西洋VS日本!オーケストラのガチンコ対決を聴け!!

putchees2005-01-16


今回のCD

鳳凰三連/三木稔選集IV
MINORU MIKI SELECTED WORKS IV/EURASIAN TRILOGY
(日本・カメラータトウキョウ 15CM-223)

曲目

Disc-1
1.序の曲 [16:32]
2.破の曲 [27:27]
Total time 44:07


三橋貴風(尺八) 1
吉村七重(20絃筝) 1
田中悠美子(三味線) 1
若杉弘指揮 1
東京都交響楽団 1
野坂恵子(20絃筝) 2
山岡重信指揮 2
東京フィルハーモニー交響楽団 2
録音:1991年3月28日/サントリーホール(ライブ録音)1
   1979年4月27日/入間市市民会館 2


Disc-2
急の曲
1.Introduction:Allegro molto [5:58]
2.I.Allegro Molto [5:29]
3.II.Adagio [12:00]
4.III.Scherzando [3:00]
5.IV.Lento-Presto [8:54]
Total time 35:28


クルト・マズアKurt Mazur指揮
ライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団
日本音楽集団
録音:1981年11月12-13日/新ゲヴァントハウス大ホール(ライブ録音)

日本の伝統楽器に新たな息吹を!


愛のコリーダ」の音楽担当、三木稔(1930年生まれ)は、
(ほとんど誰も知らないけど)すぐれた作曲家です。


(多作ゆえ凡作も多いけど)すぐれた作品もあります。


彼のことがわからないというヒトは、
愛のコリーダ」をTSUTAYAあたりで借りて観てください。
あのテーマ曲に心動かされないヒトは、
たぶん音楽のわからないヒトです。


さて、その三木稔は、日本の伝統楽器を使った作品を数多く残しています。


つまり尺八、篠笛、能管、筝(琴)、三味線、篳篥(ひちりき)、
笙(しょう)や鼓、などです。


彼は、流派だとか伝統だとか、
ややこしい(非音楽的な)きまりごとに縛られた邦楽の世界から
それぞれの楽器を解放して、西洋楽器と同等の、普遍的な存在に
還元しようとしているように見えます。


彼は、ピアノやヴァイオリンに曲を作るように、
筝や三味線に曲を書いているのです。


そんな彼の活動の一環が、
日本の伝統楽器によるオーケストラ(アンサンブル)の創造です。


1964年に創立された「日本音楽集団 Pro Musica Nipponia」は、
筝や三味線、尺八、篠笛、和太鼓、鼓といった、
この島国に昔から存在した楽器をすべて集めて、
(わが国の音楽史上存在しなかった)
大がかりな合奏をしていこうという、大いなる実験です。


西洋では、あらゆる楽器を組み合わせて
オーケストラを作っているのだから、
日本でも、自分たちのあらゆる楽器を組み合わせて
合奏すればいいじゃないか、ということです。


同志の田村拓男(打楽器・指揮)、長沢勝俊(作曲)、
野坂恵子(二十絃琴)らとともに、三木稔は、
「邦楽器による新たな音楽の創造」に取り組んできました。


一般の人はだーれも知らないけど、
こんなことを地道にやってきた音楽家がいるのです。


こういうのを、真の意味で
「実験」や「前衛」と言うのではないでしょうか。


さて、それはともかく、


三木稔の「コンチェルト・レクイエム」や
「ダンス・コンセルタント」などは、
日本の伝統楽器を使った合奏作品として、
どれもすばらしいものです。


彼は同時に、日本の伝統楽器と西洋楽器とを組み合わせることにも
心を砕いてきました。


チェロと琴、ピアノと笙などを組み合わせた「結」シリーズや、
いくつかの筝協奏曲などがそうです。


1に、日本楽器の大がかりな合奏、


2に、邦楽器と西洋楽器との組み合わせ。


このふたつの道を、三木稔は模索してきました。


その最高にして最大の成果が、きょうご紹介する
「急の曲 Symphony for Two Worlds」です。

世界最古のオーケストラと日本楽器群の共演!


この曲はすごいです。


なにがすごいかというと、通常の西洋オーケストラと、
邦楽器オーケストラのふたつが、ひとつのステージに登って、
演奏するのです。


ちょっと待ってください。


ヴァイオリンやオーボエクラリネットと一緒に、
琵琶や尺八、三味線や筝、鼓がステージに登るのですよ?


そんな曲、ほかにあるわけがありません。


過去には、琵琶&尺八とオーケストラを組み合わせた
武満徹の「ノヴェンバー・ステップスNovember Steps」や、
筝独奏とオーケストラという構成の曲はありましたが、
邦楽器群とオーケストラという大規模な曲は、
誰も書いていなかったのです。


これはいわば、「西洋オーケストラVS日本オーケストラ」の
ガチンコ勝負といえるでしょう。


三管編成の西洋オーケストラが約75名、
邦楽器オーケストラが総勢16名、合計90名以上(!)の
壮絶な戦いというわけです。


西洋側を受け持つのは、こともあろうに、世界最古のオーケストラ、
あのモーツァルトW.A.Mozartが指揮したこともある、
ライプツィヒLeipzig(ドイツ)のゲヴァントハウス管弦楽団Gewandhausorchesterです。
(この曲は、そのゲヴァントハウス響の命名200周年記念の曲です)


日本側は、人数では負けていますが、音色のアクの強さでは、
西洋オーケストラには負けません。


邦楽器は、どれも打楽器的な要素が強く、この曲は
視点を変えれば、巨大なパーカッション群と
西洋オーケストラとの対決ともいえるものです。


三木稔は、みずからの邦楽器探究の旅のひとつの区切りとして、
この巨大な曲を作りました。

西洋音楽と日本音楽の異質さと共通点を探る試み


英語タイトルの「Symphony for Two Worlds」というのは、
言うまでもなく、西洋と東洋、ふたつの世界のことです。


西洋文明の精華ともいうべきオーケストラと、
日本文化の象徴ともいうべき邦楽器群、
この異物同士をぶつけることによって、
新たな美を創造しようとしたのです。


さて、この勝負(?)いかなる結果が出るのか?


曲は、全4楽章にイントロダクションがついて、
演奏時間は(CDで)36分ほどです。


2時間に及ぶマーラー交響曲ほどではないけど、
編成、演奏時間ともに、大作と言って差し支えない規模です。


ふたつのオーケストラはぶつかりあい、寄り添いながら、
ときに荒々しく、ときに静謐に流れていきます。


西洋的な部分と東洋的な部分が交替し、せめぎあいながら、
クライマックスに向かっていきます。


聴衆におもねって甘いメロディを聴かせるわけではありませんし、
かといって、ただ難解に取り澄ましたところもありません。
三木稔のバランス感覚は、ほかの曲同様、きわめて正常です。


そして、この曲から感じられるのは、作者の恐ろしい気迫です。
彼はまるで、この曲ひとつで、ふたつの世界に架橋しようとしているかのようです。


ふたつの世界の美観のへだたりを渡って、
自由に往来できる橋を作ろうとしているかのようです。


能管のマカフシギなフレーズ、三味線の軽やかなピチカート、
琴の典雅な響き、そして鼓の野蛮で鋭いアタック。


そして、西洋オケのストリングスの、分厚く濃厚な音塊。
トランペットをはじめとする金管の、華々しく明朗な響き。


ふたつの集団が一丸となって突き進むクライマックスの昂揚感は、
ちょっとほかでは得難いもの。


36分間、夢中になってしまう充実の内容です。


同じ日本人として、このような曲があることを見過ごしてしまうのは、
あまりに惜しいではありませんか。


日本人が西洋楽器を使って音楽を作ることに、
なんらかの葛藤を感じている人なら、
ぜひ一度は聴いてみてください。


ここに、その解答のひとつがあるはずです。
迷うことはないのだと。
自らの感性をストレートにぶつければいいのだと。


なお、「急の曲」は、巨大な「鳳凰三連」という3部作の1曲として構想されました。
この2枚組CDには、「序の曲」「破の曲」が併収されています。
「急の曲」には及びませんが、ほかの2曲も、聴いてみてください。


こんな隠れた名作を聴くのも、たまにはいいものです。


ただもちろん、こんなオケ曲を聴いていても、
女の子にはぜったいにもてません。