日本一のイカレたオケでショスタコーヴィチを聴く!!

putchees2009-02-19


今回もコンサート報告です


【今回のコンサート】
オーケストラ・ダスビダーニャ第16回定期演奏会


【日時】
2009年2月15日(日)
東京芸術劇場大ホール(東京・池袋)
14:00〜16:30


【曲目】
ショスタコーヴィチ作曲
●オラトリオ「森の歌」
交響曲第10番


【ミュージシャン】
指揮:長田雅人
バス独唱:岸本力
テノール独唱:小貫岩夫
児童合唱:すみだ少年少女合唱団
混声合唱:コール・ダスビダーニャ
管弦楽:オーケストラ・ダスビダーニャ 

ショスタコーヴィチ専門(!)オケ


マチュアオーケストラ、
オーケストラ・ダスビダーニャを聴いてきました。


ショスタコーヴィチ作品専門の、
マチュアオーケストラがあるらしい」


「爆演で、満員の客席がコーフンのるつぼと化すらしい」


そんなウワサは聞いていましたが、
これまで聴く機会がありませんでした。


今回、知人からチケットをいただいたので、
東京芸術劇場までいそいそと出かけて行きました。


聴いて驚いた。
なぜもっと早く聴かなかったんだろ!


なんてイカした連中だろう。
オーチン・ハラショー。

まさに爆演


さて、今回の曲目は
声楽とオーケストラのオラトリオ「森の歌」と、
純器楽の「交響曲10番」。


「森の歌」は、大オーケストラに
児童合唱と混声合唱
さらに別働隊のブラスバンドまでついてしまう
メガロマニアックな曲。


オーケストラ・ダスビダーニャのみなさんは、
弱音は苦手みたいだけど、強奏にはめっぽう強い。


ウワサ通りの爆演
フォルテになると、異常な張り切りぶり。


特に金管がすごい。
こんなの、プロのオケでも聴いたことない。


今回の演奏会のために結成されたという
混声合唱団、コール・ダスビダーニャも、
オーケストラに負けない絶唱ぶり。


パイプオルガンのバルコニーにブラスバンドが現れて
フィナーレを迎えると、耳をつんざく轟音


こんな大音量でショスタコーヴィチを聴けるとは!


これが、明日を知らないアマチュアオーケストラの怖さだ*1


いやあ、すごかった。


おかしな大人たちに前後を挟まれた、
いたいけな児童合唱の子供たちがふびんでならなかったよ


演奏が終わったあとでプログラムを見たら、
「森の歌」の歌詞が書かれていて、
共産主義スターリン万歳!」みたいな言葉が並んでいて爆笑しました。
そんなことを歌ってたんだ!


そんな曲を現代の日本で大まじめにやっちゃうなんて、
なんてイカした連中だろう。


もちろん、まさか彼らがソビエト共産主義思想を
信じているはずもなく、あくまで個人の趣味として
そういう曲を演奏したがっているのだから、
21世紀ニッポンはまことに平和で豊かだなあ。*2


日本のオタクの力をまざまざと見せつけられた思いでした。

ショスタコーヴィチオタク


ひとことに「クラシックオタク」といっても
いろんな人がいるんだけど、たとえば
「バッハオタク」や
モーツァルトオタク」がいたとしても、
彼らは人畜無害の素直な人たちだという気がする。


ところが、
ベートーヴェンオタク」や
マーラーオタク」
ブルックナーオタク」あたりになると、
いくぶんヤバイ。


さらに「ロシア音楽オタク」が、足を踏み外して
ショスタコーヴィチオタク」にまで至ってしまうと、
完全にヤバイ。もう引き返せない。


人間、そうとうに屈折しないと、
ショスタコーヴィチの音楽にハマったりはしないはずだ。


重症だ。


言い換えれば、業が深い


しかし、そんな負のカルマ
演奏の情熱に転化したとき、
恐るべきパワーが生まれるであろうことは、想像に難くない。

どうかしてるぜ!


さて後半は交響曲10番」
この曲は、CDで何度も聴いてるけど、
こんなにカッコイイ曲だと思ったことはなかったよ。


前回のレビューでも書いたけど、
ショスタコーヴィチの曲は、
実演じゃないと面白くないね。


さて、彼らの演奏を聴いているうちに、
妙な気がしてきた。


何かが、普段のクラシックのコンサートと違う。


…はて?


しばらくして気がついた。


それは、演奏家たちの顔つきだ。


陶然としてる。


つまり、うっとりしてる


…なんてこった。


こいつら、気持ちよくなってやがる!


ショスタコーヴィチオタクが、
自分のいちばん好きな音楽を大観衆の前で奏でて、
すっかりイッちゃってるのだ。


プロのオケなら、ありえない。


たとえ自分が好きな音楽でも、
涼しい顔をして奏でるのが、
プロの奏者ってもんだ。


ところが、この連中には関係ない。
(なにしろアマチュアだから)


自分の好きな音楽を、
よだれがたれそうな顔で演奏しまくるのだ。


なんてイカれたやつらだろう!


ひとりひとりが、まるでブレーキの壊れた超特急だ。
コーフンして押さえのきかない暴れ馬だ。


指揮者は、ステージいっぱいの暴れ馬の手綱を、
一人で必死で押さえ込もうとしているように見えたよ。
かわいそうに。

もう最高


弦がうなる。


管がほえる。
(特にトランペットはどうかしてる


打楽器がはりさける。


オケ全体が大怪獣のようにのたうつ。


うおー、スゲエ!


彼らの演奏は明らかに、いまふうの、きらびやかな
「歴史的古典としてのショスタコーヴィチ」ではない。


時代錯誤の
「世界に冠たるソビエト連邦ショスタコーヴィチだ。


だから、徹底的にモノトーンで、
ロシア的におおざっぱで、野蛮で、
押しつけがましい。*3


生演奏なのに、まるでアナログ録音のように聞こえるよ!*4


目の前にいるのは、コンドラシンか、ムラヴィンスキーか、
モスクワフィルか、ソビエト国立響か。


ああくらくらする。

ショスタコーヴィチはドSだ


唐突だけど、
ショスタコーヴィチって、ぜったいにドSだと思うんだ。
あの顔を見ればわかる。
それにそもそも、こんなムツカシくて激しい曲を
プレイヤーに強いるなんて、サディストに決まってる。


とすれば、そんな曲を演奏したがるのは、
全員ドMにちがいない。


インテリメガネのショスタコーヴィチにムチでしばかれながら、
うっとりして演奏する日本人の群れだ!


そんな演奏を聴きたがってホールに集まる客も、
言うまでもなくドM確定


客もプレイヤーも一蓮托生だ。


あなたもわたしもショスタコーヴィチオタク、
アナタもドM、ワタシもドM。


レ〜ミb〜ド〜シ〜という音型にもだえつつ、
フィナーレでめでたく昇天、エクスタシー。


ああ気持ちよかった。


そんな変態たちに囲まれて、
いたたまれなくなった普通の人たちが、
演奏の途中でつぎつぎとホールを出て行ったのは、
むしろほほえましい光景でした。

日本一の怪オーケストラ!


こんな怪オーケストラが、
ニッポンに存在することを知らなかったなんて、
みずからの不明を恥じるばかりです。


日本が世界に誇る…かどうかわかりませんが、*5
ぼくは、このオケをぜひとも世界の人に聴いてもらいたい。


少なくとも、お行儀のいい日本のプロオケよりは、
日本代表としてふさわしい気がする。


オーケストラ・ダスビダーニャは、
日本一のイカれたオーケストラだ!*6


次回の演奏会もぜったいに行きますよ。
彼らの演奏は、たとえ旅してでも聴く価値があるね。


ただ、今回は本当に自信を持って言えるけど、
こんな音楽を聴いていたら、
女の子にはぜったいにモテません*7

*1:プロなら、次の仕事のことを考えて、こんな血管切れそうな演奏はできないもんね。

*2:しかも、ソ連当局ににらまれ、日々逮捕に怯えていたショスタコーヴィチが、必死で当局にウケるように作った曲を演奏して喜んでいるわけだから、何重にも屈折している

*3:もちろん、これはほめ言葉だ。

*4:もちろんこれもほめ言葉だ!

*5:ひょっとすると国辱かもしれない

*6:これもまた、ほめ言葉に決まってる。

*7:だが、そのわりにはステージにも客席にもうるわしい女性の姿が多かったのがナゾであります。