オーネットコールマンの咆哮を聴け!(その3)

putchees2004-12-10


これが「フリージャズ」??


 オーネット・コールマンOrnette Coleman
別にフリージャズのミュージシャンというわけではないのですが、
フリージャズと結びつけて考えられるのは、
こんなアルバムを作ったからです。


その名も「FREE JAZZ」(1960)。


このアルバム、オーネットの(数少ない)ファンの間でも
評判が芳しくないのですが、ぼくはなぜか大好きで、
10年前から愛聴しています。
CDガイドはもちろんネット上でもほとんど無視されている
トホホな作品の魅力をなんとか広く伝えたい。


というわけで以下に聴き所を紹介します。

参加メンバーは豪華!


「FREEJAZZ」には、総勢8人のミュージシャンが参加しています。
オーネット・コールマンのカルテットと、
エリック・ドルフィーのカルテット。
それぞれほぼ同じ楽器編成で4×2=8人です。


ジャケットには「ダブルカルテット」なんて書いてあります。
まあ1960年当時としては新奇なアイディアだったのでしょう。


この当時はステレオ録音の最初期で、
このアルバムでは左右のチャンネルにそれぞれのジャズカルテットを
配して録音しているんですね。


メンバーはこんな感じです。

オーネット・コールマンカルテットOrnette Coleman Quartet
エリック・ドルフィーカルテットEric Dolphy Quartet


これ、かなり豪華なメンバーなのです。

ジャズの偉人たちの協演


エリック・ドルフィーは、アルトサックスやバスクラリネット
フルートなどを駆使して、60年代前半のジャズ界を駆け抜けた異才のリード奏者。


フレディ・ハバードは、ハード・バップ後期から60年代の新主流派
そして70年代のVSOPクインテットまで、
ジャズ界の最重要トランペッターのひとりでした。


スコット・ラファロは、ビル・エヴァンスBill Evans
歴史的なトリオに参加した天才ベーシスト。


そしてドン・チェリーチャーリー・ヘイデンは、
当時のオーネットのレギュラーカルテットのメンバーですが、
このふたりも、ジャズ界で独自のスタイルを確立した一流ミュージシャンです。


こんな豪華メンバーで、いったいどんな音楽ができるか、気になりませんか?

かましいけど「フツーのジャズ」なのだ。


肝心の中身ですが、
オーネットを含む8人のミュージシャンによる即興演奏です。


さて、CDを掛けてみましょう。


「ギュワララパラララパラリラパラリラプヒプヒペロペロ〜〜〜!!!」


ぐちゃぐちゃの混沌です。
冒頭の数秒を聴いて、


「あ、こういうのキライ」


なんて言わないで下さい。
この先に、ちゃんとした音楽が待ってますから。


極めてノイジーな(意図的にやかましくしている)冒頭部分を過ぎると、
一定のテンポ(フツウの4ビート)に乗った、ひとりひとりのソロが始まります。


そして、ソロとソロのつなぎには、オーネットの筆による、
奇妙なメロディ(ブリッジとでも言うのか?)がユニゾンで演奏されます。
曲中には、とくに決まったコードチェンジはなくて、
各自自由にやってるみたいです。


ソロの順番は、ホーン4人→ベース2人→ドラムス2人です。
ソロの時間もおよそ均等で、ちゃんとバランスが取れています。


といった具合に、ぐちゃぐちゃなように見えて、
実際には事前に作られたアレンジのある、
普通のジャズのフォーマット通りの演奏なのだということがわかります
(ただし、アルバムはたった1曲、30分以上の演奏ですが)。


「フリー」といえる部分があるとすれば、
それは、決まったコード進行がないということに尽きます。

マイルスかく語りき


 マイルス・デイヴィスMiles Davisは、自叙伝の中で、当時の
オーネット・コールマンの音楽についてこう語っています。
「オーネットたちがやっていたのは、一定のテンポだけがある音楽だった」
と。


さらに、


「しばらく聴いてたら何をやっているのかわかったから、オレも飛び入りで演奏したものさ」
なんて言ってます(ホントかよ?)。


めまぐるしいコード進行のあるジャズのスタイルから離れて、
リズムだけに乗った、より自由な即興をしようというのが、
この作品の眼目です。

自由に歌おう!


オーネット・コールマンの音楽って、要するにそういうもので、
コードなんてどうでもいいから、自由に歌うように即興しようぜ!
っていつも言ってるわけです。


人数が多いからぐちゃぐちゃに聞こえるだけで、人数を減らせば、
そのまま「ゴールデンサークル」などにおける
オーネットトリオの演奏スタイルと同じになります。


以上のようなわけで、この作品が前衛と呼ばれるのは、
ちと的外れな気がしてなりません。


土臭いブルースや、リズム重視のアフリカ音楽に近い気がするのです。


なにが言いたいかというと、
「ややこしい理屈は抜きにして、気持ちよく聴こうや」ということです。


虚心坦懐に、それぞれのミュージシャンの自由な即興に耳を傾けてみましょう。


和音だとか、不自由な規則から離れて、どれだけ自在に歌うことができるか、
オーネットは参加したミュージシャンに問うているのです。

オーネットのブルースを感じろ!


もちろん、それぞれ一流のミュージシャンですから、聴きどころはたくさんあります。


エリック・ドルフィーバスクラリネット(ベースクラリネット)は、
驚くべきスピードと多彩な音色で即興演奏を繰り広げますし、


フレディ・ハバードの鋭角的なサウンドも聴き逃せません。


そして忘れちゃいけないベースふたり。彼らが奏でる異様なベースの対話も必聴です。


しかし、なんといってもこのアルバムで耳を傾けるべきは、
オーネット・コールマンのソロです。


おそらく、このアルバムのコンセプトを完全に理解していたのは、
リーダーだけだったのでしょう。


彼のソロを聴いてください。難解なところは少しもありません。


これ、何でしょうね?


さっきも書いたけど、ブルースですよ。ブルース。


オーネット・コールマンの音楽は、全て脳天気なブルースだと筆者は思うのです。


いかにも楽しげに歌っているのがわかりますか?
なんて自由なのでしょう。
そう、これが彼の目指した自由なジャズなのです。


自分の歌を、だれにも邪魔されずに歌うことが、
オーネットにとってはいちばん楽しいことなのです。
もちろん聴く側にとっても、それがいちばん楽しいはずではありませんか?


ジャイアンのような音痴なら閉口ですが、
オーネットは、最高の「歌い手」なのですから。

「イク瞬間」を探して


筆者はアナログしか持っていないので正確なタイミングはわかりませんが、
オーネットのソロの中盤、猛烈にしびれる瞬間があります。


リズム隊とオーネットが一体になって、
強烈なグルーヴが生まれる奇跡的な数秒間が確かにあるのです。
筆者は、その瞬間を聴くために、このアルバムを繰り返し聴いています。


ウェブで見かけたセシル・テイラーCecil TaylorのCDのレビューに
「ミューズが舞い降りる瞬間」というすてきなフレーズがありましたが、
この瞬間こそ、まさにそれだと思うのです。


下世話に言うならば、射精の瞬間。


それがどこだかわかる人、どなたかいませんか?
CDで持っていたら、何分何秒目かお知らせ下さい。待ってます。

ものは試しで聴いてみて!


 30分以上に及ぶ曲を集中して聴くのは疲れますが、
リラックスして聴いていても、オッと耳が奪われる瞬間が、いくつもあるはずです。


マイルスの「ビッチェズブリュー(ビッチズブルー)」を聴き通せる人なら、
このアルバムも平気ではないでしょうか。


「フリーはちょっと…」という人も、ぜひ先入観を捨てて、
楽しんでいただけることを希望します。結構いいんだから!


しかし、こんな音楽を聴いていても、女の子にはぜったいにもてません。保証します。