オーネット・コールマンの咆哮を聴け!(その2)

putchees2004-12-07


Dancing in Your Head/Ornette Coleman

曲目

  1. Theme from a Symphony [Variation One]
  2. Theme from a Symphony [Variation Two]
  3. Midnight Sunrise

スットコドッコイ


 オーネットは偉大なアルトサックス奏者ですが、
どっかカン違いのスットコドッコイという風情もあって、
それが彼の評価を下げているような気がします。


たとえば、ロンドン交響楽団と共演した
アメリカの空/Skies of America」(1972)。
あるいは、自作の室内楽曲と合わせて収録された
「タウンホールコンサート/Town Hall Concert 1962」(1962)
「クロイドンコンサート/An Evening with Ornette Coleman」(65)など、
思わせぶりなアルバムがたくさんあります。

しかし、オーネット作曲のオケ曲や弦楽四重奏曲はとても退屈です。
こんなもの誰が聴きたいというのでしょう
アメリカの空は巷間傑作といわれてますが、ぼくにはまだよくわかりません)。

クラシックコンプレックス?


彼にはどうやら芸術(クラシック音楽)コンプレックスがあるらしく、
自分の音楽が高尚なものと思われたがっているフシがあります。
そのためにオケや室内楽という小道具で
現代音楽に色目を使ったりするのでしょうか。


しかし!はっきりいってオーネットの音楽ですばらしいのは、
彼の吹くアルトサックスの音だけなので、
オーネットよ、ゴタクを並べないでバリバリ吹けよ、
といいたくなります
(そういううさんくさいゴタクを並べるからリスナーが逃げてしまうのだ)。


1998年に来日した折、東京フィルと共演して
アメリカの空」が再演されましたが、そのパンフに
「日本人は勤勉な国民で尊敬している」とかなんとか、
オーネットのメッセージが寄せられていて、
心底情けない思いがしました。


なにがいまどき「勤勉な国民」だ。このスットコドッコイ。

天才の音色


ところが、(渋谷のオーチャードホールで)
退屈なオーケストラのアンサンブルを破って現れた
オーネットのアルトソロには、ほんとうに鳥肌が立ちました。


これほど透き通った音で、これほど速く吹ける男は、
世界にふたりといない、そう確信させる音でした。


「糸屋の娘は目で殺す」なんていいますが、
すぐれたジャズミュージシャンは「音色で殺す」んですよ。


フレーズやテクニックじゃなくて「音色」。


たとえロングトーンひとつでも人をシビレさせることができるのが、
一流のジャズミュージシャンの条件です。


その意味で、オーネットはまさに「ジャズの巨人」です。

歌うような無窮のアドリブを聴け!


したがって、オーネットの音楽を楽しむのに最適なのは、
彼がシンプルな編成をバックに、ひたすらソロを吹きまくるアルバムです。


そこでオススメしたいのが、これ。
「ダンシング・イン・ユア・ヘッド/Dancing in Your Head」(1976)。


ファンクっぽいサウンドなので、
ロックやブラックミュージック好きの人にもオススメできます。


とはいえ、内容はオーネットのワンマンショー。


ギターにベース2本、そしてドラムをバックに、
オーネットの脳天気なアドリブが炸裂します。


ドラムがポコポコしててなんとも締まりのない音ですが、
ノリノリのベースがグルーヴさせてくれます。
オーネットのアルトもノリノリで、自然に体が動きます。


ここはやはり一曲目の
「Theme from a Symphony: Variation One」を聴いてください。


オーネットのソロは何度もクライマックスを形作りながら、
最後のテーマまでぐいぐい聴き手を引っ張っていってくれます。

「コード一発」で何が悪い!?


以前、筆者の友人が
「オーネットの音楽って、結局全部コード一発じゃん!」
と言ってましたが、たぶんそうなのでしょう。


でも、それがどうした。


コード一発でこれだけドラマチックな音を繰り出せるって、
ただごとじゃないです。


ジャズのアドリブというのは一種の芸なのですが、
そういう意味ではオーネットは
ひとつのギャグで40年間食べている芸人みたいなものです。


そういう人の「芸」は一流に違いありません。


ぜひみなさんもオーネットの至上の芸を存分に味わってください。


ちなみにオーネットにはもうひとつ
「チャパクア組曲/Chappaqua Suite」(1966)という
2枚組のワンマンショーアルバムがありますが、
これは上級者向けなので、
とりあえず「ゴールデンサークルvol.1」と
「ダンシング・イン・ユア・ヘッド」を味わってから
賞味することをオススメします。


ただし、こんなものを聴いていても、ぜったいに女の子にはもてません。



(なお、この文章は以下のURLで2004年1月31日に掲載されたものです)
http://putchees.m78.com/reviewbykeiichi.html