ラビ・アブ・カリルの超絶エスノジャズを聴く

putchees2012-04-11


今回のCD


ラビ・アブ・カリル「アラビアン・ワルツ」
Rabih ABOU-KHALIL: Arabian Waltz
(独・ENJA 9059)


ナクソスミュージックライブラリー)
http://ml.naxos.jp/album/ENJ-9059

ジャズは死んだ!?


ごく個人的な意見ですが、ジャズというジャンルはとうの昔に死んでしまったと思っています。


ジャズという音楽は、60年代末以降、フュージョンだのプログレだの、あるいは一般のポップスだの、さまざまなジャンルの中に拡散してしまって、かつてジャズらしかった核心部分が消え去ってしまったのです。


世の中には、60年代前半までの4ビートのジャズこそが「ほんとうのジャズ」であると信じて、そのような音楽を演奏している人も多いのですが、ぼくはそうは思いません。*1


4ビートでいわゆるスタンダードナンバーを演奏するようなジャズは、博物館にこそふさわしく、もはや生きた音楽ではないと思っています。*2


では、ジャズは完全に「生きた音楽」として残っていないのか?と問われれば、それは断じてノーです。


ぼくは、各地の民族音楽とくっついたエスノジャズEthno-Jazzこそが、現在なお「生きた音楽」として聴く価値のあるものだと思っています。


死に体のジャズという音楽が、さまざまな民族の血を得て、ふたたび熱く熱く燃え上がるのです。


たとえばジョン・ゾーンJohn ZornマサダMasada。
たとえばブルガリアの超人、イヴォ・パパゾフIvo Papasov。
ふたりともめちゃくちゃかっこいい。そして新しい。そして生きた音楽を作る人です。


ぼくは日本の渋さ知らズも、立派なエスノジャズだろうと思っています。
日本の血を得て、ジャズという音楽が見事に賦活されているのです。

レバノン生まれのウード奏者


そして今回紹介するラビ・アブ・カリルRabih Abou-Khalil (1957-)も、まちがいなくエスノジャズの巨人のひとりです。


彼はレバノンベイルート生まれのウード奏者。母国の内戦を避けてドイツへ渡り、西洋音楽の訓練を受けて、いまはフランスを拠点にしています。


彼はEnjaレーベルから多数のアルバムを発表しています。
大きめのアンサンブルで、即興は少なめ、アレンジ多めの音楽が多い。
作曲家としての才能が豊かだからでしょう。


しかし、頭でっかちでは決してない。
即興のすばらしさはもちろん、「その場で音楽が生まれる」感じに満ちています。つまりは生きた音楽です。*3


彼の音楽は、アラブ音楽のエキゾチックな雰囲気に満ちています。
それが西洋楽器をまじえたアンサンブルで、まったく自然に聞こえてくるのがすごい。


少しも奇異ではない。
アラブ音楽の豊かな伝統が、ジャズと出会うことで、まったく新しい美を生み出したのです。
希有な「アラビックジャズ」の成功例です。


彼のアルバムはどれを聴いても面白いのですが、この「アラビアン・ワルツ」は、弦楽四重奏を加えたアンサンブルで、なんとも典雅でエキゾチック、かつ熱狂的。まるで麻薬のように美しい。


しびれます。


伊福部昭がよく言っていた「真に世界的なものはすべて民族的でなければならない」という言葉が心に響く。


真に生きたジャズを聴くなら、エスノジャズ。
エスノジャズを聴くなら、ラビ・アブ・カリルを忘れてはいけない。


ジャズが好きなら、彼の音楽を聴かないで済ますのは許されないと思うよ。


でももちろん、こんな音楽を聴いてても、女の子にはぜったいにもてないけどね!

*1:そこにはもうなにもないのです!

*2:もちろん例外はあるのですが、ここでは話が面倒になるので極論でいきます。

*3:もちろん、彼自身のウード演奏もすばらしい。