、
ハイスピードで正確無比のアンサンブルを聴かせてくれました。


一般にぼくたちが抱いているジプシー音楽のイメージ通りでありながら、
ロックやラテンの要素も取り入れ、
たいへん洗練された音楽という印象を受けました。
とはいえ、土の香りのする、バイタリティあふれる音楽でした。


ジプシー音楽というのは庶民の祝祭の音楽で、つまりは舞踏曲です*4
メロディは西アジア風の、もの悲しいマイナー調ですが、リズムは実に陽気で強烈。
なにしろ、このバンドはドラムスにパーカッション*5がふたりです。
聴衆はリズムに煽られて、踊らずにはいられませんでした。


ブラス隊は、トランペットがふたりに、
チューバとバリトン*6がひとりずつ。
それぞれソロを取ってくれましたが、
猛烈なスピードで、エモーショナルなアドリブを聴かせてくれました。
会場は拍手喝采です*7


クラリネットの音色もすばらしかったです。
クラシックの澄んだ音色とは正反対の、
まるでチャルメラのような、ざらついた個性的な音色。
クラリネットとはもともと、そのような民族楽器であったのだと
思い出させてくれるようなサウンドでした。


しかし、なんといっても印象的だったのは、ヴォーカルでした。
多くはロマ語(Romany)の歌詞なのですが、
一部は訛りのある英語でした。
男女ともに、ソウルフルな歌声がたいへんすばらしかったです。
豊かなメリスマで、音程が微妙にうねるさまは、
まるで日本民謡のコブシのようです。
聴いていると、自然に胸が熱くなります。


ぼくたちには決してマネすることのできない、
民族の血によって受け継がれた歌唱法という気がしました。
あれこそホンモノというものです。


全体を通して言えることですが、ミュージシャンたちが、
ハッピーな表情で演奏していたのがたいへん好印象でした。
こういう音楽は、祝祭なのですから、しかつめらしい表情は似合いません。
ダンサーも入り交じって、2時間に渡って幸福なステージが繰り広げられました。


聴衆は全員、大満足だったことでしょう。

大地に根を張った音楽を聴こう!


この音楽を聴いて、思うことがふたつあります。


ひとつは、音楽に限らずあらゆる芸能や芸術というのは、
血が通っていなければダメだということです。


都会的な洗練というのは、バイタリティを失うこととほとんど同義です。


都会のおしゃれな音楽というのは、去勢された音楽なのです。
ちょっと見にはかっこいいかもしれませんが、
いかにもひ弱で、都会でなければ生きられないあだ花なのです。


そんな去勢された根無し草の音楽からは、
新しい命が胚胎することはありません。


大地に根を張った音楽こそ、新しい命を育むことのできる音楽なのです。
それは、伝統に根ざした音楽のことです。


マハラ・ライ・バンダの音楽は、
洗練されてはいますが、土の匂いを失わない、
バイタリティに満ちた音楽です。


なぜなら、血が受け継いできた音楽だからです。
時代の風雪に耐えてきた音楽は、ちょっとやそっとじゃびくともしません。


大地にしっかりと根を張って、自分たちの血の伝統に忠実である音楽。
それこそが、人を真に感動させ、後の世代の生命をはぐくむ音楽なのです。


都会の基準からすれば泥臭く、かっこ悪いかもしれませんが、
そういう音楽こそ、揺るぎないものです。


都会のおしゃれな音楽はあっという間に古びて朽ち果てますが、
伝統に根ざした音楽は、世代を越えて生き残ります。


そんなホンモノの音楽を、
ぼくたちは聴かなければなりません。
切れば血の出るような生き生きとした音楽を、
ぼくたちは聴かなければなりません。


伝統を守ることが第一義なのではなくて、
バイタリティのある音楽を作ろうとすれば、
自分たちの伝統に立ち返らざるを得ないだろうということです。


意識するとしないとに関わらず、
あらゆる人間は、先立つ多くの世代の、
伝統の集積として生まれているのですから。


自分が何者であるかということに誠実でないような作品は、
すなわち虚偽であり、誰ひとり感動させることなどできないのです。


ごく当たり前のことですが、
そのことを改めて気付かせてくれるステージでした。

外国音楽の猿真似はやめよう!


もうひとつは、ワールドミュージックを聴いて、
その猿真似をしてもまったくムダだということです。


マハラ・ライ・バンダがすばらしいからといって、
ジプシー音楽の教室に通うのは、あまり意味のあることとは思えません。


あの豊かなメリスマ歌唱を聴いて、
それをそっくりそのままマネできると思うなら、あなたは愚か者です。


当たり前のことですが、彼らはジプシーであり、
ぼくたちは日本人なのです。


マハラ・ライ・バンダの音楽がすばらしいのは、
「ジプシー音楽だからすばらしい」のではなくて、
「自分たちの音楽をやっているからすばらしい」のです。


こういうことを、われわれ日本人はカン違いしがちです。
だから、レゲエを聴けばすぐにレゲエのまねごとを始めるし、
フラメンコを聴けば、すぐにフラメンコ教室に通ってしまいます。


もちろん、趣味でやる分には大いにけっこうですが、
それで「表現」ができると思うなら、あまりに甘いと言わざるをえません。


それぞれの地域の音楽は、伝統音楽なのであり、
伝統は、学ぼうとして学べるものではないからです。


よしんば学ぶことができたとしても、
それには、現地の人の、幾倍もの努力が必要でしょう。


そんな努力をするくらいなら、自分たちの伝統に根ざした音楽をやったほうが、
はるかにすぐれた「表現」ができると思いませんか?


幸いなことに、日本列島には、たいへん豊かな音楽の伝統があります。
それを見つめ直して、世界中の人を感動させるような音楽を作ってみませんか?


「えー、日本の音楽なんてチョーかっこわるい」なんて嘆いても始まりません。
なぜなら、あなたはそんな「チョーかっこわるい」日本人として生まれたのですから。
さっさと受け入れたほうが、身のためです。


ダラブッカを買いに、民族楽器店へ行っている場合じゃありません。


民族楽器もまたそれぞれの地域の伝統に根ざしたものであり、
それを無視して、自己流の演奏をするほど、かっこ悪いものはありません。


もしこのバンドを聴いて、すばらしいと思うなら、
あなたは「自分の音楽」をやるべきなのです。


マハラ・ライ・バンダは、あまりに個性的で、
伝統に根ざしたサウンドだからこそ、
マネしてもムダだということが、直感的にわかるのです。


ごく当たり前のことですが、
それを改めて気付かせてくれるステージでした。


CDも出ているようですから、興味のある方は、
ぜひ聴いてみてください。


ただ、いうまでもなく、こんな音楽を聴いていても、女の子には決してもてません。


ちなみに、プランクトンでは、来る10月8日に、
ジプシーブラスバンドファンファーレ・チォカリーア」と渋さ知らズ
共演を企画しているようです。なかなか、楽しみなステージになりそうです。

*1:http://plankton.co.jp

*2:いわゆる「ワールドミュージック」に属するジャンル

*3:ぼく自身は10年ほど昔に、プランクトンが主催するアルタンALTANなどアイルランド音楽のライブにときどき出かけていました

*4:Wikipediaによれば、ルーマニアでタラフtarafと呼ばれるジプシーバンドは、婚礼の儀式で演奏することが多いそうです。

*5:ダラブッカという、片面だけ膜の張られた大きめの鼓のような打楽器。トルコを中心とする中東地域で使用される。

*6:ユーフォニアムによく似た低音金管楽器

*7:トランペットのソロで、ジャズのようにレガートではなく、タンギングを正確に使用していたのが印象的でした。フレージングも、ジャズともクラシックとも違う、独自のものという印象でした。